第19話 志原田さんはオタクに優しい? 2

「ふふ、驚いてる。君にはワタシが女の子に見えていたんだね、嬉しいな~」

「それは、その」

「照れることないんだよ?ワタシを意識してくれるの嬉しいし」


 "男の娘"と自らを自称する志原田さん。

 つまり目の前の人物は、男性であるということだ。


 戸惑っている僕をよそに、志原田さんは、相変わらずこちらを試すような雰囲気と言動で、近付いてくる。


「すすす、ストップ!近いから!」

「いいじゃーん。男同士だよ?気にする必要ないって」

「そうじゃなくて!そういう問題じゃなくて!」


 密着する距離まで近づこうとする彼女に対して、慌てて距離を取る僕。

 とりあえず糸美川さんの方へと逃げた。


「え~傷つくな~。やっぱり糸美川さんの方が良いんだ」

「そ、そういうのじゃなくて!」

「そうですね、貴方に湊君との関係を邪推されたくありません。私たちはただの友人ですよ」


 糸美川さんは、僕を庇うように志原田さんの前に立ち塞がると、僕達が特別な関係であるかのような発言を訂正した。


 ありがとう、糸美川さん。

 僕この人苦手だ……。


「そうなんだ、だったらワタシと付き合おうよ、湊くん」


 しかし、志原田さんはそんなことを意にも介さず、とんでもないことを言い出した。


「湊くん、"男の娘"が好きで、だから糸美川さんと一緒にいるんでしょ?でも、普通の友達だって言うなら」


 そこで彼女は、一度言葉を切って、再び蠱惑的な、こちらを挑発するような笑みを浮かべた。


「ワタシなら、付き合えるよ?だから、仲良くしようよ。"糸美川さんと同じ"、"男の娘"のワタシとさ」


 そして、僕を誘うように、交際できると、男の娘であることを強調してきた。

 何より、糸美川さんと同じであると。


「違うよ」

「え?」


 けれど、その言葉は失敗だ。

 僕はすっかり冷静になることができた。


 強い口調で志原田さんの言葉を否定すると、彼女は意外そうな顔をしている。


「糸美川さんは、"男の娘"じゃない。僕はね、そんな理由で糸美川さんと仲良くしているわけじゃないんだ、だから、君と関わる気はないかな」


 僕を庇う糸美川さんと入れ替わるように前へと進み出る。

 そして、志原田さんから視線を逸らさずに僕は彼女へときっぱりと告げた。


「ふ~ん、残念」


 僕の言葉に、少しも残念そうな感じはなく、志原田さんはそう言った。


「糸美川さんなんかと仲良しみたいだからさ、きっと女性の格好している男性が好きだからかな~と思ったのにな」

「志原田さん、そういう言い方は、良くない」

「そ。分かりました~それじゃね~」


 彼女は面白くなさそうにすると、その体を翻して、屋上の入口へと向かう。

 そのまま屋上から立ち去るのかと思えば、再度こちらへ振り返った。


「君に興味があるのは本当だからさ~。またね、湊くん?」


 ……つまらなそうな顔をしながら、そんな事言われてもな。

 とはいえ、とりあえずこの場は収まったかな。


「大丈夫?糸美川さん」

「ええ、まぁ」


 心配して声をかければ、糸美川さんは仏頂面だった。

 そんなに志原田さんの事が嫌いなのか。


「その、不満があるなら聞くけど。僕、糸美川さんの味方だし」

「……ありがとうございます。それでは一つ、よろしいですか?」

「勿論」


 さてさて、一体彼女へどんな不満を持っているというのか。


「湊君、近付かれたとき、私を盾にしませんでした?」

「……しました」

「私が、彼女のことを嫌っているのに?」

「ああいうタイプ、苦手で」

「湊君?」

「次からは、僕が糸美川さんを守るから」


 いやホント、告白先輩男子じゃないけれど、そういう場面ならきちんと糸美川さんを守るからね?

 余りにも意外な行動をしてきたから面食らってしまっただけで。


「それじゃ、駄目かな?糸美川さん」


 少し格好つけて言ってみれば、糸美川さんは一度、ふう、と息を吐いて、普段の穏やかな表情へと戻っていた。


「ごめんなさい。意地悪なことを言いました。湊君なら、守ってくれますよね」

「お任せあれ」

「はい。頼りにしています。それと」


 すっかりといつもの糸美川さんだ、一時はどうなるかと思ったけど、とりあえず何とかなって良かったよ。


「先ほどは、私が男の娘ではないと断言してくれて、ありがとうございました」

「お気になさらず」

「もう。私は真剣ですよ」

「糸美川さんを悲しませることはしないって、言ったでしょ」

「それは、ちょっと格好つけすぎな気がしますね」

「厳しいなぁ、先生は」

「優秀な生徒には、ついつい求めてしまうものですよ」


 お互い顔を見合って、笑い合う。

 糸美川さんは"美少女男子"。


 発案者ですから、当然その責任は負わせていただきます、ってことで。

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