EPISODE2:森林の魔女
001:成果報告任務
『これはキーですわ』
「キー?」
『ええ、スパコンでも百年以上計算しないとわからない暗号のキー』
シェルター内部。ベッドと最低限の家具しかない自分の部屋で、俺は早速手に入れたデータをフワリィ嬢に送っていた。もちろんコピーは取ってあるものの、これを送らなければ依頼達成にならないからな。ウィンドウに表示されたのは不規則な数字とアルファベットの群れ。
これ単体ではまったく意味不明だ。
「何を開けるキーなんだ」
……なんてな。このゲームの結末は知っている。
俺はこのキーが何を開けるものか知っているのだ。これ一本で役に立たないことも。
『さぁ、それは言えませんわ。もっとも……今後も協力してくれると言うのなら話は別ですが』
「内容次第だ。確約はできないね」
『ちぇっ、ではまた目処がついたらご連絡いたしますわ』
「報酬は……」
『ええ、教えられた口座に振り込んでおきます。パーツの修繕費もね』
「どうも」
そう言ってウィンドウを切ろうとすると、挙手をして止められた。
いったいなんだろうと、手を止める。
『ヤマト様は今回襲撃してきた連中は、何が目的だと思いますか?』
「さてね。アンタと同じなんじゃないか?」
『ではこれからも戦うことになるでしょうね……』
「だろうな」
『ありがとうございました。それでは失礼いたします』
そう言って、先んじて電源が切られた。
俺はキーの入ったUSBメモリを掴み、ぽんと放ってみる。キーは全部で十四本ある。それはこの惑星の何処かにある十四機のスパコンが計算しているということだ。
……もっとも、ゲーム本編でもそうだったが全部集めなくても良い。
七つ、いや少なくとも五つ集めれば既存の技術で暗号を解くことが出来るだろう。
多少時間がかかったとしても、だ。
そうなる前に、全てのスパコンを破壊しなければならない。
手に入るのはとてつもない力を持った兵器なのだから――。
「どんな兵器も使い手次第か……」
もっともアレがあれば――例えばこの惑星の氷を溶かして、もっと人類が住みやすいものにだって変えてしまうことが出来る。七大企業を全て統治することだって可能だろう。
実際に、そういうエンドだって存在する。
正しい人間の手に渡れば、
だが、最悪の場合――この惑星は滅ぼされることになるのだ。
それを防ぐのに、もっとも容易い手は――。
「最低でも九機以上のスパコンを破壊すること……」
しかし俺は既に五機のスパコンを、師匠とともにかつて破壊している。
ゲーム原作で場所がわかっていたもので、それ以外の場所はわからない。
いや、わかっていたとしても――モブには難攻不落で、破壊したくても出来ない場所にあった。
俺はそのままベッドに倒れた。
残りのスパコンは九機。内、一機分を主人公陣営が手に入れた。あと四機分を主人公達が手に入れる前に、残ったスパコンを見つけて破壊しなければならない。
データが未回収のスパコンは残り八機――最低でも五機の破壊が必要だ。
「…………あるいは先んじて兵器を手に入れるかだな」
そのためにはフワリィ嬢と組むのが得策だ。
彼女の素性など、数行程度のゲームログでしか知らないのだが……。
まぁ流石に惑星が滅ぶようなことはしないと信じたい。
「師匠、どうしてんだろうかな」
俺は考えをまとめるように独り言をのたまいながら、そのままウトウトと眠り始めた。
その眠りを妨げたのは、イヤホンからの着信音だった。
「チッ、なんだよ……」
ウィンドウを見てみると、アンドーと書かれている。
どうやらアンドーからの通信みたいだ。俺はイヤホンのボタンをタッチし、それに出た。
ウィンドウにテレビ通話が映る。あの胡散臭い糸目の男が現れた。
『よぉ、ヤマトはん。お休みの途中やったか?』
「ああ、何の用だ?」
『ライズはんやったの……自分?』
「……………………」
ど、どう答えようか。しらばっくれるか?
