第28話 僕が間違ってました
『トニーさん、やっぱり僕があってましたよ。蛇は殖えてます!』
にょろにょろと迫ろうとする蛇たちを睨みつけながら僕は頭の中で解体所のトニーに文句を言った。
思ったとおり蛇は殖えていた。豊富な餌と安全な生活環境があるのだから当然だろう。
蛇たちは僕が切り開いた広場の端から僕たちを半包囲の状態だ。
いきなり広い場所に姿を現すのは不安があるのか、にょろりと頭を少し草むらから広場側に出して様子を確認している。
蛇は止まって鎌首をもたげると、まるで誰を食べようかと僕たちを値踏みするかのようにチロチロと舌を出し入れした。実際は値踏みではなく匂いを嗅ぐための行為らしい。
蛇によっては獲物の目を狙って毒液を吐きかけてくる種類もある。
幸いウワバミルは毒蛇ではない様だ。毒ではなく巨体で獲物を圧倒するタイプなのだろう。
アランたちが蛇に巻きつかれてしまった理由は草むらを直接、体で掻き分けて進んでいたため気づかぬうちに蛇に至近距離まで近寄られてしまったためだろう。
正確には、そもそもウワバミルの存在を知らないわけだから近寄られてしまうも何もないし自分たちから生息地に入っていったのだから、そりゃ巻きつかれるはずだ。
僕は棒をぶんぶんと振り回したり足元の草を棒の先ですくっては蛇に投げつけて時間を稼いだ。ジャンたち三人がそれぞれ弟を背負って駆けだした。
蛇は草をぶつけられるのは嫌なようで身体に草が当たると頭を反転させて一度草むらに戻っては少し離れた場所から再び顔を出してきた。
草をぶつけられるのは嫌だが目の前の獲物である僕らを諦めるのも嫌なのだろう。
そういった半端に草むらから頭をだしている蛇の数が次第に増えていく。
お互いに牽制し合っているようで、誰が最初に飛び出すか様子を窺っている節があった。
大体において巨体なのだから少しくらい草をぶつけられたところで実際は痛くもかゆくもないだろう。
どこかのタイミングで一斉に飛びだして来られたら詰みそうだ。
かといって、半包囲している蛇に気を取られている隙に道の左右の草むらから忍び寄られている可能性がある。
僕は左右の草の壁を棒で薙ぎ払うようにして根元の土を消滅させて倒した。
案の定、そちらから忍び寄っていた蛇がいて、倒れた草の下で慌てて身を翻して戻っていく。
僕は追って来る蛇を牽制するため、弟たちを背負った三人組が一列になって逃げていく後方で後ろ歩きだ。
末端探索者の三人組は体力がないため人を背負った状態で速くは走れない。
本人的には全速力を出しているけれども客観的には精々小走りのスピードだった。
にょろりと迫る巨体の蛇のスピードと大して変わらない。
というか、人を背負って三百メートルを走れという話は、なかなかの拷問だ。
早く蛇を振り切りたいところだけれども、その前に三人組の体力が尽きそうだった。僕がしばらく蛇を牽制して気を引かないと。
僕は棒を振り回し、草を投げつけ、偶に突出してくる蛇がいたら頭を叩いて消滅させてと、とにかくやみくもに動き回った。
反復横跳びの要領で左右に跳んでは棒を振り、可能な限り左右の草むらを倒していく。
僕は大体六、七メートルくらいの幅の道を切り開きながら撤退しているような状況だ。
少しずつだが蛇との距離が開いていく。
蛇は同時に顔を出しているわけではないけれどもトータルで二十匹ぐらいはいるだろう。
最初の三匹を除いて五匹くらいの頭を消した。
前触れもなく、突然、一斉に蛇が止まった。
ピンと鎌首をもたげて停止すると、それ以上は僕を追わずに首を草むらに向け、まるで逃げる様に姿を消した。
助かった。
何か縄張りの終点的なラインを越えたのだろうか?
これ以上は獲物を追わずに諦める線、みたいな。
もしくは、この先は人間の縄張りだ、みたいな。
とはいえ、消えたと見せて一斉に出てくる作戦なんてことがあるかも知れないから蛇に警戒を向けたまま僕は後退る。
こつんと背中が誰かにぶつかった。
僕のすぐ前を逃げていたのはジョーとトムコンビだ。
疲れて足を止めたのだろう。
「もう大丈夫みたい。奴ら、引き返していったよ」
声をかけつつ僕は振り向いた。
ジョーとトムコンビだけではなく、その前のジャックとエド、先頭のジャンとアランも立ち止まっていた。
だけではなく、じりじりと後退っている。
「何?」
「駄目だ」
先頭でジャンが囁いた。
小さな声だが距離が近くなっていたので十分届いた。
ジャンの目は前方を見つめている。
ジャックとジョーも同じ場所を見つめているようだった。
僕の位置からでは前は見えない。
背中の三人組はぐったりとしていてそれどころではなかった。
僕は草の壁に体を圧しつける様に少し横にずれるとジャンたちが注視している前を見た。
前方十メートルくらい先の道に、ちょっと前に見た覚えのある景色があった。
丸太のような何かが横断している。
見覚えはあったが、太さが以前の比ではない。直径五十センチはありそうな蛇の胴だ。
長さは想像もつかなかった。
直径三十センチの蛇ならば跨げるけれども直径五十センチとなると人を背負ったまま気づかれずに跳び越えるのはちょっと無理だ。踏まないと乗り越えられないだろう。
馬鹿な。
そもそも近づく時点で発見されてしまうはずだ。
いや、僕たちは、もう蛇に発見されていた。
前方の蛇の胴体が、おそらく繋がっているだろう左側の茂みが激しく揺れた。
にょきりと道から十メートルくらい左奥で何かが立ち上がった。
赤黒い茶色い鱗に太い輪の文様が幾つもある巨大なウワバミルの頭が人間の身長よりも高い草の上、さらに五メートルくらいの高さから僕たちを見下ろしていた。
舌がチロチロと出入りをして匂いを嗅いでいる。
僕たちを追っていた蛇が逃げる様に消えた理由は、まさしくこいつだ。
単純に自分たちを捕食する相手が目の前に現れたから逃げたのだ。
蛇は案外と共食いをする。ネズミの他に蛇も食べてこいつは育ったのだろう。
『トニーさん、僕が間違ってました。やっぱり奴ら際限なく大きく成長しています』
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