第6話 未来、切り札は自分だけ
さて、現状、打てる手は全て打った。
やることはやった。
この世界はテレビゲームの世界だが現実。そして現実はテレビゲームじゃない。
つまり、俺が指示を出しても、情報伝達やら何やらの問題で、結果が出るのは後の話にあるのだ。
例えば農業とかでも、新しい作物を植えたらすぐに明日にでも生えてくる!……なーんてことはもちろんあり得ない。
この世界はルーンのファクトリーみたいな世界じゃないんだ、リムのワールドでもない。畑も耕して土起こしから始めて、植えたにしても、その土地にぴったりの農法をしっかりとやらなきゃいけないし、土地と作物の相性もある。
ガキの頃に手に入れたジャガイモやトウモロコシ、トマトなんかを、私財で買った農奴共にこの土地に最適化するようにさせていたが……、まあ、食えるレベルになるまで十年かかったよね。
今後はもっと病気に強くしたいんだが……、土いじりのことは良くわかんねんだワ。
メンデルの法則くらいは知っているから、それで誤魔化し誤魔化しやってきたが……、それだけでどうにかなる問題じゃないねマジで。
どうにか、育てやすいじゃがいもだけは、早い段階で実用化できたから、蒸留酒と芋畑はたくさん作っていたんだが……。
何でもかんでも、上手くはいかないもんだなあ。
まあしかし、そう言うのはさ。
できる奴に任せればいいんだよ。
そう思えるような出来事が、今、俺の目の前で起きている……。
「な、なあっ!領主!貴方も『転生者』なのだろうっ?!!!僕もそうなんだ!!!頼む、村に戻りたくない、助けてくれ!!!」
ノーミンらしく、薄汚れた。
麻の服を着た、木のサンダルの。
もじゃもじゃ白髪の、陰キャ臭え女が叫ぶ。
「もう嫌だ!私が改革しろと言っても、まるで聞きやしない無能な村人共!この僕に、下らない家事や洗濯をやれと、ジェンダーロールを押し付けてくる親!僕の言う通りにすれば、十年で村の収益は十倍以上に増やせるのに!!!」
必死になって、叫ぶ。
訴えかけてくる。
「頼む、お願いだ、領主様!貴方に従い、僕の知識の全てを渡す!だから、だからどうか、あの村には返さないでくれッ!!!」
「ぬるぽ」
「へ?」
「ぬるぽ」
「ああ……、ふふっ、そうか」
女は近づいてきて、俺の腰を拳で叩いた。
「ガッ!」
と、口で言いながら……。
「さて、転生者。お前、名前は?」
「フローラ・シュミットだ」
「その名前で良いのか?」
「……そう、そうだな。この名前は、この世界の親を名乗る下等生物共が勝手に付けた名前だ。違う、僕は違う!僕の名前は、ドクター在園!在園学(さいえん まな)だッ!!!」
「了解した、ドクター・サイエン。で……、お前は何ができるんだ?どうやって俺を楽しませてくれる?」
「僕は科学者だ!マサチューセッツ工業大学を首席卒業した後、複合企業アーレス社の主任研究者をやっていた!数理的な観点からのデータ処理や、資金を用意してくれるのならば電算機の基礎的なものくらいは作ってみせる!」
「できるのか?」
「僕は少し、『魔法』が使えてね」
ニヤリ、と笑いつつ、その辺の土を魔法で純化してシリコンや鉄板に変えてみせるドクター・サイエン。
なるほど。
魔法を使って加工すれば、精度はカスでも、初期の電算機くらいは作れそうだ、と。
それを元にどんどん精度を高めていけば、現代日本並みの科学製品も不可能ではないかも!と。
そういうことか。
「面白い。農業は分かるか?今、別大陸から取り寄せたトウモロコシやトマトとかがあるんだが、上手く育成できていないんだ」
「品種改良はしているのかね?」
「しているが、上手くいかない」
「数十年かけてやるものだから、すぐに結果は出ないだろう。世代交代を早めるために、ドルイドのような存在を誘致できれば良いんじゃないか?」
「なるほどな。だが、ドルイドは……」
「うむ、南方の忌地、『沼の民』だな」
そうなんだよなあ……。
「流石に不可触民を受け入れるのは……、いや、待てよ?」
ん?
いや、ちょっと待てよ?
別に……、良いんじゃないのか?
そもそも、ゲーム本編だと、この辺境の地では人種差別が撤廃され、エルフやドワーフ、獣人などが表通りを歩ける、素晴らしい街になるはずだ。
まあそりゃ、主人公側が「差別万歳!」なんてほざくような教育によろしくないゲームは中々売れないもんな。一応、『アストレア・オデッセイ』は後続シリーズが出るくらいには人気の作品。そんなヤバい発言はしない。
あー、つまり、主人公は異民族の受け入れをするんだよ。
そして、主人公にできたんなら、俺ができないってことはなくないか?
いやもちろん、主人公みたいに「聖剣」と「聖魔法」を使うことはできない。剣でも魔法でも勝てないだろうよ。
けど、統治って面では主人公もプロではないはず。
なら、俺にできてもおかしくはないよなあ?
更に言えば、ここは辺境だ。
中央には定期的に金を貢がないと、忘れ去られてしまうような土地。「目」はないはず。
うん……、うん。
やるか。
不可触民、『沼の民』との接触……!
「アドバイスをありがとう、ドクター・サイエン。こっちはこっちでやる。とりあえずお前は、なんでもいい、力を見せてくれ。とりあえず、俺の私財から百万シルバーほど出そう」
「正気か?!いきなり、日本円にして三億円ものプロジェクトを僕にやらせるのか?!」
「そうだ。俺が今まで親に隠れて稼いだ金の三分の一になる」
「頭おかしいのだろうか????いや、その、僕は新参で……」
「ドクター・サイエン」
「はぇ?」
「できないのか?」
「は……、あ、は、は!やるさ!やってやるとも!僕の技術を、とくと見るがいいさ!!!」
「結構。メイ!ドクター・サイエンに百万シルバー渡して、空き部屋を与え、研究をやらせろ。食事と服、信頼できる文官や職人も何人かつけてやれ」
「了解しました、ご主人様」
「あと俺は、これからデストラン将軍を連れて、沼の民をスカウトしてくる」
「イカれていらっしゃいますか?ご主人様」
「イカれてなかった試しとかあったか?」
「……失礼いたしました、狂人のご主人様。お早いお帰りをお待ちしております」
さあ、即座にやろう。
未来への切符はいつだって白紙だが、電車はすぐに走り去るんだからな。
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