心のデスゲーム「取り残されゲーム」
ちびまるフォイ
取り残されデスゲーム
「こ、ここはどこだ!? 真っ暗で何も見えない!
壁!? なんでこんな場所に囚われてるんだ!?」
『クックック。気がついたようだな』
「誰だ!? はっ、まさかその仮面。
それにこの閉ざされたシチュエーション……!」
『察しが良くて助かるよ』
「やばめなゲームが始まるのか!?」
『その通り』
「やっぱり!!」
『まず参加者はお前しかいない』
「えっ」
『そして3食つき』
「ほう」
『毎日このテレビモニターで外の様子を映す』
「なるほど」
『それだけだ』
「それだけ!? 受刑者よりも優遇された環境だけど!?
もっと痛々しい展開とかないのか!?」
『なにを勘違いしている?』
「はっ……! や、やっぱりあるんだな。
こう、人間心理を丸裸にするようなインモラルなゲームが……!」
『今にわかるさ。では外の様子を見せてやろう』
モニターはゲームマスターの仮面から、外の友達の様子が映った。
『これからお前には"取り残されゲーム"を体験してもらう。
といってもお前にできることはなにもない。
ただそこで苦しみ打ちひしがれる姿を見せれば良い』
「まさか、友達になにか危害でも!?」
『いいやそんなことはしない。
普通にここにいるから遠方の人に危害とか無理だし』
「じゃあどうして! 友達を映すんだ!」
『それはお前が自分自身を痛めつけるために必要なのだ』
「どういうことだ……?」
モニターでは友達の様子を淡々と映していた。
けれど自分にも知らない友達の姿がそこに映る。
「だ、誰だ!? あの隣に立つきれいな女性は!!」
『クックック。結婚していたんだよ』
「そんなこと知らなかった!!」
『独身であるお前に配慮したのだろう。見てみろ、子供もいる』
「うわああ!! 幸せそうだ!!」
誰もいない部屋の中でゴロンゴロンともんどり打つ。
『やっと取り残されゲームを理解したようだな。
ここでは貴様がどれだけ取り残されているかを認識させ、
お前を苦しめるためのゲームだ』
「やめろーー! モニターを切ってくれ!!」
『いいや、このモニターは24時間映し続ける』
「ぎゃああーー!!」
モニターでは親子が手を繋いで公園なんか行ってる微笑ましい映像。
それを見るとまるで自分が一個も成長できないと、
周りからいかに遅れているかを指摘されているようで心が揺れる。
『こんなのはまだ序の口だ。次のチャンネルを見せよう』
「はあ……はぁ……コレ以上のものは……はう!?」
『どうだ? 世間ではすでに"アインドロイドPro87"が発売しているぞ』
「ぐうう!! 俺のスマホはアインドロイドの17なのに!!」
『しかも普及率は97%。古臭い文鎮を大事そうに使っているのは
お前とチンパンジーくらいなものだ。わっはっは』
「ぐあああ!! なんてことだ!! 恥ずかしい!!
お願いだ!! ここをだして最新機種を買わせてくれ!!」
『許すわけ無いだろう?』
「うぎゃああーー!!」
最新ガジェットを手にできていない自分。
きっと最新だからこそ得られる特別な機能や体験があるのだろう。
それを持っていない自分は一体何なのか。
周囲から孤立し、取り残される強烈な疎外感を感じる。
今まで感じたことのないストレスが自分に襲いかかる。
『取り残されゲームを楽しんでもらえているようだな』
「ころしてくれ……いっそ……ころしてくれ……」
『いいやまだまだ!』
モニターにはひっきりなしに映像が切り替わる。
そのどれもがナイフよりも鋭く心臓をえぐる。
『お前以外の同期、みんな出世しているぞ』
「ぐああ!」
『お前の元カノ、今めっちゃ美人だぞ』
「ひぎゃあ!」
『昔お前が譲ったプレゼント、今プレミアついてるな』
「ぐふうっ!!」
『お前のスケジュール、ずっと真っ白だな』
「ぎゃああーー!」
現実という名の凶器に何度も殴打される。
自分はすっかり出遅れていることを自覚させられ、
そしてそれがもう追いつけないほどの距離にあると感じる。
自己肯定感は失われ、ストレスでお尻の毛まで真っ白になってしまった。
『アッハッハ!! いい気味だ!! では次はこれだ!!
お前の大好きなプラモデルの最新が発売されている!
だがお前はここに囚われているから買えない!!』
「あ……そっすか……」
『いいのか? お前以外みんな買ってるぞ?
急がないともう手に入らないのに、チャンス逃してるんだぞ?』
「はあ……」
『あ、あれ……? あの焦燥感に満ちた瞳はどうした?
競うように買い漁っていたじゃないか』
「なんかもう……どうでもよくなっちゃって」
最初の新鮮なリアクションはどこへやら。
すっかり燃え尽きてしまって悟りまで開いてしまったかのよう。
他にも最新のトレンドやガジェット。
他の人が人生の次のフェーズに移動していることを伝えても、
まるで昔話を聞くようにあっさりとした反応になってしまった。
『お前いったいどうしたんだ……?』
「一線超えてしまったら、なにもかもどうでもよくなった。
むしろ前はなんであんなに必死になっていたかも思い出せない」
『取り残されゲームなのに、取り残されてる感覚ないのか?』
「そもそも取り残されて何が悪いんだろうとさえ思う。
自分の身の丈にあった人生を等身大で過ごすことが悪いのか?」
『はっ……!』
「前までの俺は本当に欲しいものを求めてたんじゃなく、
周りから取り残される恐怖をごまかすために買ってたんだ。
そのことをこのゲームを通じて理解できたよ」
『そんなつもりでは……』
「だからこの先、どんな映像を見せられても心は動かない。
だって今の自分でいいと思えたから」
『……』
ゲームマスターはついに口を閉ざした。
そして静かに密室の扉が解錠された。
「ドアが開いてる……出て良いのか?」
『もうここでゲームを続けても意味のないことがわかったから』
ドアの向こうにはゲームマスターの部屋が併設されていた。
たくさんの映像編集がここで行われていたことを知る。
そしてーー。
「これは……友達の家庭か?」
自分に見せられていたのは幸せな家庭風景の映像。
しかし見せていない部分では夫婦のケンカ、苛立つ育児。
厳しくなる生活と質素な日常が映されていた。
「これも、これも、これも……。
俺がこれまで取り残されまいと追ってきたその後じゃないか!」
必死に最新モデルのスマホを手にいれたのに、
翌年には次のスマホが発売されて大金が必要になる。
自分を置き去りにして出世した同期たちは、
大量に増えた責任と仕事で体と心を壊してしまっている。
自分に見せられていた映像では破滅した姿はなかった。
取り残されていると錯覚していたはずが、
何もしない自分が最も安定した人生であると気づいた。
「わかったようだな。貴様はここで何も選択せず
取り残される恐怖を克服したのだ」
「ゲームマスター。あんた最初からそれを……!?」
「いいや、そんなつもりはない。
極限まで取り残された人間がいったいどんな状態になるのか。
それを確かめたかっただけだ」
「最後に聞かせてくれ。どうしてそんなことを確かめたかったんだ?」
ゲームマスターは最後に仮面をはずした。
その表情はなにかに怯えているような顔をしていた。
「だって地元のみんな、もうデスゲーム主催経験者で……。
デスゲーム童貞なのは俺だけだから、取り残されてる気がしたんだもん……」
心のデスゲーム「取り残されゲーム」 ちびまるフォイ @firestorage
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