第9回

   8


 結局、瓶底眼鏡をどうするか、俺は考えあぐねていた。


 あの女店主にまたしても押し切られるような形で受け取ってしまったが、実際にお見合いの時に使うかどうか考えると、その見た目の悪さにちょっと掛けるのを考えてしまう。


 俺は会社の机の上にその眼鏡を置いたまま、じっとそれを見つめた。


 はてさて、どうしたものか。


 ここまでくると、なんかもう、恋愛とかどうでもよくなってきたんだが……


 とはいえ、せっかくのミキちゃんの紹介だ、このまま最後まで付き合わねばなるまい。


 それにしてもあの女店主、結構やることがいい加減というか何というか……


 指輪にしろ、香水にしろ、眼鏡にしろ、だいたい押し切るように接客してくるんだよなぁ。


 あんなので商売として成り立っているのか、不思議でならん。


 まぁ、顔は良いし、案外それで得た固定客が結構居るのかも知れない。


 明日からしばらく留守にするってのも、もしかしたら、そういった関係で知り合った男とどこか旅行にでも出掛けるとか、そんなところだろう。


「……ふんっ」


 そう思うと、何だか急に胸がもやもやしてきた。


 人の気も知らないで、大層な奴だ。


 何を考えているのか解らないし、たまに馬鹿にするように笑いやがるし――


 なんか、どんどんイライラしてきたぞ。


 そんなことしてないで、もっとまともに接客しろってんだ、まったく。


 俺は眼鏡に手を伸ばし、あの女の顔を思い浮かべる。


 大きなため息を一つ吐いて、その眼鏡を、スーツのポケットに突っ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る