柴犬と巡る並行世界の日本・ゾンビアポカリプスを添えて

@MoreTabasco

プロローグ

 バチパチと弾ける音に、不意に目が覚めた。

 アウトドアチェアでいつの間にやら微睡まどろんでいたようだ。

 未だ世界は暗く、目の前の焚火たきびの炎だけが辺りの森の木々を照らしている。


「クゥーン」


 鳴き声に目を向ければ、隣に伏せていた柴犬がこちらを見て鼻を鳴らしていた。


「ちょっとうたた寝してたみたいだ、おいでサクラ」


 おもむろに立ち上がり近寄ってきたサクラを、適度に撫で回す。

 きちんとお座りをして尻尾を振る愛犬サクラに少し癒されながら周囲を伺う。

 センサー・・・・にもレーダー・・・・にも反応はない。


「ふぅ……」


 アラート・・・・が鳴るとはいえ、油断大敵にも少し寝てしまっていたみたいだが、ひとまずは安心し焚火に薪をくべる。勢いが落ちていた炎が少し火勢を増す。

 サクラもそのまま伏せてくつろいでいる。微妙に冷めてしまったコーヒーを飲みつつカップを戻す。


 おもむろに膝の上にあるを手に取る。

マガジンを抜き弾数の確認を行い、セーフティを外しチャージングハンドルを少し引き、チャンバー薬室に9mm弾が装弾されていることを目視する。

 それからドットサイトの確認をして構える。


 身体が最適・・な射撃姿勢をとる、またセーフティをかけ直し、膝の上にSIG MPXを戻す。

 いつも通りちゃんと動けることに安堵し、身体を椅子に預ける。


 何故、僕が日本では到底持つことの出来ない代物を持っているのかにはキチンと理由がある。


 現在名は小鳥遊 冬哉たかなし とうや前世・・はジョージ・リーブス、前々世・・・佐藤 康太さとう こうた、いわゆる転生者? だ。

 

 前々世はどこにでもいるオタクな大学生、サブカルもゲームも大好きで、ジャンルはポストなアポカリプス物を好んでプレイしていたし、映画もそういった物を多く観ている。


 なんの因果か死んだら(死因は記憶にない)、1番長くやっていたゾンビゲーの自キャラへと姿が変わって立っていた。

 転生というよりその場に作成されたという感じである、なので転生者? とハテナが着いていた。


 ただ唯一、朗報であったのはMOD検証用のセーブデータだったので、デバッグモードありの何でもありチートのやりたい放題だったこと……。


 悲報はゲーム世界ではなく並行世界的なところに転生してしまったこと、もうゾンビは発生していてパニック状態であったこと、そして状況を全然理解出来なかった僕の初動の遅さであろう。


 なのでチートがあってもこの世界は僕にとって地獄でこの世の終わりであった。


 ゾンビに喰われる人々、残った物資を奪い合い争う者たち、好き勝手する暴徒ヒャッハー、何らかのカルト集団などなど……。


 僕自身が実際に悲鳴を死の絶叫を聞き、様々な暴力と胸糞を見たし、食料を分ければ寝込みを襲われ、武器を渡せば裏切り、助けた人々が他の集団や暴徒達に蹂躙され滅ぶさまを見せられると挙げればキリがない程最悪だった。


 そもそも一般の日本人が戦うことに慣れてるわけないし、人を攻撃することも直ぐに出来ない。


 そのせいでチートも把握しきれずに何回も死にかけたし、今思えばもっと上手くやれただろうにと後悔することもある。


 ポスアカ物をたしなんでいてチートもありでその体たらくかと笑われても、平和ボケしてゲーム感覚だった転生初期の僕は言い訳すら出来ない。


 慣れてきて結構色々チートを使ってがんばってみたけれど、結局人の心は移ろいやすく脆い、人々は依存や責任転嫁に怠惰に堕落、最期には全責任が僕に来る、そして僕が悪いということなる。


 やってられない、そうして諦めた。


 良い人もすぐに殺されるか、少数で危険を覚悟で彷徨さまよい滅びを伸ばすか、自ら世界から去るか、結局は悪に染まっていく。


 ゲームやモニターというフィルターのない世界は、残酷で無慈悲で救いのない絶望するには十分な場所だった……。


 それでも備わったチートはチート、装備も物資も食料も娯楽も、自分だけならすべて世は事もなし。

 心は澱み切っていたが死ぬ理由もないと、生きるだけなら問題はなかった。


 ただ何もかも見ないで先延ばしにしているのは分かっていたけれど……。


 Perk特典かMODかどちらかの影響なのか、特殊・・な柴犬の子であったサクラを拾い一緒に生きていたが、近くでなんらかのヤバい兵器が使われたらしく。


 生に飽きていた僕はチートやらなんやらを切っていて、サクラと仲良くあの世行き……かと思えばまた転生……。

 

 そのまま全部引き継いでチート満載、サクラも着いてきて(良かった)今世に、良し良し平和な日本だやったぜ、これで穏やかに暮らせると思えば……。


「これだもんなぁ……」


 全世界で、日本で、ゾンビパニック!

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