ワールドブレイカー じぇいの100人バトルロイヤル
すばる
第1話
「さあさあやってまいりました準決勝前のエキシビション! 実はこれを目的に来られた方も多いのではないでしょうか? 司会は本戦に引き続いてワタクシ、バーチャルアイドルユニット、UGの霧間ミカ。解説はスターダストの煌康公さんでお送りします!」
ワァーっと会場が盛り上がる。うん。ここで静まり返ると結構きついんだけど、どうやら心配は杞憂だったようだ。そんなことを思いながら、じぇいはそろそろ出番だと舞台袖で気を引き締めた。
「今回のエキシビションはワールドブレイカーのゲームモードの一つ、バトルロイヤル! これをゲームの解説動画などを上げてくださっているじぇいさんと、厳正なる抽選で選ばれた99人の一般参加者でやっていただきたいと思います。というわけで、じぇいさーん!?」
「はーい。どもども! じぇいでーす」
マイクで拡張された声を、自分の耳でも聞きながら。じぇいはさわやかに計算した表情で壇上に歩きでる。
「そういうわけで99人、全員俺がぶっ飛ばしてやるかんなっ!」
「ムリっしょ―」なんて声と笑い声。「0キルじぇねえのー?」なんて煽り声を受けつつ挨拶。とはいえ時間もそんなにあるわけでなし。トークは2人に任せ、すぐに壇を下りてゲームの準備を始める。VR用の機器はすでに裏でスタンバイ済みで、じぇいはスタッフに短く挨拶をしてから、すぐに椅子に座った。一般的なヘルメットタイプより高性能な、座席タイプのVRマシンだ。大会で使うものの流用。じぇいの個人所有品よりずっと高価なやつだが、イベントで何度かお世話になったことがあるので慣れたもの。手早く用意を済ませ、意識を仮想の世界へと潜らせた。
◆
次に意識を持ったとき。じぇいの体は、全身をスカイブルーの装甲に包まれていた。リアルより少し長身な体は違和感なく。ロビーと呼ばれる試合開始前の空間は、すでに様々な塗装の施されたメカメカしいアバターが集っていた。
「さて。参加者はすでに出揃っているかな?」
このエキシビションでは様々なプレイヤーをカメラが追う予定だが、じぇいを捉えている時間も長いだろう。なのでじぇいはいつも実況するのと同じく、視聴者に語りかけるのを意識する。
「とりあえず、スタート地点を考えないとな」
とはいえ解説は今回専門家がいるので、じぇいはあくまでも、プレイしている自分自身の心の声を出すように。
「あんま早くやられちゃうのは恥ずかしいもんなー。激戦区は避けて、この辺の郊外地区の建物を狙うか」
マップにマークを打つ。ワールドブレイカーの世界観は未来都市。なのでエリアの広い範囲を建物が埋めているが、この手のゲームのお約束としてマップに落ちているアイテムには偏りがある。そのため強いエリアほど激戦区となり、弱いエリアは比較的安全な代わり自己強化をしずらい。このゲームの場合だと装備やギアに1から3のティアでランク分けされているのと、回復やその他使い捨てアイテムの配置か。ちなみにバトルロイヤル以外のマッチで使われている装備性能はティア2。装備の場合は単純な攻撃力。ギアだと最大HPに影響する。
「それじゃ、よろしくお願いしまーす」
誰にともなくじぇいが言った直後、世界が切り替わり、マッチが開始した。
◆
ワールドブレイカーの初期地点選びの方法は、アンカーワープなどと呼ばれる。エリア上空をぐるぐるとまわる飛行船から、巨大なクロスボウでボルトを射出。着弾地点に時間差でワープする。飛行船は結構な広範囲をぐるぐるとまわるので待てば行きたい場所に簡単にボルトを撃てるが、ゲームのルール上なるべく早めに降りて装備を整えたほうが有利だ。重力で落ちるボルトを好きな位置に飛ばす技術は、地味だけど重要になる。
「この辺、かな」
マップ上の距離から発射角度を計算する解説動画を上げているじぇい。こんなところでミスするわけにはいかない。いつも通り、開幕数秒で狙いの位置にアンカーを撃ち込み、手際よく地上に降りる。
「取りあえず敵はなし」
ざっと見回すとすぐに近くの建物に走る。初期は徒手空拳で最弱状態。何はともあれ何か武器を拾わねばならない。
「回復、スピードギア、ライフル、ハンマー!」
さっそくメインウェポンゲット。ティア1のハンマーだ。そのほかティア2のアサルトライフルとティア1のスピードギア。HPを小回復するスモールコアを確保。これで一応の体裁は整った。
「と、足音だな」
このゲーム、音というのはかなり重要だ。金属でできたアバターの足音はよく響くし、ライフルなどは銃声がする。それに、地形などを破壊することがカギになるゲームだが、材質によってはかなりの音が出るのだ。バトルロイヤルだと、強力な装備が入っている代わりに大音量が発生するクリスタルケースなんてものもある。
「できれば室内戦は避けたいな。この装備だと」
ハンマーを持っているが、スピードタイプだと筋力が足りなくて重量級のハンマーには逆に振り回されてしまう。射撃戦、あるいは接近戦をやるにしても、ヒットアンドアウェイのできる広い空間で戦いたい。
「乗ってくるかねえ」
なんて呟きつつ。ハンマーで壁を叩き壊す。ドガンとコンクリの砕ける音が辺りに響き、できた穴から外に出る。
「いたね」
振り返ると、塀の裏からこちらを狙う影一つ。
「ロケランかよっ!」
飛んできたものを見て、じぇいは慌てて回避した。着弾地点で発生した爆発が地面を抉る。
「爆発系の遠距離武器って逃げてもどんどん地形削って追いつめられるんだよなあ」
こっちには遠距離から遮蔽物を壊す手段がない。すぐ近くの建物に入り込む。背後で爆音を聞きながら階段を駆け上がり、2階の窓へ。ここからなら狙える。
じぇいの装備したアサルトライフルは、安定した性能を発揮する遠距離武器である。地形破壊効果はないが、遮蔽物のない場所での撃ち合いなら上位に入る実力。ここは障害物が多いので爆発武器であるロケットランチャーの方が有利ではあるが、射線さえ通れば十分やり合えるのだ。
銃口が火を噴く。2発ヒット。そこで相手は塀の陰に逃れた。なので、見られていないうちに場所移動。なるべく音を立てないように、塀の側面に回り込む。相手は、どうやらまだ先ほどまでいた家を警戒しているようだ。というわけでいただき。不意打ちのアサルトライフルで、敵の体力をすべて削り切った。
「おーしおし。まずはワンキル。これで雑魚死は回避しましたよっと」
素早く、残されたボックスによって相手の装備を確認。アサルトライフルからロケットランチャーに装備を切り替え、すぐにその場を離れる。結構派手な音が鳴ったから、聞きつけて別のプレイヤーが来るかもしれない。漁夫の利を得るのは好きだけど、取られるのは勘弁である。
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