不死霊帝《ノーライフキング》はバズりたくない! 〜少年死霊魔導師がうっかりダンジョン配信に巻き込まれたら【閲覧注意】すぎました〜

星喰うみうし

第1話 少女は出会う=不死の霊帝



 「——か、は!」

 

 大型トラックに撥ねられるほどの強烈な衝撃を受けて、少女はダンジョンの岩壁に叩きつけられた。


 背骨が軋むほどの強い衝撃に視界はチカチカと明滅し、遅れてやってきた激痛で息が詰まる。……だがそれでも、ミノタウロスの突進チャージを真正面から喰らって、骨や内臓がメチャクチャになっていないだけ幸運と言えた。


「はっ……はっ……はぁっ」


 ほのおのような緋金の髪を振り乱し、大剣を杖代わりに寄りかかって荒い呼吸を整えながら、冒険者の少女——四季島璃菜しきしま・りなは、自分をぐるりと取り囲む魔物たちを睨みつけた。


――――――――――

@DT-king:貴重なJKの喘ぎ声ASMRあざまーす

@野生のP:あーモンスターハウスに突っ込んじゃった?

@善玉菌太郎:これはもうダメかも分からんね

@りぃなたんガチ勢:あああああ死ぬなりぃなたぁぁぁん

――――――――――


「ぐっ……はっはっはー、あいかわらずアタシのファン層終わりすぎてない? いやいやオメーら見てろよ? こっから完璧に逆転してやっから!」

 

 震える足を叩いて気合いを入れ、大剣を構え直す。

 口の中に広がる鉄臭さは少しもおくびに出さず、璃菜は周囲を飛び回る人工精霊カメラに向かってニィっと笑ってみせた。——こんなのは、ただの痩せ我慢だ。


(——こんなところで死んでらんない。……アタシにはまだ、やらなきゃいけないことがあるんだよ!)


 目の前にはダンジョン中層に巣食う手強い魔物たちが、無数に蠢いている。

 ミノタウロス、グレイトボア、ロックバード、さらには普段ならば絶対に避けて通るサイクロプスまで。……正直に言えば、心が折れそうだった。


「……ちっ、上等だよ。全員魔石にして稼ぎの足しにしてやんよ!」


 璃菜は萎えそうになる闘争心をなんとか奮い立たせ、大剣に戦意を集中させていく。


「すーっ、ふーっ……。これでも喰らいなっ! ——やぁぁああああっ!!!!」


 裂帛の気合いと共に、璃菜は魔物の群れに向かって全身全霊の力で大剣を振り下ろす——!


 ゴガァアァァァアアアアアンッッ!!


 莫大な威力を秘めたその一撃は、三体の魔物を瞬時に肉塊に変えて、更にダンジョンの硬質な床に巨大なクレーターを刻み込んだ。


――――――――――

@shin1LOW:うわっはぁヤバすぎぃ!

@shishimaiZZ:りぃなたん人間辞めたん??

@GGG:お前もゴリラにならないか?🦍

@善玉菌太郎:もうなっとるやろがい

――――――――――


「うっせーのよバーカバーカ! 次ゴリラって言ったら絶交だかんね!」


 璃菜は配信画面のコメントに軽快にキレ返す。

 リスナーとのお約束的掛け合いでカメラに笑顔を向けつつも、実際には璃菜の気力と体力は底をつこうとしていた。


 だがそんな状態を知ってか知らずか、璃菜の一撃を受けて逆上した魔物たちが唸りを上げて一斉に飛びかかってきた。


 ミノタウロスの斧が空気を引き裂き、回避した璃菜の軽装鎧をかすめる。グレイトボアの牙が璃菜の脚を鋭く抉り、ロックバードの爪が逃げ遅れた背中を切り裂いた。


(くっ、そぉぉぉぉぉっ!!)


 回避と防御が間に合わずに、損傷ダメージが増えていく。敵の波状攻撃の僅かな隙に大剣を振うが、体勢の整わない攻撃は敵の生命には届かない。

 ——永遠に途切れない敵の波状攻撃に、璃菜は徐々に追い詰められていった。


 この状況に、普段璃菜の配信でお気楽なコメントで盛り上がっていたリスナーたちも青褪めていく。……これは本当に不味いことになるんじゃないか、と。


――――――――――

@世界のNAKATA:なぁおい誰か救援要請したか……?

@DT-king:可哀想なのは抜けない

@kikkun66:えぐいえぐいえぐい

@鬼狩丸:バカがダンジョン舐めてるからこうなんだよ

@りぃなたんガチ勢:死ぬなりぃなたぁぁぁぁん!!

――――――――――


 コメントが滝のように高速で流れていくのを横目に見ながら「ヤバくねーってだいじょぶだいじょぶ」とうわ言のように璃菜は呟くが、自分の意識がだんだんと遠のいていくのを、他人事のように感じていた。


(あ、コレはマジでダメかも)


 血を流しすぎた。

 地面がふわふわと頼りなくなり、

 頭に霞がかかったように、なにも、かんがえられ……

 

「!? ぐあぅぅっ……!?」


 単眼の巨人サイクロプスに片手で胴を掴まれ、持ち上げられてから初めて、璃菜は自分が敵に捕まったことに気がついた。……完全に意識が飛んでいた。


 サイクロプスの巨腕が璃菜の胴を締め上げ、肋骨が軋む痛みに、思わず悲鳴を上げてしまう。


「勝手に、触ってんじゃねぇ……よっ! アタシはそんな、安く、ねぇ……んだぞ……!」


 なんとか虚勢を張るのがやっとの璃菜を見て、サイクロプスの一つ目が加虐の愉悦に歪んでいく。


(くそ……こんなところで……夕紀ゆうき……)


 逃れられない死の予感が全身を貫き、璃菜の心は絶望に染まっていく。たった一人の家族である弟のことを想うと泣き喚きたい気持ちになった。……だが。


「へへへ、アタシを食ってみなよクソ野郎。腹の中から八つ裂きにしてやる」


 決して自分のリスナーに泣き顔なんて見せるわけにはいかない、と璃菜はあくまで獰猛に笑う。

 

 サイクロプスは怯んだ様子のない璃菜に不快感を感じたのか、璃菜のことを頭から噛み砕かんと大きく口を開いた、その瞬間。



『——黄泉よりいでよ、剣豪スケルトン“破山ハザン”!』



 璃菜の目の前を銀色の閃光が稲妻のように走り抜け、ずるり、とサイクロプスの腕が斜めに



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