いや、こんな質問をしてくるということは大体の目星はついているな、うん。
となれば、答えは一つだ。俺は意を決してアンドーを睨んだ。
「依頼がかち合ったんでな。向こうが殺そうとしてきたのに責任とれなんて言わないよな?」
『間接的にはとってもらう形になるかのぉ』
「というと?」
『ライズはんに渡すはずやった依頼があるんや。それをアンタにやってもらいたい』
「…………内容次第だな。俺にも出来ることと出来ないことがある」
『ほな、これを見てもらおうか』
一瞬、脅されるかと思ったが、現れたのは氷結林だった。
この氷の惑星において大樹を伸ばしている森林地帯。寒さにめっぽう強い品種ってことだな。
そこを走る氷上船。コンパスのエンブレムを見るに――アンドーの船なのだろう。
しかし次の瞬間、氷上船の甲板に何者かが乗ってきた。
周りに見張りの空き缶ロボ達がいるというのに、まったく気づかれずにだ。
そのロボは操舵室の窓にショットガンを向けたかと思うと――。
そのままブリッジを撃ち抜いた。
そこで映像は終わって、再びアンドーが画面に映った。
『この後、残ってたんは破壊された氷上船と護衛の残骸だけやった』
「へぇ」
『”森林の魔女”――と部下達は呼んどる。アンタにはそいつの討伐を頼みたい』
ベッドのクッションに思わずもたれてしまう。
”森林の魔女”か。聞いたこともない二つ名だ。
思うに、襲撃は今回だけじゃないということかね。
一回の襲撃ならば、わざわざ部外者に報復を頼むような真似はしないはずだ。
「森林の輸送ルートを妨害されてるってことでいいのか?」
『せやね。単純に商売の邪魔やし……それに氷結林には遺跡があるねん、そこを調べたい』
「そのためには襲撃してくる魔女が邪魔――と」
ふぅむ、と唸った。
遺跡は俺も興味がある。ひょっとしたら暗号キーがあるかもしれないしな。
しかし……女を商品として輸送するような連中だ。
この襲撃が正義のもとに行われている可能性だってあるわけで……。
「調査だな」
『というと?』
「討伐ではなく調査。俺達じゃ太刀打ちできない相手の可能性もある。空手形は切れん」
『調査はしてくれるんやね』
「満足な結果じゃなきゃ報酬は払わなくて良い。それでどうだ?」
『まぁええやろ……。それじゃあお願いするで』
そう言って通信が切れ、ウィンドウが閉じられた。
アンドーのギャング組織、いつかはどうにかしないとな。
と言っても、モブの俺じゃあちょっと荷が重いか。
あの街の治安が良くなれば、自然と解決するんだがな。
あそこらへんはちょうどいろんな企業からの干渉が弱い地域だ。
だから傭兵達が集まるのである。
「ともあれ、寝るか」
再び横になり、まどろみに入る。
途中、部屋の扉が開いた気がしたが戸締まりは完璧だと思い、気にしなかった。
…………翌日、隣にレイルが眠っていることに気づくまでは。
「んあっ♡」
寝ぼけてうっかり思いっきりケツを揉みしだいてしまった。
喘ぐな。どうやって開けたかと聞くと、イーリエにハッキングを学んだそうだ。
ヴァルチャーを派手にぶっ壊した嫌がらせか?
物理錠に変えるしかないな、うん。
◆ ◆ ◆
「~~♪」
最近フワリィお嬢様は上機嫌だ。例の古代遺跡の研究が上手く行っているからなのか、それとも新しい交流を見つけたからなのかはわからないが。長年仕えている吾輩としても嬉しくなる。
「通話は終わったのですかな?」
通信ルームから出て、廊下を歩いているお嬢様に声をかける。
吾輩を見た瞬間、緩んだ顔がきっと引き締まった。
「ええ、ザンス特務官。ちょうど知り合いと連絡していまして……」
「それは良かった。知人が増えるのは良いことですからね」
「…………部屋の外で待ち構えていて、何をおっしゃいます」
はぁ、と小さく溜息を吐くお嬢様。その一挙手一投足が可愛らしい。
まるで拗ねた子供のようだ。
「どのような方なのですかな?」
「わたくしと歳の近い男性の方ですの。色々有益な意見を聞けましたわ」
「ほう、しかしお嬢様には許嫁がいたはず。籍を入れる日も近いのでは」
「別に……ただ通話をしただけでしょう?」
お嬢様の顔が「マジうっとおしいなコイツ」と言わんばかりに歪む。
ここまで露骨に態度に出すのは、吾輩が信頼されているからに他ならない。
「そういえば、特務官が回収した人員というのはどういたしました?」
「強化兵士の製造計画ですか。まぁめぼしい成果は――ああ、でも一人適合者がいましたよ」
「へぇ?」
「全身が焼けただれ、下半身も潰れている有り様でしたが……今培養液に浸かっている途中です」
お嬢様の顔が「話逸らすために振っただけなのにドン引きなんだよ」と言わんばかりに歪んでいる。ああ、やはり吾輩は信頼されているようだ。
「強化兵士など……もう一つ動かしている新人類プロジェクトの方がいいのでは?」
「新人類はあいにく数が少なくてですね……解体するのももったいないですし。もちろん専用機は作っていますが。それに、そもそも」
そう言って、吾輩は片目を覆っている緑色の髪を払った。
そろそろ髪を切るべき時期なのかもしれないな。まるでワカメみたいな頭になっている。
この髪色はなかなかプリティで好きなのだが。
「吾輩自体が新人類ですからな。同胞を手に掛けるのはいささか心苦しい」
「……ふん。一つ、いや二つ命じていいですか?」
「なんでございましょう」
お嬢様はそう言って、びしりとこちらを指差してきた。
「一つ。わたくしの前で息をしないこと」
「無理ですな」
「一つ。氷結林の”魔女”とやらを調査してほしいのです」
「ああ……森林ルートの通行を妨害しているという賊ですか。最近話題になってきてるらしいですね。もっとも、そんな小物――野良の傭兵に任せればいいでしょう」
「森林に遺跡が発見されたのですよ」
「ほう」
遺跡か。旧時代の遺産にはかなり興味がある。
最近開発が進みつつあるフロートデバイスも、遺跡からのデータから再現されたものだった。
気晴らしに多少は軍人らしいことをしてもいいか。最近研究ばかりだったからな。
吾輩はお嬢様に敬礼し、高らかに自分の名を謳った。
「了解いたしました。ザンス・ブラッディマリー、出撃させていただきます」
「ええ、できればそのまま二度と帰ってこないでちょうだい」
もしかして吾輩は嫌われているんだろうか。
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