第45話 対オオサソリ① 副リーダーの重さ

 隊列が組み変わる。マイラーが抜けたパーティーは四人となり、ステートリッヒの前方の部隊に入ることになった。

 マイラーが指揮していた残り二組のパーティーは、俺とダリルのパーティーと一緒に後方部隊となる。後方部隊は左前がダリルのパーティー、右前が俺達だ。


「ぐへへ、アックス策士だな〜。本当にリチャーズをリーダーにさせやがった」


「俺は何もしてない。リチャーズの行動がそれを招いたんだよ」


 リーダーじゃない。副リーダーね。副が付くかどうかで大きな差があるからね。まったくアックスに図られた感じだよ。


「……これ、当然……」


 ファンナ、当然ってどこがだよ。まったく。他に適任者はいるでしょうに。

 例えば前方のうざ絡みするニールセンがいるパーティー、その中のガイアスはなかなかいい立ち回りをしていた。ガタイの良い剣士で一メートルはある盾を上手く使って戦う。

 彼はあのやんちゃなニールセンを指示して上手く立ち回っていたし、顎が広く優しい顔つきは好感度が持てる。彼が副リーダーになってもみんな納得するだろう。


 あとは意外とファンナが副リーダーもありだなと密かに思っている。彼は常に余裕があるし、戦況をよく見ている。コミュニケーション能力が難なのは弱点ではあるけどもね。


 警戒しながら進んでいくが、また一向にオオサソリは現れない。


「ねぇ見て……」


 エリィが指した方向を見る。


「先に入った冒険者かな……」


 洞窟内は環境が安定しているため白骨化が進みにくいと聞くが、今眼の前にいる遺体は白骨化が進みつつある。オオサソリが遺体を食べているからだろうか?


「なぁ、オオサソリってどこから食事を得てるんだろ? こんな洞窟奥深くまで行くと餌なんてないだろうに」


「それはたしかにね。今思うと変だわ。洞窟手前の方ではコウモリや虫を見たけど、ここまで来るとさすがに生き物を全然見かけない。もし本当にオオサソリの巣がこの先にあるとしたら、それはとっても変よ」


「だよな。どういうことなんだろ? 近くに外へと抜ける道があるってことかな?」


「リチャーズ……」


 前方を見ると、ステートリッヒが止まるよう指示を出していた。

 彼は俺を呼びつけた。俺は中を突っ切って彼の元へと。


「見てみろ」


「広い!?……」


 俺達が今歩いてきた道も天井の高さが十メートルと十分に広かったが、それよりも数十倍の広さ、それが目の前にドーム状に広がっていた。


 足場は良くはないが下へと降りれる坂があり、天井からは光の柱がいくつも通っている。天井の一部は土壁ではなく木の根がぎっしりと絡み合っていて、その隙間から外光が漏れている。


「落石だな。根は絡み合ってるから、なんとかそのまま維持してるみたいだな。おい、あれを見ろ!」


 ステートリッヒが指した先を見る。驚きだ。その先に見えたのは人工物、巨石の彫り物がこのドーム状の洞穴ほらあなの壁面に沿って何個も建っている。

 魚のような顔に人の身体、下半身は獣のような脚になっている。宗教か何かの偶像だろうか?


「私も見たことがないな。人魚などを崇拝するマリット教に近そうだが……ほら、あの特徴的な柱、海藻のような物が巻き付いている造形はマリット教に近い」


「カサンドラは宗教に詳しいんだ。宗教家というよりは宗教学に興味がある感じだな」


 へぇー、そうなんだ。カサンドラはニコッと俺に笑みを送る。なんて色気のある笑みをするんだ。刈り上げた髪型からして、もっと男らしい感じかと思ったが、お姉さん身があってともかくエロい。


「……また、スケベする……」


「あんたね……」


「わあ! ファンナにエリィ、いつの間に!?」


 俺の背中越しに二人はその遺跡のような場所を覗く。


「これなら、オオサソリが大量発生した理由にも納得いくわね。這い登ればすぐ外だし、木の根の感じからして外は豊富な自然がありそうね」


「だね。ここを巣にしてるってことも考えられるけど、姿は……見えないか」


「よし、降りるぞ。リチャーズ、隊は離されないようにゆっくりと歩みを進めるぞ」


「分かった。ステートリッヒ一つだけいいか?」


「なんだ?」


「ステートリッヒとカサンドラは好戦的で走る傾向がある。出来たらニールセンとガイアスのいるパーティーを前線に置いて、二人は一歩引いた所から戦況を見ていてほしい。ニールセンは好戦的だけど、ガイアスは慎重な面があるから走りすぎることはないだろうしね」


