第23話 気にしないでね、糸美川さん 2

「それで、僕の評価ってどんな感じ?」


 能美高校では、下校時に飲食店等に立ち寄ることを禁止されていない。

 そんなわけで、作戦会議ということで糸美川さんとアースとフードへと立ち寄っていた。 


 ちなみに、立ち寄っても良いけれど、お店に迷惑をかけたり、学校へと何か連絡があるようであれば、課題によるペナルティを課されます。

 制服ではなく、私服で訪れることを推奨されている。


 入学しておいてなんだけど、面白いよね、うちの学校。


「ええと、そうですね。まずは湊君が辛い思いをする思い込みはありません」

「おー!じゃあ別に解決する必要はないね!」

「いやそんなワケないだろ」


 オタクと思われているわけではない。

 糸美川さんのその報告に、小さくガッツポーズの僕。


 それを見て糸美川さんのジト目を食らってしまう。

 うんうん、調子が戻ってきたようで何よりだ。


「言っとくけど、湊。そういう軽薄なノリは、良く思われていないからな?」

「……まじ?」

「コホン、ええ。私とのやり取りが、軽すぎる部分について、疑問視されていましたね」

「そっか……でも糸美川さんと話していると楽しいしな」

「いきなり恥ずかしいこと言わないで下さいよ、もう。はい、でも私も楽しいですから、そのことは皆さんに伝えさせてもらいました」


 それは、とても嬉しいな。

 やっぱり裏切るようなことなんてしてないじゃないか、糸美川さん。


 それどころか、僕のフォローにだって、しっかり回ってくれている。


「ですが、そのことに反発を覚えている方もいましたね、笹木さんというクラスメイトでした」

「反発?」

「はい、私に対して馴れ馴れしいと。他の方と比べて、彼女は私の感情は配慮していただけませんでしたね」


 しかし、それに対して良くない感情を覚えたクラスメイトもいたようだ。

 成程、だから糸美川さんは申し訳なさそうにしていたのか。


 うん、問題なし。

 中学時代にもね、そういうことありましたし。


「ありがとね、糸美川さん。庇ってくれて」

「当然です、友達なんですから」

「それじゃ、これからもよろしく。その笹木さんのことは気にしないで行こう」

「勿論。けれど、それで大丈夫なんですか?」

「うん。糸美川さんは、普通にしておいてもらえれば。こちらの言葉、ちゃんと聞いてくれる人がいるっての分かるのもラッキーじゃない?」

「そうですね、やはり少し距離はとられていましたから。いい機会だと考えて、話が合いそうなクラスメイトの方とお話してみますね」


頷くと、優雅な所作で、ドリンクを飲む糸美川さん。

すげぇ、ストローなのに、音が出ないよ、サイレンサー?


「もう。じろじろ見ないで下さいよ。恥ずかしいですって」

「うわ、ごめんごめん。マナー違反だった」


 僕は、余りにも注目してしまっていたのだろう。

 糸美川さんに窘められて、慌てて謝罪。


 いかんいかん、エチケットと言うか身嗜み向上的にもまずい行動だった。

 でも、ついつい目で追いかけちゃうんだよな、糸美川さんのこと。


「見てばかりでなくて、褒めてくださっても良いんですよ?」


 イタズラっ子の様な表情の糸美川さん、楽しそうだ。

 もう、心を読まないでってば。


「違うからね、糸美川さんって何を頼んだのか確認しただけだから」

「うーん、そういうことにしておきましょうか、ふふ」

「だからー違うからねー」


 はぐらかすように、僕もストローでジュースを飲む。

 音を立てない様に気を付けたけれど、中々に難しかった。


 食べ物はポテトなので、行儀よく食べれる。

 そう言えば、糸美川さんはドリンクのみだ。


「糸美川さん、ポテト食べる?」

「あ、大丈夫です」

「遠慮しなくてもいいけど?Lサイズだし」

「遠慮していると言いますか……その、食事には気をつけているので」


 僕がポテトを勧めると、糸美川さんにやんわりと断られてしまった。

 とはいえ食べたくない、僕の勧めが迷惑ということではないようだ。


「私が"美少女"になるのには、当然努力が必要ですから、食べ物にも注意しているんです」

「うわ、それじゃファーストフード選んだの失敗だった?」

「大丈夫です。……確かに、ちょっと腹減るけどな」


 あちゃあ、これは失敗。

 今後はコーヒーショップとかのほうが良いかなー。


「それはさておき、他にはどうしますか、湊君」

「そうだな……ちなみに、クラスメイトの男子ってどんな感じ?」

「そうですね……普通に、応対できていますかね。揶揄ったり、奇異の視線を向けるような方はいないですね」


 僕の問いかけに、しばし考えこむと、男子に関しては特に問題なさそうだ。

 というかだからこそ僕が目立つのかな。


「それじゃ、男子への対応はそのままでいこう」

「分かりました、それで湊君はどうされるんですか?」

「うん、とりあえず僕が無害な人間ってのを分かってもらおうかなと」

「無害な人間、ですか」

「そうそ、女子との話でさ、僕の入学式の病欠、話題になっていなかった?」

「……確かに。何か問題を抱えているのではと気にされている方もいましたね」


 やっぱりかー。

 良くないことだけど、それこそ僕が嫌う偏見の目だけれども、入学式を休んでしまうような人間に対して、変な人間ではないか?と推測してしまうのはありえることだ。


 あまり言いたくないけど、心の問題とかね。

 そして、そういう人間に寄り添うのではなく、距離を取ってしまいがちだもんね、あってはいけないことだけどさ。


「糸美川先生が指導してくれた、教えを試すチャンスです」

「ふふ、頼もしいですね、湊君」

「任せてよ」


 楽しい学園生活のためだ、張り切らざるを得ない。

 何より、僕が変な目で見られ続ければ、糸美川さんにだって良くない影響があるかもしれないし。


 それは、凄い嫌だから。


「とりあえず、明日からも昼食のお誘いがあるなら、それに応じるということで良いですか?」

「うん。よろしく。僕は僕で、まずは他のクラスメイトと話をしてみるよ。それと」

「それと、なんですか?」

「また、志原田さんとも話をしてみようかな」


 僕の言葉に、糸美川さんは疑念の表情を僕に向けた。


「……湊君、志原田さんのことが気になるんですか?」

「そういうのじゃないよ、真面目な話」


 冗談めかして、志原田さんに触れる糸美川さんの言葉に、僕は真剣な表情を返す。


「思い込みで、嫌ったり、嫌われたりするの、やっぱり苦手なんだ、僕」

「あ……」

「だからさ、志原田さんが糸美川さんの事を嫌いなら嫌いでそれで良い。それが変なことなら、僕は糸美川さんに全力で味方する」


 だけど、もしもそうじゃないならば。


「彼女が糸美川さんを、どう思ってるか知りたくない?」

「……嫉妬しているだけだと、思いますけれど?」

「だったら、糸美川さんの勝ちだね」

「もうつ」


 僕も糸美川さんの冗談に乗れば、彼女は照れながら微笑むのだった。

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