第65話 白頭山の稲妻のように攻撃
「どうです、陛下?楽しんでいただけておりますか?」
「あ、ああ!ワルバッド辺境伯、ありがとう、楽しんでいるよ」
「いやあ、私も先日のゲームは楽しめましたよ、あのルーレット!陛下も、最後にあそこに一点賭けした判断力は素晴らしかったですね!」
「そ、そうかね?ふふ……、そのような褒め方をされたのは初めてだ」
「いえいえ、陛下はご自分で気付かれていらっしゃらないだけで、聡明なお方ですとも!」
「そうだろうか……?わ、儂はそんな……」
「そうそう!シルバーの献金の方も、元通りにしておきました。これで、宰相も文句を言うことはないでしょう」
「ほ、本当か?!良かった……!これで、皇妃にも宰相にも嫌味を言われずに済む……」
「しかしどうやら、シルバーよりもイェンの方が欲しいとのことで、その調整でもうしばらくこちらへの滞在をしていただくことになりました。何卒、ご了承いただきたく……」
「い、いや!儂もここに、まだ暫く滞在したい!気にせんでくれ、ワルバッド辺境伯!」
「おお、寛大なお言葉!王の器にございますなあ!まこと、感服いたしました!」
「いや、そんなことは……」
「ささ!話はここまでで良いでしょう!この大歓楽街は夢の国にございます!ここにいる以上は夢を見て、楽しんでいただかなくては!」
「あ、ああ!その、良かったらまたゲームに付き合ってはくれないだろうか、ワルバッド辺境伯?」
「もちろんですとも、陛下!今日は朝まで楽しみましょう!」
うーん、無能王。
一周回って、この人のことが好きかもな、俺。
本当に扱いやすいし、シャバいギャンブルを適当にやらせているだけで、大人しくしていてくれる。
余計なことを一切やらず、仏心を出してなんか余計な行動をしようとしたり、逆に大きな野心や私欲で暗躍もしない、できない。
人柄としては素朴だから、子供騙しみたいなゲームでも大袈裟に喜んでくれるので面白いしな。
毒にも薬にもならない人間、話すと意外と面白い職場の窓際おじさんってところか。
王様なだけはあって、教養があり、頭もそれほど悪い訳じゃない。一緒にカジノで遊べば、常識の範囲内でお互いが楽しめたよ。ゲームの中では普通に駆け引きもできてたしな。て言うか、強い方じゃね?頭はいいと思うぞ、この人。
うーん、無能……、無能だがバカではないな。
王としての能力がないだけで、人としてはかなりまともなんじゃない?
この世界の平民といえば、基本的に猿同然だからな。猿共を社会に組み込むには、人として最低限の礼儀や社会のルールから教えなきゃならない。
分かるか?学校を作ったが、まず言語や食事の作法、立ち小便をしないこと!みたいな、人間としての基礎から教えてるんだぞ?そのレベルだ、この世界の平民は。
それと比べれば、ある程度の礼儀作法と、感情を制御する術を持ち、暴力で他人に言うことを聞かせようとしないと言うだけで評価できる。ゲームで負けても怒鳴り散らしたりはしない。文明人だよ、このおっさんは。
なので、暇なときは、遊び相手になってやるようにした。
俺としても、傀儡の王とは言え、王様と共に楽しく遊んでいる姿を見せるのは、民衆に向けたアピールになるしな。
マスコミに王様と握手しているシーンの一枚でも撮らせておけば、俺の評判はガン上がりよ。
事実がどうであれ、仲良さそうに見せることで、馬鹿な民衆は勝手に「ワルバッド辺境伯は王と親密!」とか騒ぐからな。
それに、この王の一番気に入っているところは……、自分の分を弁えているところだ。
上級貴族の奴らは大抵、自分の能力に見合わない野望をお持ちだ。
まずさ、上級貴族。あんなに人口も権力も独占しておいていつまでも中世やってんだから、アホ丸出しだろ?
