ニャルテCh〜異能者の俺、同級生に誘われて世界初のダンジョン配信始めました〜
名ノ桜
第0話 ダンジョンからお届け!
配信開始まで一分前。
“もうすぐ始まる(((o(*゚▽゚*)o)))”
“ニャル隊ここに待機中……”
“♪───O(≧∇≦)O────♪”
“あと1分”
“よし間に合った”
とある配信プラットフォーム『ムープロ』で活動するアカウント『ニャルテ/ nyarute ch.』。
そのアカウントの所有者であるニャルテの緊急配信が、今、始まろうとしていた。
配信が始まるまで、あと十秒。
まだ始まってすらいないというのに、待機人数は脅威の五千人。
その数字を見た俺は驚きを隠せない。
凄い。ただリアルタイムで映像を届けるだけだというのに、始まる前からこんなに大勢の人達が集まるのか。
配信に疎いこんな俺でも分かる。
これはひとえに彼女の人気。いや、彼女達の努力の賜物なのだろうと。
「コン。もうすぐ始まるけど、準備はOK?」
ニャルテチャンネルの持ち主である少女『ニャルテ』の言葉に俺は頷いた。
「ああ、いつでも」
「そう。じゃ、さっき伝えた通りによろしくね!」
「ああ」
初めての配信。着慣れぬ衣装。そして俺が手に持つは狐の面。
俺はこれから、一人の少女と共に配信に出る。
俺が今から演じるのはコンというキャラクター。『ニャルテ』のコンとして、俺は配信という舞台に立つのだ。
俺は手に持っていた狐の面を被る。彼女もまた、自身の手に持っていた仮面を着けた。
俺の仮面は狐で、彼女のは猫。
チラリと目を配ると目についたのはコメント欄。画面に映るカウントダウンに合わせて、視聴者は、カウントダウンを始める。
“カウントダウン開始!10!٩( 'ω' )و”
“9(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾”
“8!”
“8☆彡”
“7”
“ロク〜”
“もうすぐ来る!”
“5ッ!”
“4。”
“間に合った”
“三♪( ´θ`)ノ”
“2”
“お、ちょうどや”
“1”
カウントダウンがゼロになった。
画面がパッと切り替わり、映し出されたのは一人の仮面少女。仮面は鼻元まで隠せる形で口元は見えている。
「ニャル隊の皆、こんばんは〜!今日もニャンとかなってるかい?ニャルテだよ〜!今日はなんと!ダンジョンからのお届けです〜!」
カメラの前で、天真爛漫な身振り手振りをしてみせるニャルテという少女。
コメント欄はというと……
自分達の推しである配信者『ニャルテ』の配信がようやく始まったと大騒ぎになっていた。それと同時に、配信場所がダンジョンだということに驚きを隠せないでいるようだ。
“ニャルテ〜”
“今日もかわっ”
“え?ダンジョン?”
“可愛い”
“顔見えてなくてもめちゃかわ”
“ダンジョンで配信って何?”
“☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆”
“待ってた!!”
“かわいい”
“ダンジョンマジか”
“あああああああ!好き!”
目まぐるしく更新されてくコメント。
彼女の配信にいる視聴者達の反応は『ニャルテが可愛い』と『ダンジョン!?』の二つ。
ニャルテはその中のコメントから一つのコメントを拾い上げると、わざとらしく恥ずかしがった。
「『可愛い』?えー嬉しいな!そんな褒めてくれる君達にサービスっ⭐︎!」
ニャルテの十八番であるあざといポーズ。それを見た画面越しの視聴者ことニャル隊たちは大興奮。
“オオオオォォォォ!”
“えどっ”
“助かる( ´∀`)”
“角度まじ最高”
“ニャルポーズ良き♡”
投げ銭が飛び交い、ニャルテは「んふっ」と微かに口角を吊り上がる。
配信者にとって、投げ銭は視聴回数に並ぶ最高の報酬なのだ。
しかし、例えどんなに高額の投げ銭が贈られてきたとしても、飛び跳ねて喜んではいけない。
彼女はエンターテイナー。更なる報酬を求めて動き出す。
「それじゃあ早速、今回、緊急配信をした訳を教えちゃうぞ……なんとね?新メンバーが……入ることになりましたー!」
ニャルテの言葉にコメント欄はざわめきを見せた。
歓喜に発狂。興味と不安が入り乱れ始める。
“え?マジ!?”
“♪(v^_^)v”
“新しい子!?”
“ダンジョンって危ないんじゃないのか?”
“女か?”
“男だったら……”
“別に男でも良いでしょ”
「ええと、なになに〜?……『女か?』残念〜、新メンバーは女の子じゃないです〜。彼の名前はコン。狐の面を被った戦士だよ!」
そう言うと、ニャルテは手を使って雑にカメラをズラした。
ズレたカメラの先にいたのは……
狐の面を被り、腰の武器に手を添える青年。彼はその場で静かに佇んでいた。
“男っ!?(゚o゚;;”
“刀持ってる。”
“かっけえ”
“あの刀って本物?”
