#15

「なあリク。少し酒場にいかないか?」

「別にいいけど……なんでだ?」


 寝室で寝る準備を整えていると、シュンは俺を酒場に誘ってきた。

 シュンとは時々酒場に行って情報収集をしている事を知っていたのだが、俺を誘う理由までは分からなかった。


「なんで俺をって顔だな? それは今日の色々を見て僕が死んでもおかしくないと思ったからだよ」

「あんまり死亡フラグ立てるなよ?」

「死亡フラグを恐れて何もしないってのは、僕が死んだときに困るだろ?」


 なるほど、つまりシュンはもし自分が死んだときに自分の代わりを俺にさせようとしているのか。

 まあこれも経験だし行くのには問題ないけど、そんな最悪の事態にはならないで欲しいね。

 俺は仲間が死ぬなんて、多分耐えきれないから。


「ここが僕のよく行く酒場だね」

「ほうほう」


 シュンに案内されて辿り着いた酒場は、貸し宿のすぐ近くだった。

 中は鉄級から銀級くらいの一般的な冒険者で溢れかえっていた。

 金に余裕が出てくると、みんな酒場で一日の疲れを癒しているのだろう。

 俺達は端の席に二人で座り、いつも飲んでいる安酒を頼んだ。


「普段はこうして色んなパーティの人と飲んで情報を集めているんだ」

「へえ、凄いな。どうかな、俺にはちょっと難しいかも」

「大丈夫、大丈夫。世話焼きなタイプの先輩冒険者を見つければいんだよ。例えばあそこのジェイス先輩なんかは、後輩思いのいい先輩冒険者だよ」


 シュンが指さした人物、つまりジェイスさんは大柄で豪快に酒を吞んでいた。

 周りの人の雰囲気を見る限り、確かにジェイスさんはいい人そうだった。


「僕ももう何回ジェイスさんのお世話になったか数えきれないよ」

「そうなのか?」

「うん。冒険者としてのイロハは全部ジェイスさんが教えてくれたんだ。ジェイスさんは剣士だから協会での研修から全てね」

「なるほど、そう言う事だったのか」


 協会の研修で俺に魔術を教えてくれた先輩冒険者はなんだか会話が出来ないタイプだったので、正直あまり会いたくない。俺もジェイスさんみたいな人に教えて貰いたかったな、と思ったりしてみた。