生意気なまいきだな……」


「生意気なのは分かってる。だけど隊の乱れを起こさないため、それとクエストを成功させるためにも生意気は言わせてもらう。元から生意気分かってて、俺を副リーダーに選んだんだろ?」


「まぁな……いいだろ! お前の言う通りにしてやる。よし、ガイアスを呼べ」


 カサンドラが動き、隊列を組み直した。

 ガイアスのパーティーを前線に坂を降りていく。坂は広さはあるがボコボコとした地形で足場は不安定さがある。


「エリィ、最悪になった場合、例えばここにアースクエイクを撃てるか?」


「ここって、この坂に?」


「そう」


「あんた何言ってるのよ!? こんな所に撃ったら、坂は愚か天井からの落石も考えられるわ。私達が閉じ込められちゃうわよ」


「だからだよ! 本当に最悪の場合だけだ。この隊が全滅する、それに近いことがもしあったとしたらだよ」


「……うーん、まぁ。その時はこの洞窟だと環境の影響も得られるし、アースクエイクもいつもより威力が増すと思うわ」


「よし、その時は頼むよ。最悪の場合を考えて、アースクエイク一発は最後まで撃てるようにしといてくれ」


「うん、分かったわ。でも基本は撃たないわよ! 落石で生き埋めなんてぜっったいに嫌だからね」


「分かってるって。もちろん俺もそれは嫌だよ」


 坂を降りきった。離れたところに雨水が溜まったのか水辺が見える。俺達はそこで水分補給をすることに決めた。

 エリィはアクアルミナスに水を補充する。上部のロックを外し蓋を外して、パンチ穴がいくつも空いた所から水をたっぷりと入れる。


 今の所、虫が動くような気配はしない。ここにオオサソリはいないのだろうか? 壁面にいくつも建っている彫刻が俺達を嘲笑あざわらっているかのように不気味に見える。地面がならされていることから、やはりここは神殿として扱っていたのだろう。


「あ! そういえば」


 俺はバックからラ・クアナの実を一つ取りだす。それを丸ごと口に放り込んだ。


「ん? 思ったよりも硬いな……」


 思いっきり噛んでやっと実が割れる。すると中から水が出た。口から溢れ出そうなほどの量、水はほんのりと甘く酸味がある。まさしく薄めたスポーツドリンクのような味だ。この異世界で味わったことのない懐かしい味。うん、これは上手いぞ!

 俺を真似てアックスもエリィもラ・クアナの実を食べる。


「あまいわ〜」


「こりゃあ、いけるな!」


「……それ、なに?……」


「ファンナもいる? ラ・クアナの実、甘いし疲労回復になるよ」


 彼はこくっと頷き、俺からもらう。彼はその甘さに表情をびっくりさせる。

 続いてダリルが来た。俺にも食わせろと言う。嫌々だったが一応仲間だし、一つあげることにした。ケイレスとトマスもあげない訳には行かず、一つずつあげた。


「――おい、水辺から離れろ!?」


 ステートリッヒが叫んだ。理由も分からずみんないっせいに離れる。俺達はすでに水辺からは距離を空けていた。

 黒い物体が水中から這い上がってくる。逃げ遅れたニールセンにその黒い物体が飛びつく。


「――オオサソリだ!?」


 くそ、知らなかった。オオサソリは水中にも潜れるのか。水中の中を覗くといくつもの黒い影が見える。

 ガイアスが剣で払い、ニールセンからオオサソリを引き剥がす。


「まずい!?」


 俺はすぐさまニールセンに近寄る。


「ニールセン、毒もらったか? 毒消しはあるか?」


 彼の胸元は赤く血で染まり、シャツは真っ青になるほどオオサソリの青い血が着いている。


「毒消しなんてねぇ。とっさで……針なのかハサミなのか……分からねぇ」


「いや、毒針だった」


 ガイアスが言った。

 ステートリッヒがこっちに来て、俺に向かって叫ぶ。


「おい、リチャーズ何してる! 持ち場に戻れ! お前は後方のリーダーだろうが」


「分かってる! ガイアス、これをニールセンに飲ませてくれ。毒消し薬だ」


「恩に着る!」


 俺は持ち場に戻る。戦況は最悪だ。水辺からの突然のオオサソリの襲来に横一列に対処を余儀なくされた。隊列は乱れている。


「火を放て! いっせいに油を引いて火を放つんだ」


 アックスの号令と共に横一文字に松明の火で火柱を作る。


「アックス、ありがとう」


「リチャーズ、ニールセンの様子は?」


「助かるかは分からないが、毒消し薬は渡した」


「毒消し薬はあと何本だ?」


「あと三本……」


「ここからは誰を優先的に救うか、だな……」


 その通りだ。おそらく全員を救うことは出来ない。ここからは誰かが犠牲になっていく。

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