第24話:心を閉ざすサキ

「ルウ、サキが目を覚まさない……診てあげて」


 私はすぐに、サキのことをルウに報告した。

 様子を見に来てくれたルウは、サキに手を翳して状態チェックをしてくれた。


「精神的なダメージが大き過ぎたようだね。サキは心を閉ざしてしまっている……」

「どうすれば治るの?」

「原因となったレビヤタを倒せば、目覚めるかもしれない」


 レビヤタが見せた映像で精神的ダメージを受け、心を閉ざして眠り続ける水の大天使サキ・ジブリエル。

 その眠りは、レビヤタを倒せば覚めるの?

 でも、サキが心を閉ざした今、絆スキルは使えない。


 なら、どうするか?


 他の方法を試せばいい。

 私はこれまでに、魔界四天王を絆スキルなしで倒している。

 むしろ、絆スキル使って倒したこと無いし。


「サキ、待ってて。あの変態は私が必ず倒すからね」


 一晩様子を見るために付き添った後、私は眠り続けるサキの額にキスをして囁く。

 サキが受けた屈辱と悲しみは、一体どれほどのものだろう?

 心を閉ざすくらいだから、物凄いトラウマなっていると思う。

 仮にサキが途中で目覚めたとしても、レビヤタに再び会わせて精神ダメージを受けさせたくない。


 私は、単独でボス戦に向かう覚悟を決めた。


「ウリ、サキが目覚めるまで護ってもらえる?」

「引き受けよう。客室はこちらだ」


 私はサキを抱いて、ウリの家を訪れた。

 ウリは何も聞かずに引き受けて、家の中に招いてくれた。


 客室のベッドにサキを寝かせると、私はウリの家を出てファーの家へ向かう。

 サキが戦線離脱した状態でのレビヤタ戦では、ファーから学べるスキルが役に立つと思う。


「ファー、回避系と奇襲系の戦技を教えて」


 私はファーのところへ通い詰めて、回避と奇襲関連の戦技を学んだ。

 ファーは弓による攻撃の他、回避や奇襲を得意とするキャラだ。

 聖なる慈雨を使った圧倒的な範囲攻撃が使えない今、代替に向くのは奇襲か、弱点を狙った攻撃だと思う。


 変態魔族を倒すにはどうすればいいか?

 私は必死で考えた。


「レビヤタはいきなり忍び寄るなど不意打ちが多い。素早く対応できるようにこれを持って行くといいよ」

「ありがとう」


 ファーがくれたのは、護身用の短刀だった。

 魔族には大きなダメージとなる光の力が付与されている。

 小回りが利くので、突然敵に近付かれた際に反撃しやすい。

 私はズボンの上からベルトで取り付け、チュニックの裾で隠すように短刀を隠し持った。

 攻撃による物理または魔法のダメージなら、盾スキルや不屈の反撃で対応できる。

 けれど、組み伏せられたりするようなダメージを伴わない敵の行動には、盾スキルは対応できない。

 そんな場面で、短刀が役立つと思う。



   ◇◆◇◆◇



 修行を終えて、いよいよ明日はレビヤタ戦に向かう前夜。

 天使長ルウは、私に口付けて強大な光の力を注いでくれた。


「レビヤタは男色で知られるが、美しければ女性も襲う。ヒロが襲われないように体内を光で満たしておいたよ」

「ありがとう。でも私は普通の容姿だから襲われないと思うよ」


 ルウはやけに心配している。

 私がキョトンとして言ったら、溜息をつかれてしまった。

 ルウはジト目で私を見てくる。


「何を言っているんだか。君は自分の容姿の評価が低いな」

「そお?」


 ルウに言われても、私にはよく分からない。

 この世界での私の容姿は、現実世界の15歳頃の容姿だ。

 人気モデルでもあるケイと比べたら、平凡な顔だと思うんだけど。

 私を捨てた父も母も義母も、可愛いなんて一切言わなかったし。

 自分では見慣れた顔なので良いのか悪いのかなんて全く分からない、多分普通かなって思ってるよ。


「このゲームでは名前が出ないけど、いずれアニメ化してヒットして、主人公声優の顔出しをすれば君は注目されると思うよ」

「ルウ……だよね? アニメ化とか何で予想できるの?」


 ルウの言葉に、私はまたキョトンとしてしまった。

 ルウは、確かこのゲームのAI……だった筈。

 天使長を演じるために作られたAIが、アニメ化の話をし始めるとは思わなかったわ。

 もしかしてケイがしれっと入れ替わってない?

 私が困惑しながら見ていると、ルウはクスッと笑った。


「私はケイの知識を得ているからね」

「そっか。それでなんだか現実世界の人みたいなことを言うのね」


 ルウはときどきケイかと思うような発言をする。

 なんだかすっかり現実世界の人間ぽい性格になっているよ。


「ヒロは綺麗だよ。10年前に公園で逢ったケイを魅了したくらいにね」

「えっ?! 初耳だけど?!」

「小学生に魅了されたなんて、ロリコンと思われそうだから黙っていたらしいよ」

「思わない、思わない、ケイが言ってくれるなら喜ぶだけだよ」


 10年前のあの日。

 声をかけてくれたケイを見上げて、なんて綺麗なお兄さんなんだろって思ってた。

 ケイは可哀そうな子供を放置しておけなくて、保護してくれたんだと思ってた。


「公園で泣いていた子供が可愛すぎて保護したなんて言ったら、児相が引き取らせてくれないだろ? だから、言えなかったんだよ」


 ルウがバラした、意外なケイの裏事情。

 そんなこと告げられたら、深層意識で待機中のケイが慌てているかもね。

 でも、両親に捨てられた私に、魅力なんて無いと思う。

 私に魅了されるなんて、きっとケイだけだろうね。

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