第40話 突入 彼(彼女)に聞いておきたいこと
洞窟の入口には木の柵と扉があった。一般人が無断で洞窟内に入らないようにと何年も前に取り付けた物らしい。しかし鍵は誰かによって壊されているし、扉はひん曲がっていて閉じることもできない。
俺達はそれをくぐって洞窟内に入る。
隊列はリーダーのステートリッヒを先頭に、次に赤い屋根のギルド所属の二組のパーティー、その次に俺たちとダリルのパーティー、そして一番後方をマイラーのパーティーを含む三組が務める。
今日が初対面のリーダーと副リーダーで指揮を統一させるのは無理があると踏んだステートリッヒは前方、後方で指揮系統を分けることにした。
俺とダリルのパーティーはこのメンバーの中で一番冒険者歴が浅いため、先輩達が前方と後方で挟んで俺らをフォローするという考えだそうだ。
エリィのリュックに取り付けたアクアルミナスが青く光る。
「意外と光るのね。これなら私は
アックスと俺は松明を片手に持っている。他のメンバーもほとんどの人が松明を持っている。ダリルの組はファンナにアクアルミナスを持たせ、それを腰のベルトにつけていた。
「アクアルミナス……手が空くし便利だね。これって貰えるのかな?」
「リチャーズ、そんな訳無いでしょ〜。きっと終わったら返すのよ」
「ぇえ〜、無くしたとか言ってごまかそうかな」
「ぐっへへへ、そりゃあいい! 俺達も、それでごまかして貰っとくか」
「……ダリル、それダメ。……リチャーズ、変な悪知恵入れない……」
「ファンナは硬いな〜」
彼はぷぅっと頬を膨らませた。
「これって街で売ってるのかしら?」
「ギルドのお姉さんが用意してくれたってことは、売ってるんじゃないか?」
「……似たの……お店で見た。……いや、気のせいかも……」
「ほんと!? これ便利だから、リチャーズ今回の報酬で買いましょうよ! 野宿する時に重宝するわよ」
エリィはアクアルミナスを眺めながら、「水だけでいいなんて」と呟く。
「おいおいおいおい、随分と気楽な連中だなぁー、入ってすぐおしゃべりかよ! 緊張感が無さすぎねぇか?」
俺達の前を歩いている金髪のちゃらそうな男が絡んで来た。なにやら耳たぶに穴を開けて動物の角のような物を差し込んでいる。
「そうかい、気に障るなら悪かったな。リチャーズ達は緊張を和らげるために世間話をしてる。決して気楽なわけじゃない」
アックスが割って入る。こういう時はアックスが本当に心強い。
「ニールセン! やめておけ! パーティー事でそれぞれ色が違う。集中を切らさないなら何を話したって構わん」
先頭を歩いているステートリッヒが言った。ニールセンは顔をしかめ、それ以上は何も言わなかった。
ある程度進むと、壁に等間隔に並んだランプを見つけた。じょうろ口が付いた缶から油を注ぎ入れ、松明の火でランプをつける。洞窟内は松明の火がなくても、ぎりぎり歩けそうなほどの明るさになった。
途中途中でランプに火を灯しながら、歩いて行く。いくつか分かれ道があったが、ステートリッヒは地図を見ると迷わずに方向を決めた。
洞窟内に入る前にすでにルートは決めてある。目指すは先に入った冒険者が全滅したとされる場所だ。そこにオオサソリの巣があると予測されるからだ。
「よし、ここいらで一旦休憩にしよう!」
ステートリッヒが言った。
二列でしか歩けなかった長い通路を抜けると、その先は広いスペースになっていた。壁にはシャベルかつるはしで削ったような跡がいくつも見られる。採掘を行っていた当時も、ここを休憩所として扱っていたのかもしれない。
俺はエリィの首から下げている懐中時計を除き見る。洞窟内に入って五十分がたっていた。ここまでオオサソリは愚か、他の魔物にも出会っていない。せいぜいクモかコウモリを見かけた程度だ。
出来たら巣に辿り着く前に二、三匹ずつ出会って経験を積みたかったが、なかなか上手く事は運ばないものだ。
「ん? あれは……」
俺は天井から降り注ぐ自然光に気づいた。上から光の柱が一つ、真下から見上げるとうんと高い所に小さな空が見えた。光を通す穴なのか、空気を取り込むための穴なのか、人工的に開けたような穴にも思える。
俺が興味を示したのはその光源の方ではない。その真下に生えている植物の方だ。茎の高さが四十センチほどの多肉植物の葉の先に、三センチの赤い実がいくつもなっている。
俺はスキル『図鑑』を発動する。
◎ラ・クアナ 〈クアナ科〉サボテンの一種。二センチほどの硬い果皮に覆われた実は噛むと、実の大きさの倍の水が溢れ出る。水は塩分と糖分がバランスよく含まれ、疲労回復にいいとされている。この実はそのままでも一年は保存が効くため、古くから旅人に重宝されてきた。
・30〜50センチ ・主に乾燥地帯
おお、やはりだ!? 街の商人に教わったラ・クアナだ。まさかこんな所に生えているとはね。ラッキー!