俺がもし、上級貴族スタートなら、もっと改革はやりやすかっただろうな。辺境伯の国庫がほぼ空っぽって何すかね?しかも、親父と祖父の悪名もさあ……。
で、上級貴族。こいつらは皆、狭い範囲、ミクロでしか見ていないから、ありとあらゆる行動が無意味で、他人の足を引っ張ることにばかりリソースを割いている。アホ過ぎる。
いや確かに、俺より軍略に長けるとか、俺より剣が上手いとか、そういう奴は多いのかもしれないが……、誰も彼もが「戦略」を考えられてないんだよな。
まるで旧日本軍みたいに、戦術レベルの判断ばかりを先走らせて、誰もが大局が見えていない。見ているところも、進もうとしているところも、国家の首脳陣各々でそれぞれ考えていることが違う。
それなのに、自分が一番で自分が絶対に正しいと信じ込んでいやがる。自分は尊くて、自分は偉くて、自分の持っているプライドは妥当な大きさだと思ってやがるんだ。
馬鹿丸出しですわ。
何にせよ、上級貴族共は、俺より恵まれたスタートでありながらも、俺の足元にも及ばない結果しか出せていない。それなのに、俺よりも態度がでかい。こりゃダメだ。
まあ、逆に言えば、この程度の結果しか出せてこなかった無能な連中を相手にするのは、楽ではあるんだが。
真綿で首を絞める、などという比喩があるが、現在はもう既に上級貴族共の首に縄がかかっていて、後は引っ張ればいいだけの状態になっている……ということだ。
……結局、上級貴族共は誰もが、「経済」を理解していなかったからな。
あいつら、ワルバッド辺境伯の製品を無制限に受け入れていやがる。
策略となると、スパイで相手の作戦を調べるとか兵隊を増やすとか、そういうことしか思い浮かばないんだろうよ。
そもそも、戦争は高貴なる騎士団の仕事で、平民は黙っとれ……!みたいな感じなんだろう。えっと……、「総力戦」って知ってるかな??!?!?!!
それに、ワルバッド辺境伯開発国債こと、「イェン」もガンガン受け入れてる。馬鹿じゃねえの?それ実質、俺の発行してる金だぞ。
というか、経済に力があることすら分かってねえぞあれ。
それどころか、「金なんて不浄なものを扱う奴は下賎な人間」とか、「ワルバッド辺境伯は我々に金を差し出してきた!(貸りているだけなのに)」とか、そんな感じの態度だ。
でも仕方ない、現実でもこんなことはいくらでもあった。
メディチ家くらい知ってるよな?銀行業で成り上がり、ヨーロッパ中の貴族に金を貸して影響力を得て、フィレンツェの支配者にまでなった家だ。
フッガー家も知っているよな?領地と名誉さえあればいい!みたいな態度でフッガー家から借金しまくったスペインは財政破綻した。
マジに奴らは「中世」なんだよな。
普通さあ、例えば、自国に供給する石油の八割を売っている国に喧嘩を売るのは拙くない?とか、そういうことを考える訳じゃん?
この世界で言えば、ワルバッド辺境伯領でしか生産できないものや、ワルバッド辺境伯領の穀物とかを輸入して、この輸入をストップされたら国民みんなが大混乱するのに、「いざとなれば戦って解決できる!」みたいな態度なんだよあいつら。
もちろん、中にはちゃんと頭が回る奴もいる。だがそいつも、「経済」については門外漢で、「ワルバッド辺境伯の戦力は侮れないから、何かやられる前に奇襲して力を見せてから講和するしかなくね?」みたいな、言わば東郷提督くらいの視点しかお持ちでない。
で、ここが笑っちゃうポイントなのだが、正常性バイアスが蔓延したアホの国では、そう言った慎重論者は「臆病者」と謗られちゃうんだよね♡
とにかくさ、こういう状況でさ、国民も上も、「頑張れば神風が吹くと思うので勝てます!」とか言ってたらもう、アホでしょ。え?「わーくにの場合は責任者が誰だか分からんガバガバ組織体系が悪い」って?ワイトもそう思います。
……いや、その「頑張ればどうにかなる」みたいな価値観をアホだと国民皆が考えられるようになったのが最近の話だよ、ってことなのかもしれん。俺がガキの頃とか、部活中に水飲むな!みたいな価値観がまだまだあったしな。
もうね、この国には、頑張ってもどうにもならんことはならんからちゃんと準備しような!とか、戦いの準備は普段の生産力から決まるぜ!とか、そういうことは概念がまずない。
何にせよ、上級貴族共は俺をガッツリ見下しているが、既に経済による侵略は進んでいた……。
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