“まだ未成年かな?”
“Σ(・□・;)”
こちらの青年はニャルテとは違い、顔全体が狐の面で隠れている。
コンという名の青年は、チラリとカメラの方を一瞥する。だが、お祭り状態のコメント欄など気にも留めていないのか、すぐさま顔を逸らした。
その一連の動きは強者の如き立ち振る舞い。コンが微かに首を動かしただけだというのに、コメントは更に加速した。
“クール♪(´ε` )”
“イケメンの匂いがする”
“ダンジョンの中、こんな感じなんか”
“いけ好かねえ奴だな”
“この男、異能者か?”
“推せるかも!”
“あっそ”
カメラアングルが変わる。再度、画面はニャルテを映しだした。
いつの間に用意したのやら。映ったニャルテの手にはクラッカーが握られており、ニャルテはハイテンションで喋りながらもクラッカーを鳴らす。
「さて、ここからが本番!今日はね、彼の記念すべき初配信。だから、彼の初配信に相応しい場所、ダンジョンに来たよ!コンの相手は……あれ!えっと……確か、そ、そう!一層ボスモンスター『エレメンタルゴーレム』!!」
カメラアングルが変わる。
ニャルテの言葉に合わせて映し出されたのは銀箔色のゴーレム。そのゴーレムはあまりにも巨体。
見上げる形で映し出されたゴーレムにコメントも騒然。
“デカッΣ('◉⌓◉’)”
“逃げた方がいいのでは”
“でかすぎじゃんw”
“こんな奴、人が立ち向かうもんじゃねえって!”
“命大事に”
“∑(゚Д゚)”
だが、コンは違かった。臆することなく、刀を鞘から抜かずして柄を握ったまま、疾走を開始する。
走る、走る、駆け抜ける。あまりにも速い疾走はまるで風のよう。
“向かってった!”
“なんか強そうw”
“てか、速くね?”
“はや”
“異能者ってこんな速いの?”
“てか、コンの速さに追いつくカメラって何?”
そして風に電気が帯びる。
橙色の綺麗な雷。
それはコンの足に帯び、腕に纏い、刀に絡む。薄暗いダンジョンの中でその光はまるで何群もの流れ星のよう。
「……綺麗」
“なんか光ってる( ・∇・)”
“ホントだ”
“魔法系異能か?”
“コン、絶対イケメソだろ”
いくつもの流れ星はゴーレムを通り過ぎては斬断する。
何度も何度も、何度も。
橙色の光は非科学的模様を描き、やがてニャルテの元へと舞い戻る。斬られたゴーレムはボロボロだが、致命傷は一つも受けていない。
狐の仮面の男、コン。彼はニャルテの隣戻ってくると、刀を鞘にしまい、かがみ込んだ。
そして溜めを作り始める。
刀に雷が発現していく。橙色の火花がバチバチと飛び散り、次第に飛び散る火花はその数を増やしていく。
コンの姿に、コメント欄はそれはもう盛大に盛り上がる。
“かっけええええ!”
“自分、コン推しになろうかな?”
“俺の方がカッコいい”
“ニャルテ映して”
“かっけよ”
“*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*”
“コン(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾”
“イケメソ”
“これが異能者……”
(ふと、一人の視聴者が気付く)
“ん?なんか色変わってね?”
“え?”
“ん?”
“は?”
“(°_°)”
“ホントだ!”
“さっきまでオレンジ色だったのに”
“赤色!?”
“いや、あれは緋紅色!?∑(゚Д゚)”
“えぐかっけえ……”
コンの体と刀に纏っている雷。それは橙色だったが、限界を超えて深みを増す。
溜めに溜めた雷はやがて緋紅色へと。
それは一瞬だった。
予兆もなく、緋紅色の雷はゴーレムへと一直線に放たれる。雷は一筋の剣閃と一体化し、ゴーレムのコアをいとも簡単に斬った。
遅れて聞こえる斬撃音。ゴーレムもまた、遅延してその体が二つにズレる。
見えない斬撃。追えない一振り。ゴーレムに一筋の雷が通り抜けたようにしか思えない芸当。
あまりにも凄すぎる一閃に、八千人もの視聴者がいるコメント欄は停滞をみせるのだった。
・・・・、・・・・・・・・。
「ニャルテ」
「…………ハッ!?そ、それじゃあ、みんな!これにて今日の配信はおしまい!それと、ダンジョン配信は今日だけじゃないからね。今後もやっていくつもりだから!それじゃあニャねー!」
……ブツンッーーーー
【配信は終了致しました】
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