「おい、あれって『新星』ニュービーじゃないか?」

「ああ、そうだ。最近話題の異邦人パーティ。グランザ最速の銀級冒険者だぞ」


 突然酒場全体が騒がしくなった。

 みんな入口の方を一斉に見る。

 釣られて俺も振り返ったしまう。

 皆の注目を集めていたのは、いかにも強そうな五人の冒険者パーティだった。

 周りから聞こえてきた声を信じるなら彼らは『新星』ニュービー、と呼ばれている異邦人のパーティらしい。

 ――――つまり俺達と同じ日本出身の人で構成されたパーティという事だ。


「なあシュン」

「なんだ?」

「ちょっと前、シュンは俺に意図的にパーティのバランスが崩れるように作られているって言ったよな。今、俺はその言葉の意味をしっかりと理解したよ」


 意図的にバランスが崩れるように作られてたわけではない――――ただの余りもの集団。それが俺たちが歪な職業構成のパーティになった原因であり真実だった。


「シュンは悔しくないのか?」

 ふと平然とした顔で『新星』ニュービーを見ているシュンが気になった。

「いや、悔しいよ。そりゃぁ悔しいさ」


 それでもシュンは表情を変えず、ただ一心に『新星』ニュービー達を見ていた。

 そして俺も『新星』ニュービーの姿を目に焼き付けていた。


 『新星』ニュービー達は俺達の近くの席に座って、酒を呑み始めた。

 勿論俺達と同じ安酒ではなく高い酒、それも俺達五人の一日分の生活費が一杯で飛ぶような酒だった。


「景気いいねぇ」

「ああ、本当だな」


 それに比べて俺達はこんな安酒だって贅沢の部類に入る現状だ。

 なんだか同じ時期に同じ世界に来たのに、ここまで差が生まれると思うと更に悔しくなってきた。


「スメラギ」

 そうシュンは小さく言った。

「今なんて?」

「スメラギだよ。『新星』ニュービーと呼ばれているパーティのリーダーの名さ。ほら、あのデカい大男」

「ああ、あれか」


 スメラギは見るからにワルって雰囲気を醸し出している男だった。

 酒場にいるだけなのに、殺気立っていて誰も『新星』ニュービー達に話しかけないのも頷ける。

 あれに話しかけれるのはスメラギと同じ銀級以上の高ランク冒険者か、よほどのバカだろう。


「そこ私が良く使ってる席なの。どいてくれない?」


 世の中にはある程度どうしようもない馬鹿だったり、死ぬほど空気の読めない人間がいる事を、俺は人生経験からある程度知っていた。

 そう、あの状態のスメラギにどいてくれと話しかける銅級の冒険者、それも女の子(一人)が現れたのだ。

 彼女は間違いなく、後者の死ぬほど空気が読めない人間なんだろう。

 そしてスメラギが彼女に対してキレる所までは簡単に予想が付く。


「何? おい、もう一回言ってみろよ」

「だから、そこをどいってって言ってるのよ」

「ああ、すまない。俺様ちょっと耳が遠くてな、もう一回言ってくれるか?」


 ほら、こうなった。

 スメラギは例の空気が読めない彼女に対して、本気でキレているのが分かった。

 少し離れている俺にも明らかな殺気が感じ取れた。

 これはちょっとマズいかもしれないな。

 もしスメラギが暴力行為に走った場合、女の子に危険が迫るのは間違いなかった。


「だから、席をどけて欲しいの。今日くらい仲間と――――」

「クソアマが俺様に指図するな!」


 ヤバイと思うよりも先に体が動いていた。

 スメラギが力一杯に拳を握って、腕を振り回す。

 イメージは師匠の技をいなした時と同じだ。

 力を正面から受けずにそのまま流す!

 俺はスメラギと少女の間に入り込み、スメラギの拳を受け止めた。


「なんだ、お前?」

「アンタ誰よ!」


 ちょっと待て。

 スメラギの台詞は理解できる。

 だけど少女、君に関してはなんで俺に対しても喧嘩腰なんだ?


「俺はそこら辺の一般冒険者だよ。見てられないから止めに来たんだ」

「調子乗ってんじゃねぇぞ! ゴラァ!」


 スメラギのキックが俺に直撃した。

 この至近距離では防御も間に合わず、内臓に来たのでかなりの痛みが体を走った。


「ヒール……ってあれ?」

「いてててて……ってヒールを俺に使ってくれる流れじゃないのか?」

「いや、ヒールが使えるのに使えないの。なんで、なんで、なんで?」


 少女の表情が絶望に染まり、少女はその場に屈みこんでしまう。

 泣いているのだろうか。

 この状況はスメラギも予想外だったのか「興が覚めた」、とだけ言って『新星』ニュービーのメンバー諸共酒場から出て行ってしまった。


「おい、シュンのパーティメンバー」

「は、はい!」

「後は俺達に任せときな。俺はジェイス。この街の銀級冒険者だ」


 後ろを振り返れば、ジェイスさんとそのパーティメンバーが揃っていた。


「本当は今すぐお前さんを褒めたい所なんだが、そこの彼女がちょっと訳アリでな。すまんよ」


 ジェイスさんはそう俺に耳打ちしてからパーティメンバーに指示を送り、白魔術師の人が泣いている少女に魔術を使った。

 あれなんだかあの少女見た事あるような――――って今日の帰りにヒール! と叫んでいた少女じゃないか!

 となるとあの少女は今日仲間を二人失っている。

 ああなるのも仕方ないだろう。


「冒険者にとって、酒場は狩場の次に仲間との思い出が残っている場所だからね。彼女にとってここは大切な場所だったのだろう」


 席に戻ると、シュンは悲しそうな声でそう言った。

 もしかするとシュンは最初から、あの少女と帰りに見た少女が同じだって事に気が付いていたのかもしれない。


 なんだか楽しく呑むって雰囲気ではなくなってしまった。


「帰るか」

「そうだね、帰ろう」


 翌日、俺は師匠の所で修業をしていた。

 今は投げナイフや索敵などを中心に、実践的な事を教えて貰っている最中だ。


「そう言えば師匠」

「なんだい」


 ふと昨日の不思議な現象を思い出した俺は師匠に事情を説明する事にした。


「それは固有魔術だね」

「固有魔術?」

「ああ、私は持っていないから詳しい事は分からない。でも固有魔術を持っている冒険者はそれなりにいるね」

「その、俺は固有魔術が具体的に、どういうものなのか知りたいんです」

「ああすまないね。固有魔術ってのはその魔術を持っている人しか扱えない、既存の魔術とは別次元の魔術の事さ」

「つまり俺だけの魔術って事ですか?」

「そうなるね。固有魔術は生まれた時から保持している事もあるけど、後天的に獲得する事もできる。ある高名な魔術師によると固有魔術はその人の想いの具現化、だそうよ」


 俺の未来視は俺だけの魔術……?

 魔術なら自分で制御できそうだけど、既存の魔術とは別次元の魔術って事だから自動で発動したのか?

 分からないことだらけではあるけど、取り敢えずあの現象がなんなのか分かったのでヨシとしようか。


「一つ言い忘れてたけどあまり固有魔術を過信するんじゃないよ。その強い力に溺れて、死んでいった冒険者は星の数ほどいる。それを忘れないことね」

「わ、分かりました」

「じゃ、今日の修行を再開するよ」

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