第42話 告白② 男装への想い
「覚悟?……」
「……そう、覚悟。……僕は……形から始めた。……長い髪、切った……すごく短く。……それに、男の服着る。……少しでも姉に近づきたい……長女次女ではなく、長女長男……恥ずかしい話、でもそれだけで、同じ立ち位置思えた……」
それでファンナは男のふりを……
「……もちろん、それだけ違う。何よりも実力大事……一人、ずっと魔法の特訓する。……朝起きて晩まで……毎日毎日……すると、いくつかの魔法……詠唱無しで唱えられる、なる。……それに、僕だけの魔法、覚えた」
「覚えた魔法って、絶対防御の?」
「そう……僕だけの風魔法。……僕の魔法『ウィンドブレーカー』言う」
「ウィンドブレーカー……とてもいい魔法だ。隙が全くないし、ほぼ自動で魔法がでるなんて見たことない。それならお父さんは……」
「そう……父は僕を認めてくれた。……父の訓練、姉の代わりに……僕が受ける。……とても厳しい訓練……村を出て実践の訓練……魔物いっぱい殺す……もある。……とてもつらい……だけど、なんとかクリアできた……」
俺たちが想像も出来ないような、そんな訓練をファンナはしていたのか……。
「……だけど、僕は……」
ファンナの手が大きく震える。俺は必死に彼の手を握る。「ファンナ、大丈夫。今は俺がいる」と声をかける。汗だくの彼は「うん」と言う。
「……僕は……最後の訓練、それだけクリア出来ない。……最後の訓練……人殺す。……罪人の……。僕はどうしても、それ出来ない! ……姉の代わり、
彼は胸の辺りを強く握る。螺旋状にぐしゃっとシャツの
「……それが僕が九歳、姉は十歳の時……その日から、姉とは一度も会っていない……一度も……」
俺は手を握りしめたまま、ファンナを抱き寄せる。気づいたら自然とそうしていた。
「……ありがとう。……リチャーズの匂い……なんだか落ち着く……」
「え、そう。なんだか恥ずかしいな。ファンナもいい匂いだよ」
ファンナはぐいっと抱きしめた俺を引き離す。
「……えっち」
「え? なんでだよ。同じこと言っただけだろ?」
「違う……僕はいい匂い、言っていない。……ただ落ち着く、言っただけ……。リチャーズの、エッチな表現……」
ええ〜、どこが? そりゃあさ、そういう意味で思うこともたまにはあるよ。だけど今のは違う! 断じてな。
ファンナは口を尖らせて俺を睨んでいる。
「ええっと〜……それでダリルは? いつ出会うんだ?」
「……ダリル。彼には助けられた……」
やっぱりだよな。ここまで聞いてあれだけど、ダリルのいい話なんて聞きたくないな。整理的に受け付けにくいというかさ。
「……それから僕は……学校にも行かず……訓練もしない、一人過ごす日々。……姉のために
それだけのことがあれば無気力になるのも分かる。俺が同じ状況だったら、もしかしたら……もうすでに。
「……僕は目的失う。生きている意味、ない……思う。……だから死ぬもあり……」
俺はファンナの手を強く握る。彼は驚いて俺の瞳を伺う。彼は広角をあげる。大丈夫だよと見せるために。だけど、俺が思ったのは違った。
この異世界に来る以前のこと、なぜか俺は電車に飛び込んで自殺した時のことを思い出していた。当時俺もずっと一人だと思っていた。誰も助けてくれないし、生きている意味なんてないと。飛び込んだ時は怖さを感じなかった。電車に惹かれた時も大きな衝撃があったな程度で痛さは全く感じなかった。
だけどなぜだか今更になって、その当時の飛び込んだ瞬間の、電車への衝撃、その時の痛みを感じる。痛い、体が引き剥がされて散り散りになりそうだ。
「……リチャーズ……」
「大丈夫。……もしものことをリアルに考えてしまっただけ。ファンナに会うことがなくて、こうして話すこともなかったら、とても悲しいなって……そう思った」
「……僕はここにいるよ……」
「そうだね。余計なことを考えてしまったね。ファンナはここにいる」
