第2話 霊帝は召喚す=百禍の亡者
「なぁ……っ!?」
丸太のようなサイクロプスの腕が、まるで紐が解けたみたいにふわりと切り離され、璃菜は腕ごと落下する。
「ぐっ! …………っ?」
地面に激突する予感に思わず身を固くするが、予想外に柔らかいものにキャッチされて、璃菜は驚いて目を開ける。——だが、眼前にはさらに驚くべき光景が広がっていた。
「えっ、誰っ!?」
空中に浮遊しながら璃菜を横抱きにしているのは、禍々しい闇のオーラを放つ漆黒の
男は地底から響くような低く暗い声色で、璃菜の命知らずを咎める。
「……身の程を弁えぬ愚か者め。何故逃げなかった?」
フードですっぽりと覆われた顔は光を通さない闇に覆われ、その表情を窺い知ることはできない。ただその両の
――――――――――
@DT-king:お姫様抱っこ、だとぅ!?
@りぃなたんガチ勢:りぃなたんに触ったなぁぁぁ!!?
@AKATUKI-00:なんなんだあのヤバげなオーラは!?
@野生のP:あれは……高位の
@omochiDSK:なんか見てるだけでゾクゾクしてきた
――――――――――
「高位
突然戦場に乱入した存在に、コメント欄も璃菜も大混乱に陥る。敵の手に捕まっているのだと思った璃菜は脱出しようと手脚をジタバタと
——黒衣の男は厳かな声で告げる。
「……
『諾』
地面の上にはいつの間にか腰に刀を差した着流し姿のスケルトンがいた。(あれがサイクロプスの腕を?)璃菜が疑問を浮かべた刹那、刀を持ったスケルトンはゆらり、と
「!?」
——
(速っ!? 動きが見えないっ!?)
かろうじて目で追えたのは、ダンジョン内の微かな灯りに照らされた銀の軌跡だけ。
失った首から間欠泉のように血を吹き出すサイクロプスは、二、三歩迷ったように脚を踏み出し、轟音を立てて地に倒れ伏した。
「……う、そ」
璃菜は絶句する。
中層に通う冒険者は皆知っていた。サイクロプスとは中級冒険者が複数のパーティを連携させてようやく討伐できる存在であることを。たとえ下層を縄張りにしている上級冒険者とて、決して油断できない相手だということを。
……それがたったの一振りで。
単眼の巨人、サイクロプスはあっさりと絶命した。
そんなこと——明らかに常軌を逸している。
「アンタ……一体なんなの……?」
あまりに異常な存在を前に、無意識に声が震える。
だが黒衣の男は璃菜の問いかけには答えず、背丈よりも大きく捩くれた杖を空中に浮かべながら「では、次は
……ふと、璃菜はその声をどこかで聞いたことがある気がした。
「……黄泉路彷徨う亡者どもよ。いま再び
黒ローブの男から、暗い闇の魔力が溢れ出る。
その瞬間。璃菜が魔物と戦っていた中層入口の大ホール全体の空気が変わった——まるで、
(怖い)
璃菜は本能的に「なにか恐ろしいことが起こる」ことを予感した。そして、その予感の正体は浮遊する黒ローブ男と璃菜の眼下——ダンジョンの地面を破って、現れた。
カタカタ
カタカタ カタカタ
カタカタカタ カタカタカタ カタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!!!!!!!!!!
骨が。
無数の骨が。
数えきれないほど無数の骨の亡者が。
地面を掘り破り、地獄から這い出るように。
一瞬にしてダンジョンのフロアを埋め尽くした。
「ひぃっ…………ぅ!」
とっさに口に手を当てて悲鳴を飲み込んだのは、
(アレに見つかったら、きっと酷い終わり方をする)
危険を知らす璃菜の直感が、魔物に囲まれていた先程までよりも余程大きなアラートをあげる。——「逃げろ!」「死ぬぞ!!」と。
恐慌状態に陥ったのは、魔物の群れも同じだった。
先程までの数的優位は幻のように消え、目の前で今なお増え続ける脅威の前にたじろいでいる。
恐怖と混乱がピークを迎えた瞬間。
一体のミノタウロスが「ブモォォォォオオオ!!」守りを捨てた決死の構えでスケルトンの群れへ特攻をしかけた。
嵐の如き勢いのままに戦斧を振り回し、幾体かのスケルトンを破砕し、両断した……かのように見えた。
だがスケルトンたちの砕けた骨は当たり前のように元の形へと集合し、何事もなかったかのように再び動き出す。
スケルトンたちは手に何も武器を持たない。
だが、亡者たちの生者に対する妄執のままに、その剥き出しの骨の両手で、
「ブモォォッ!! ゴァアッッ!! ギアアアアアッ!!!!」
振り払えど振り払えど、夥しい数のスケルトンがミノタウロスの周囲を取り囲み、ゆっくりとした、それでいて確実な動きで、ミノタウロスや他の魔物の肉を奪い尽くしていく。
……そこからはもう、一方的な虐殺だった。
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