佐野の文書データ:抜粋2

『しろいワニ sanoyuka作』


あるもりのおくに、ワニのむらがありました。

そこには、いっぴきだけしろいワニがすんでいました。


しろいワニは、むらのほかのワニたちにからかわれていました。


「おまえのはだは、もりのなかでめだってしかたない」

「おまえは、じぶんで、ごはんもとれないごくつぶしだ」

「おまえは、なんでいきているんだ」


しろいワニはまいばん、なきました。

じぶんのはだで、ぬらぬらとひときわかがやくつきのひかりをうらみました。




そんなワニにも、ひとつだけ「しあわせ」がありました。


もりになるきのみを、しろいはだのうえでつぶすと、まるでいきているかのように、あかやあお、きいろやみどりがおどるのでした。


あるひには、あかいはな。

あるひには、ぴんくのとり。

またあるひには、からだじゅうにあかいせんをひいたりもしました。


そうして、しろいワニはまた、むらにからかわれにかえるのです。


ワニはつきのしたで、はだのうえできのみをつぶすかんかくをおもいだしつづけました。


ワニはそうして、じぶんの「しあわせ」をかくにんしていました。




そうしてまた、はだにえをかいていると


「なにかいてるの」


くすぐるような、たのしげなこえが、あたまのうえからふってきました。

しろいワニがうえをむくと、いろとりどりのとりが、きのえだにとまっていました。


「えをかいているんだ」


ワニはこたえました。


「じょうずだね。ぼくをかいてみてよ」


とりはそういって、しろいワニのまえにおりてきました。


「ぼくがこわくないの」


ワニはふしぎにおもいました。


「こわくないよ。だってきみのなかまが、ぼくのともだちをたべるところは、なんどもみたけど、きみがたべるところは、みたことないもん。あれだろ。きみは《そうしょく》ってくちなんだろ」


ワニは、なんだかおかしくてわらいました。

それから、そのとりをかくことをはじめました。

そのとりをかくには、たくさんのきのみがひつようでした。

ワニはとりにも、きのみあつめをてつだってもらいました。


そうして、ひがしずむころに、やっとかんせいしました。

とりは、ぱたぱたと、はねをふりまわしてよろこびました。


「これはすごい。きみはてんさいだ」


とりはそういって、ワニのうえにとびのって、はねまわりました。




そのよる、ワニは、はだのうえではねるとりのかんかくをおもいだしつづけました。


それから、ワニはとりといっしょにえをかくようになりました。

そのなかで、たくさんのはなしをしました。


「さいきんさむいね」


このころ、もりはいままでにないほどに、ひえこんでいました


「きみはなんでしろいの」


「きみはなんでそんなにいろとりどりなの」


ワニは、そんなはなしをしながら、えをかんせいさせて、とりとよろこびました。




あるひ、しろいワニは、いつものようにえをかきにいきました。

ですが、きょうは、とりがきませんでした。

しかたなく、ひとりでえをかきました。


そのよる、ワニはいつもより、たくさんのなみだをながしました。


それから、とりがあらわれることはありませんでした。

ワニが、よるにながすなみだは、どんどんふえていきました。

ワニは、はだのうえではねるとりのかんかくを、おもいだしつづけました。




あるときに、もりにはじめて、ゆきがふりました。

もりは、すぐに、まっしろにそまり、むらのワニたちは、しろいもりのなかで、あまりにめだつので、ごはんをとれなくなってしまいました。


しかし、しろいワニは、たくさんのごはんをとることができるようになりました。


ワニは、むらのえいゆうになりました。


ワニは、まいばん、むらのなかまたちと、よるおそくまで、ごはんをたべたり、はなしたりしました。


それから、このもりで、ゆきがやむことはありませんでした。




しろいワニは、あるひ、だれもいないもりのおくで、ゆきのなかにもぐりました。


むらのワニたちは、いっしょけんめいにしろいワニをさがしましたが、ゆきのなかのしろいワニをさがしだすことは、できませんでした。


そのしろいワニが、むらにかえってくることは、ありませんでした。



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