第2話 風野カエデの災難
私、風野カエデは追い詰められていた。
「ぐりちゃん!私って飛べる!?」
『ったり前よ!おら!!』
グリちゃん、私の契約モンスターのグリフォンが私に力を与え、背中に羽が生える。
宙に浮いた瞬間、私がいた場所にはとんでもない渦を巻いた波動砲が打ち込まれ、地面を抉っていた。
『おいおい....こんなの聞いてないぜ...?』
「ちゃんとBレートの仕事を取ってきたんだけど!?どうなってるの...?」
私たちは正統契約団体、通称協会から仕事を貰って活動をしている。討伐からアイドルから諸々。レートが高いと自分の仕事を沢山選べるのだけど、私はまだB+レートなので討伐くらいしか取れるものがない。
だから1レート低いBレートの討伐を受けたんだけど
「これどう考えてもBレートじゃなくない!?」
『さっきの砲撃だけならS-はいくぞ!』
「やばいじゃん!!!」
私たちが今相手をしているのは、女郎蜘蛛のめちゃくちゃデカいやつ。本来はもっと小さいのが相手だったはずなのに。
『てかそもそも蜘蛛なら糸使え!!なんで波動砲打つんだよ!!』
「まじそれ!!!」
軽口を言い合いながら全力で攻撃を避ける。そろそろ魔力が尽きてきて、力が落ちてくる。
瞬間、背中の羽が無くなり、地面に落下してしまった。
『ッ!まずっ!!』
グリちゃんの焦った声が聞こえる。そっか、もう尽きたのか。
魔力も尽きて、運も尽きた。このまま終わっちゃうんだ..私....
どうせだったら、王子様とかに出会って女の子みたいな恋がしたかったなぁ...
地面に直撃する瞬間、私の体に来たのは落下の衝撃ではなく、誰かに抱えられたような感覚だった。
目を開けると、誰かが私の事をお姫様抱っこをしていた。
もももももしかして...!
「王子様...?」
「ごめん、違う」
聞こえたのは私が想像していたのよりも何倍も高い声だった。なんなら私よりも背が低い女の子。
銀色の髪をなびかせ、何を考えているか分からないような目をしている。
「あなた、契約モンスターは?」
「えっと、魔力切れで、引っ込んじゃって」
「そう」
彼女はそう言うと、地面に私をおろし、目の前に背を向けて立った。
「そこで休んでて」
1歩、前へ進んだ。
「まって!!あいつレートが違う!強すぎるんだって!!逃げて!!」
私が叫んでも、彼女の歩みは止まらない。
女郎蜘蛛が近づいてくる気配に気づいたらしい。口をカチカチ鳴らして威嚇をしている。
どうするんだろう、勝てる見込みがあるの?
とてもじゃないけど力があるとは考えられない。
「___顕現」
ぽつり、彼女が呟いた。
瞬間、彼女の中から大きな黒い影が飛び出してくる。
よく見ると、影ではなくモンスターだった。
そのまま彼女に纏うように絡まると、
彼女の右手を食い破った。
「___ぇ?」
食われた場所からはとてつもなく血が流れている。こちらからは分からないけど左手に力がかなり入っているから恐らく彼女は痛みに耐えているんだろう。
なんで、契約モンスターは契約者を傷つけないんじゃないの...?
黒い影は手を食べたあと、彼女から溢れた血の溜まりに潜った。
瞬間、流れ出ていた血が止まり、流れていた血が海のような水色に変わった。
元出た場所にその色が違う血が無くなった右手の中に戻り、魚の群影が彼女の周りを囲んだ。
「....なにが、起きてるの...?」
彼女を囲む影が無くなった後、姿が変わった。
光をそのまま反射する銀色から、黒と白色の首辺りまでの髪に、服装は素っ気ないものから装飾が施された見た事ない服に変わった。
見た目だけではない。まとう雰囲気も変わっていた。
右手もいつの間にか再生している。
「.....一撃で終わらせるよ」
だれに言ったのか分からない言葉を発したあと、またゆっくりとブーツをカツカツと言わせて蜘蛛に近づいて行った。
敵対者を目視した蜘蛛は突撃してきた。
「___あっ、危ない!!!避けてーーーー!!!!」
届かない声を響かせ、彼女を見る。
「_____
そう彼女が言うと、背中から大きな口が飛び出し、あんなにでかかった蜘蛛を覆った。そして
ぷちゅん。
口が閉じたかと思うと蜘蛛は縦に潰れ、跡形もなくなった。
残ったのは、私と彼女だけ。
「.....」
彼女はこちらを振り返り、歩いてくる。
なにか話そう。疑問がいっぱいあるの。
「ーーねぇ、あなたは」
そういった瞬間、彼女が纏っていた特殊な雰囲気が無くなり、姿も最初に見たままの姿に戻った。
そのまま膝から崩れ落ち、右手を抑えるようにして蹲り、
「い”ぅ”......ぁ”ぁ”ぁ”っ”」
悲鳴にも似た呻き声を上げ始めた。
なんで、どうして。
確認しようとすると、姿が変わった時には再生していた右手が、
まるで、最初から無かったかのように消えていたのだ。
断面があるとかでは無い。まるで球体関節のように丸くなっていた。
「ぇっ.....」
絶句してしまった。だめ、助けてもらったのにこんな反応をしちゃいけないのに。体が異常を感じて動けなくなってしまった。
「ヅッッゥ.......フーゥ.....ン”ン”っ”」
私を正気に戻したのは歯を食いしばって痛みに耐え、なるべく声を抑えようと自分の服を荒々しく掴んでいる彼女の姿だった。
「だっ大丈夫!?なんで右手が..じゃなくて」
「ぁ...安心して....魔力が戻ったら....ッ”っ”ぅ”....戻るから...」
痛みに耐えながら彼女はそういうと、糸が切れたように意識を失った。
私たちコントラクターは、時間経過で魔力が戻る。つまり倒れた彼女は時が経ったら元に戻るのだろう。
だからと言ってこの状況で助けないなんて行動はしたくない。
「グリちゃん」
『おうよ!復活だぜ?』
決めた。
今度は私が救う番。
「この子を家に連れて行って、なんとかしてみせるよ。」
まだ感謝も伝えられてないんだから。
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