第23話 徹夜
澤田芽衣の家は、学校から徒歩10分のワンルームマンションだった。比較的新しい綺麗な建物だ。
「すごいところだな」
「オレの家は学校からは遠いからな。親が無理して借りてくれたんだ」
エレベータに乗り、6階で下りる。すぐ目の前の部屋の扉を芽衣は開けた。
「ここだ、入れ」
「お邪魔しま……なんだこりゃ!」
散らかり放題の部屋を目にして足が止まる。
「これも先輩の仕業か?」
「アホか! 先輩はオレの部屋に来た事なんてない!
「じゃあ、全部、お前のせいじゃないか!」
「うぅ……人を呼ぶなんて考えたことも無かったから、仕方ないだろ」
「いや、普段から片付けとけ! まったく……」
俺はまず掃除から始めることにした。まあ、俺の部屋も人には言えないけどな。
「置いておく場所を決めておくんだ。本はここ、リモコンはここ、お菓子はここ」
前に桜子が俺の部屋に来て言っていたことを思い出しながら、芽衣に言う。
「なるほどな……」
どうやら芽衣は片付けられない女子らしい。俺は粛々と片付けていく。
「ん? これは……」
どうみてもブラ――
「触るな!」
慌てて芽衣がひったくる。
「お前、なんで下着を床に置いてるんだよ」
「たまたまだ! 昨日は疲れてたから……」
「他にも落ちてないだろうな?」
「無い! ……と思う」
「ったく……」
それにしても、女子の下着なんて初めて触ったかも。しかも芽衣とはいえ、クラスメイトの女子。考えてみたら凄くエッチだった……
「お前、なんか変なこと考えてるだろ?」
なぜかすぐに芽衣にバレてしまう。
「ち、違う!」
「いくら彼女がいないからってオレなんかに欲情するなよ、まったく……」
「してねーから!」
「本当だろうな。ったく……どんだけ女子に飢えてるんだ。女なら誰でもいいのかよ。こっちは女子の底辺だぞ」
「自分で言うなよ。でも、そんなことないと思うけどな」
「は? 事実だろ。お前の周りには河原梅とか高岡京香とかいるんだから、比べものにならんだろうが」
「でも、芽衣には芽衣の魅力があると思うぞ」
「う……」
しまった。口説く感じになってしまった。芽衣は顔を赤くしたまま何も言わなくなった。俺も恥ずかしくなって黙ってしまう。だが、しばらくして芽衣が話しかけてきた。
「そろそろ作業を始めないと」
「そ、そうだな」
「パソコンは起動してある。ソフトは……これだ。あとは……」
「だいたい分かるぞ。俺が作業をやる。お前は眠ってくれ」
「そういうわけにいくか。オレも今日は徹夜で――」
「無理するな。今の状態で作業してもミスするだろ。まずは俺がやるから。終わった頃にお前を起こす。そこからは一緒にやろう」
「竜太郎はいつ寝るんだよ」
「完成したらな」
「朝までかかるぞ」
「そうなったらそうなっただ」
「ったく……じゃあ、それで行くか。すまんが、ちょっと寝るぞ」
「おう、お休み」
俺はパソコンに向かった。芽衣はTシャツとショートパンツに着替えてきて、少し離れたところに布団を引いて寝始めた。
(さてと、やるか)
俺は見よう見まねで作業を進める。ソフトの分からないところはネットやAIで調べてなんとか作業を進めていった。
だが、どうしてもうまくできないところもある。そういうところはあとで芽衣に任せるしかないな。俺は自分が進められるところまでは進めた。
「ここまでか……」
仕方ない。芽衣を起こそう。俺は芽衣のそばまで行く。
「芽衣?」
呼びかけるがまだ起きない。
「まったく……いつまで寝てるんだ……」
そう思い、芽衣の顔を見た。眼鏡を外しぐっすり寝ている。いつもと違って、子供のような、おだやかな寝顔だ。こんな顔の芽衣は見たことがなかった。
(なんか、かわいいな……って、何考えてるんだ、俺は)
思わず頭を振り、芽衣の体をゆする。
「芽衣、起きろ。作業終わったぞ」
「う……終わったか」
芽衣は起き上がり眼鏡を掛けた。
「竜太郎、一応聞くけど、寝てる間にオレに変なことしてないよな?」
「するか!」
「じゃあ、オレを見ながら何かしたとか?」
「するわけないだろ! まったく……」
「冗談だよ……で、どこまで進んだ?」
オレはパソコンの画面を見せる。
「おー! すげーじゃん!」
「だろ?」
「あと少しだな。これなら朝までには出来る」
「そうか」
思わずほっとした。だが、その瞬間、緊張が緩んだのか、オレのお腹がグーと鳴った。
「そういえば、晩飯食べてなかったな。食べるか? カップならあるぞ」
芽衣がカップラーメンを2つ出してくる。
「こういうとき、女子なら普通、なんか作るだろ」
「そんなのは偏見だ。男女差別だ。男子が作ってもいいんだぞ」
「俺が料理が出来るわけないだろ!」
「オレもだ。文句言わず食え!」
結局、カップラーメンを二人ですすることになった。なんで夜中に女子と二人でカップラーメンなんだよ……こいつ、ほんと男同士って感じだな。
「じゃあ、始めるか」
「ここのやり方が分からなくて……」
「ふむ、ここか。ここはだな……」
俺は分からなかったところを芽衣に言っていく。芽衣はそれを一つ一つ仕上げていった。それにしても距離が近い。一台のパソコンを二人で操作してるから仕方ないけど。芽衣とはいえ、意識しないようにするには相当の理性が必要だった。
「あとはここだ」
「ふむ……よし、これで完成だ」
「終わったか……」
「あとは最終チェックだな」
「それは明日で良くないか? 一眠りしてからにしようぜ。芽衣も寝よう」
もう深夜と言うより朝が近い時間になっていた。
「ダメだ。最後までやらないと」
「最終チェックが寝不足だとミスが出るぞ。寝た方が良いって。朝早く学校に行ってやろう」
「……そうだな。それで間に合うか」
「うん。寝るぞ」
「わかった。竜太郎、布団使っていいぞ」
「はあ? お前の布団だろ」
「竜太郎は客人だからな。お前が使うべきだ」
「いやいや、そこでお前がさっきまで寝てたんだぞ。そこで寝れるかよ」
「なんでだ? 意識するのか?」
「意識とか……とにかく、お前が布団!」
「一緒に寝るか?」
「バカ言うな!」
「アハハ」
芽衣が笑った。なんか2人でバカ言って、楽しいな。そう思ってしまう。
「わかった。オレが布団で寝るから。竜太郎は適当に寝てくれ」
「ああ。気にしないでくれ」
「おやすみ、竜太郎」
「おやすみ、芽衣」
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