「……そう」
ファンナは目を細めて笑みを浮かべる。しっとりとした笑み、その笑みに引っ張られるように、体の強烈な痛みが嘘のようにすーっと抜けていった。俺は気づいたら背中にひどい冷や汗をかいていた。
「……僕は、その時……村の外で、やせ細った木の枝に縄をくくりつけ、首をつる……そうしよう思った……けど……」
彼は当時のことを思い出したのかふふっと笑う。
「……お前、どこの者だ! 始めて見る顔だ。その縄ちょうどいい、俺の冒険に付き合え!……って、突然ダリルに声かけられる……僕、動揺した。……その時、学校の時間……村の外、子供いるはずない、から。……そしてダリル、強引に僕の腕掴もうとする……けど僕、人との接触慣れていない……つい、『ウィンドブレーカー』発動してしまう……ダリルの手、弾かれる。それに倒れて尻もちもつく……」
「ダリルは怒った? 殴りかかって、逆にファンナがボコボコにしてやったとか?」
「……ふふ、違うよ。……お前すげぇーな、ってダリル言う。……どうやった?聞かれた、けど……僕は答えない。……ダリルは……まぁいい、ワーウルフ捕まえる。ついてこい……言った。……僕は嫌だったけど、ダリルは強引に僕を連れ回す……。その時ワーウルフ……もう巣にいない……時期悪い」
「ふーん。なぜダリルはワーウルフを?」
「……ワーウルフの角丈夫……角でナイフ作る……言っていた。……でも九歳でワーウルフ倒す……難しい。……何度もダリル、学校さぼって僕を連れ回す……ワーウルフ会えない……けど、うさぎなど小動物狩って、丸焼き食べるした。……ずっと食欲なかった、けどダリルといる……不思議とお腹すく。……そしてダリル、うさぎ食べながら言う……お前学校来ないのか? ……僕は、君も学校行ってない……言った。……俺はたまにサボるだけだ……って言ったから、じゃあ僕もたまに行ってみる……言った」
「ふーん。およそダリルらしくない会話だな……ダリルってそんな奴だっけか?」
「……ふふ。……リチャーズの前、嫌な奴。……でも、僕の前、意外と優しい。……それにダリルの家、
「なるほどね。ダリルなりに理由があるわけだ」
「……そう。……ダリルとは、冒険中も学校の時も……実はあまり、話さない。……それでも、なんとなく心の支えなっている。……面白いこと、僕が学校通うまで……お互い名前知らない……お前、君、そう呼んでいた、から。……僕、だんだんと通う回数増える……友達、最後まで出来ない……けど、学校嫌いじゃない」
「ダリルは友達じゃないの?」
「……友達?……それ違う。親戚のお兄さん……みたい。……同い年、だけど……」
「まぁ、あいつはフケ顔だしな」
ファンナはくすくすと笑う。
「そろそろ時間かな?」
ファンナがシャツから懐中時計を出して、時刻を確かめてくれる。辺りはみんな荷物を整理し始めているし、ステートリッヒもマイラーとなにかを確認している。
「……うん、そろそろ。……話し、聞いてくれる、ありがとう……」
彼は繋いだ手をほどいて立ち上がる。それに合わせて俺も立つ。
「ファンナ、話してくれてありがとう。これが終わったらさ、また行こうな。ほら……なんとかスペシャルとかいうタルトがあるカフェに」
「……ふふ。……リチャーズ覚える……木苺と紅茶の香りが織り成すハーモニーで奏でるベリータルトスペシャル。……今度は僕奢る……飽きない、食べてみて」
「そう、それだ。だいぶ大きかったからな。お腹すかせて行くよ。ファンナ、みんなで生きて帰ろうな!」
「……もちろん……それ当たり前」
彼はほとんど歯を見せて笑うことないのに、この時は白く歯並びのいい歯を見せて笑った。
顔が赤くなる。俺のナニが脈をうつのが分かる。俺は足が痺れたと嘘言って、中腰になってその場をごまかした。
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