商人の持っていた物をちらっと見ただけで食べたことはないが、俺が思うにスポーツドリンクのような効果があると予測している。これは今まさにうってつけの代物だ。
「何してるの?」
エリィが覗き込む。
「これは疲労回復に効く実だよ! エリィも手伝ってよ」
「え、そうなの、分かったわ!」
俺達はモギモギと実を取り、それを三人で分けた。全部で十二個の収穫だ。
「あ、そうだ。忘れる所だった。そろそろこれを渡しておこう。はい、これ」
俺はラ・クアナの実を分けるついでに、薬瓶を二人に一つずつ渡す。
「ん? なーに、これは?」
「毒消し薬だよ。更に改良を加えて、前もって飲んでも効果があるようにしたんだ。これは飲んで半日は効果があるけど、先に渡した毒消し薬よりもだいぶ効き目は弱い。オオサソリの毒がどれぐらい強いかは知らないけど、たぶん死は
「こいつ! いつの間に! それでも十分すぎる効果だろ。お前って奴は勤勉すぎだ」
アックスは俺の頭をグチャグチャにするほどに撫でた。俺は髪を直しながら続きを話す。
「まだある。実はね、この薬は先に渡した毒消し薬と飲み合わせると効果が劇的に上がるんだよ。だからこれは今飲んじゃって、先に渡しといた毒消し薬は毒をもらった直後に飲む。それが一番効き目が高い、生存率はぐっと上がるはずだよ」
「リチャーズ、本当に頼もしいわ! ねぇせっかくだし、薬に名前つけないの? これってリチャーズの完全オリジナルでしょ?」
「ああ、オリジナルだよ! もしかしたら世の中には似たのあるかもしれないけどね。名前か〜……毒消しA、Bじゃダメだよね?」
「それじゃあ、どっちがどっちか分からないわ。ぱっと名前で判断がつくのがいいわね」
「まぁ、たしかにね。ぱっと分かる名前か〜……それじゃあ、先に渡した効き目の高い方がドクトールAで……今渡した方が、ドクコナーズってのはどーかな? ほら! 毒取るのと、毒来ないように前もって飲むのと、で! Aはなんとなくつけた」
「う〜ん、単純すぎる気もするけど……それでいいかもね!」
「よし、決定だ! もしかしたらそのうち商品化とか出来たりしてね! あははっ」
「リチャーズ、商売ってそう簡単に上手く行かないものよ。でもそれが出来たとしたら、だいぶお金の面で楽になりそうだわ!」
いいね。いっそ冒険者を止めて薬屋でも開こうかな。出稼ぎで冒険者やっている訳だし、稼げれば誰も文句言われないだろう。
「うわぁ!? まずっ! リチャーズ、このドクコナーズまっずいな〜」
「まぁね、アックス、良薬は口に苦し! って言うだろ」
「こりゃあ、効き目がありそうだ」
二人が飲み終わった薬瓶は回収する。お金のない俺達としては、薬瓶の一個一個が大事になる。アックスとエリィが楽しく話している中、俺は視線の先で一人膝を抱えて休んでいるファンナの姿を捉える。
そういえば……
俺はファンナの隣まで行った。彼はちらっと立っている俺に視線を向けるも、何もなかったかのように再び前を向く。黙って俺は隣に座った。
ファンナが眺めている方向をしばらく俺もじっと見てみる。ダリル達三人がステートリッヒのパーティーと話している姿が見える。意外とステートリッヒとダリルは気が合うのかもしれないな。
でも、ファンナはそんな光景を見ているわけではなさそうだ。たまたま前方にダリル達がいただけで、彼の目には写っていないだろう。
彼はそういう所がある。だいたいがそういう時は、何か覚悟を決めようとしている時か、不安を持っている時のどっちかだ。
俺は彼に聞きたいことがある。
だけど、聞くかどうかはまだ迷っていた。
「……リチャーズ……」
「……ファンナ……」
「あ!?……ええっと、ファンナなに?」
「……リチャーズこそ、……なに?」
「いや〜ちょっと聞きづらいことで、聞くかどうか迷ってる所なんだ。……ファンナは?」
「……リチャーズ、……手握って……」
彼は俺に視線を向けた。アクアルミナスの光で彼の青い目はさらに青く、神秘的に見える。
「え!? い、いや〜、それは〜……どうなんだろう……ね」
「……僕は男。……だから、何も問題ない……」
いやいやいや、男のていで行くとしてもだ。それはそれで違う意味でまずいだろ。
ファンナは膝を抱えていた手を
上を向いた手のひらは、一人待ち合わせ場所でずっと待っているような、そんな寂しさを匂わせている。
俺は
俺は心を決めてその細く
「……リチャーズ、違う。……もっと……もっと、合わさりたい……」
それって……。俺は周囲を見渡す。ダリルはまだステートリッヒと話している。エリィはアックスと盛り上がっている。
俺は腰を浮かして、ファンナにさらに近づき、手元が周囲に見えないようにする。
「……そう、それ。これ、落ち着く……」
恋人繋ぎのようにファンナと俺の指は絡みついた。
緊張して手に変な汗をかいてないか心配する。ファンナの体温を感じる。とても温かい。絡みついた細い指は骨ばっている。けど手のひらは女性らしく柔らかさを感じる。思えば前世で童貞だった俺は、こうして女性と手を繋ぐのは初めてだ。
ファンナの顔を見る。前髪に隠れがちな瞳はさっきみたいに、どこか遠くを見ている感じはしない。話しかける前の冷たさのある瞳ではなく、柔らかな瞳になっている。
そういえば以前より前髪が長くない気がする。まだ瞳は隠れがちだけど、以前よりも少し短くなっている。すっぽりと隠していた耳も、耳先が見える程度になっている。
最近髪を切ったのか? いや、今思えばこの街で会った時から、すでにこの髪型になっていたような……なぜ俺は今まで気づかなかったのだろう。
「……ファンナはさ、ダリルといったいどんな関係があるの?」
俺は決心して聞いた。
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