第21話 志原田さんコミュ(←オタク的表現)
「というわけで、志原田さんってなにか趣味とかある?」
「……」
週が明けて、昼休みの屋上にて。
僕が話題を振れば、志原田さんは何故か黙っている。
「ちなみに僕はオタクではないので、今はもっぱら身嗜みやエチケットを学ぶことに注力を――――」
「うんー。すとっぷしてもらっていいかな~?」
僕が現在習得したい能力兼新しい趣味にするつもりの身嗜み回りについて語ろうとすると、志原田さんに停止を命じられてしまった。
「あ、ごめんね、自分の事ばかり話して。会話はターン制……ってこれはなんかオタクっぽいか。ともかくなにかあるなら志原田さん、どうぞ」
「…………」
「どうしたのさ、志原田さん?」
「……あのさ、君」
「え?」
「どういう神経してるの?なんで普通にワタシと会話してるの?」
「え、だって僕に興味あるって言ってたし」
真顔で僕が答えれば、睨むような視線で返されてしまった。
「そういう意味で興味があるって言ってないけど」
「うん、知ってるよ」
「…………」
「志原田さんがぶっちゃけ僕個人に興味がないくらいは分かるよ。でも志原田さんが口にしたことだし。勘違いしたていで来ました」
「あのさ~湊くん」
「なにかな?志原田さん」
「性格わる」
「イイ性格とは、言われるね」
僕の返答に、志原田さんは呆れ顔で、ため息をついた。
◇
「湊くんがいぢわるなのは分かったけどさ、ワタシ弄られるのは嫌いだからね」
「いや、別にからかってやろうとかそういうつもりはないよ。というかそれはむしろ志原田さんがしそうなことじゃない?」
志原田さん、一呼吸おいて目をぱちくり。
「言われてみれば、ワタシ、君のこと翻弄する気満々だったんだけど」
「だろうねぇ。なんか誘ってる感じと言うか、ワンチャンあります!みたいな雰囲気を醸し出していたもんね」
「やーめーてー。なんか、はずい」
核心を突くと、志原田さんはそっぽを向いた。
「あーもう、なんかペース狂うなー」
「まぁ僕達初対面みたいなもんだしさ」
「それはそうなんだけどー。もうちょいこうチョロい感じかと思ったのにー」
「手ごわいでしょ?」
「うざー」
志原田さんは、拗ねてそっぽを向いてしまう。
とはいえ、別にここから離れたり、僕を追い出したりするつもりは無い様だ。
ということで、昼食を取ることにした。
サッと大きめのハンカチを取り出して、床に敷く。
そこで、ちょっとばかり考える。
目の前の彼女に目をやれば、屋上入口の裏手にもたれかかっている状態だ。
「志原田さん、よければどうぞ」
床に敷いたハンカチを志原田さんの座るスペースとして譲ることにする。
僕はズボンだし、叩けば問題ないだろう。
「ふーん、紳士じゃん」
「専ら精進中なんだ、こういうの」
「糸美川さんにー倣ってってこと?」
「うーん、彼女の場合は、紳士じゃなくて淑女かもだけどね」
僕の提案に、しばし志原田さんは悩んだようだけど、意を決したかのように、そこへと座った。
「とりあえず、お昼食べよっか」
「うん、そうしよう。一人で食べるの寂しいからさ」
「えーっと。何かあったのー?」
「そりゃもう、思わずプランを全部捨てて志原田さんに普通に話しかけるくらいには」
「……ちなみにそのプランって」
「一人で構えているときに、志原田さんが襲来してくるだろうから、返り討ちにしようかなと」
「……オタクっぽ」
ジト目でオタク呼ばわりは傷つくなー。
でも、これに関しては事実だからやっぱりダメージ少ないな。
……やっぱり、勝手に決めつけられるのが苦手だ、僕は。
「それでー?糸美川さんのためにー、ワタシを撃退しようとした湊くんはなんでワタシに話しかけてるワケ―?」
「企みとして一人になってるんじゃなくて、ガチでソロごはんになっちゃったから、寂しくて」
僕の発言に、きょとんとする志原田さん。
パーマをかけているのか、規則正しく流れるショートヘアが揺れる。
「え?なになに、糸美川さんに捨てられちゃったの?」
目じりを抑えながらくすくすと、笑い出す。
もう、笑い事じゃないんですよ、僕としては。
「そんなわけないでしょ、僕と糸美川さんは友人だよ?」
「えー。じゃあ何で一人でいるの?寂しいなら慰めてあげよっか?」
「うん、慰めては欲しいんだけど」
「欲しがりさんには提供しませーん。それで?結局何で一人なの?」
「女子クラスメイトに遮られちゃってさ」
本日午前の授業が終わった時の事である。
今日も今日とて、僕は糸美川さんと一緒に昼を過ごすつもりだったのだが。
女子生徒より掛かった糸美川さんへのお誘いの声。
一緒に昼食を取ろうという提案に、当然というか僕は含まれていなかった。
女子だけ、ということであるので仕方がない、僕は不参加だ。
糸美川さんが、クラスメイトから女子扱いと言うのは何よりである。
そんなわけで、まだまだクラスになじめない僕としては、とりあえず人の少ない屋上飯を選択したわけである。
そうしたら、志原田さんが居たのでこれ幸いと声をかけたわけだ。
我ながら節操ないけれども、そもそも話しかけるつもりだったしね。
「ワタシ、そういうの嫌いだな」
別に何てことのない出来事だというのに、志原田さんは嫌悪感を示していた。
「そう?確かに男子を交えて御飯だべるのって抵抗あってもおかしくないと思うけど」
「ホントは、分かってるでしょー?」
おどけてみれば、少しばかり志原田さんは怒った口調だ。
そりゃまあね、ちょっとダメージはあるよ、偏見の目を向けられているわけだからね。
「……どうも、警戒されているみたいだね、僕」
「群れて集まって、そういう攻撃、きらい」
「僕も、嫌だね」
「でも、何よりも」
これまで見せていた、緩く軽い雰囲気ではなく、何かをにじませるように、志原田さんはそれを、口にする。
「糸美川さんが、嫌い」
おそらく、彼女の本音を。
「そこで君を選ばないで、誰にでも良い顔して振舞う、あの子が嫌い」
彼女はそう言い切って、僕の顔へと視線を移す。
「それでも~ワタシとおしゃべりするの?」
冷え切った感情を笑顔に変えて、僕に向かって言い放つ。
「そりゃね、僕、志原田さんのこと、嫌いになりたくないし」
僕の言葉に、志原田さんは今日何度目かの溜息を吐いた。
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