第20話 始まりの冒険者たち それぞれの選択
「――なになに? いったい何が起きたのよ!?」
爆発音に導かれるようにどこからか現れたエリィは、俺の存在に気づくとすぐに駆け寄って来た。
この辺一帯の建物は、芋などの保存のきく食材や農具が閉まってある倉庫がほとんどだ。後先考えずに爆発を起こしてしまったが、周辺にエリィ以外に人がいなくて本当に助かった。大人に見つかれば、こっ酷く怒られるのは目に見えている。
「エリィ!? なんでここに?」
「もう〜リチャ〜ズ〜、先に質問したのは私からよ!」
エリィは腕を組んでプンとした表情を見せ、俺はあははっと頭をかいた。
「まぁいいわ。私は
「いや〜ちょっとね……まぁいろいろあってさ。なぁ、アックス、ダリル」
アックスは知らんといった素振りを見せ、ダリルはそっけない態度をとる。
「なによぉ~、はっきり言いなさいよ~! 大きな爆発音だったし、ここ! ここ、壁が崩れてるわ〜!?」
エリィ、顔が近いって……そんな目で見られたら興奮してしまうよ。彼女は俺の胸ぐらを掴む。
「おいバカ女! 俺様が喧嘩吹っ掛けてリチャーズに負けた。それだけだ。じゃあな、リチャーズ〜楽しかったぜ。俺はバカ女が苦手なんだ、帰るぜぃ」
ダリルはそう言うと、アックスに向かってこそこそと何かを言ってから去って行った。歩く姿を見るに、彼は大きな怪我はしてなさそうだ。見た目通り頑丈な体をしているのだろう。
今思うとぞっとするが、少しでも爆発の距離感を間違えれば彼を殺すこともありえただろう。それほどに威力は十分にある代物。今後は人に対して使うのだけは止めておこう……
それにしてもダリルがエリィを苦手にしてるって? ――全くの初耳、とてもそうは見えないが。
「ねぇ、喧嘩ってなによ〜? あ〜んな爆発音をさせるほどの喧嘩って、どういうことなの!?」
「分かった、分かったから。エリィ胸ぐらを掴んで揺らさないでくれよ。ダリルに殴れたから体が痛いんだ」
「ぁあ、ごめんね。つい力が……」
エリィは掴んでいた手を解き、シャツのシワを伸ばすようにして易しくなでた。
「俺から話す。リチャーズはお疲れだ。エリィ勘弁してやってくれ」
「アックスいいわ、話してよ。私知りたいの。ダリルはリチャーズに負けたって言ってたし……」
「ダリルが言ってたことは本当だ。俺は見てた。リチャーズはダリルに勝ったんだよ」
「――ほんと!?」
エリィはそれを聞いてとびっきりの笑顔を見せる。その笑顔を横目で見た俺は、なんだかエリィが自分のことのように喜んでいるようでとても嬉しかった。改めて俺はあのダリルに本当に勝ったんだと実感がわく。
***
「――なるほどね! それであの大きな爆発音だったのね。それって……もしかして以前ポーションを精製する実験で失敗してたやつ? あの時はとても小さな爆発だったけど」
「そう! それだよ、エリィ。ボヤ騒ぎを起こして村長にこっぴどく怒られたやつ。あの時はわりと小さな爆発だったけど、あれから密かに量を調節しながら実験を重ねてたんだ。この爆発はもしかしたら戦闘に使えるかもしれないと思ってね」
「なるほどね、さすがリチャーズね! でも、実技試験の時にそれを使えば、もっといい成績とれたんじゃないの?」
「調節が難しくてね……とても試験で使えるようなレベルじゃなかった。数ミリの量の具合で爆発の規模が大きく変わるからね。それに奥の手は簡単に見せるものでもないだろ?」
「まぁ確かに、それもそうね!」
「それよりもエリィ……あのさ……。――アックス、約束は約束だからな!」
「え? なになに??」
「アックスと約束したんだよ。俺がダリルに勝ったら、エリィをアックスのパーティーに入れてくれるようにと。そう頼んだんだ。アックスにライザにベントレー、それにエリィだ! 間違いなく今年一番のパーティーだよ。
ああ、もちろん強制じゃないよ。エリィがそれを受け入れてくれたら……なんだけどさ?」
「……」
あれ? どうした、エリィ? 黙って、キョトンとしている。もしかしてアックスのパーティーに入るのが嬉しくないのか……
「あのな、リチャーズ。そのことなんだけどな……」
アックスもなんだ? 今さらエリィを入れないなんて言わないよな……
「……はぁ。アックス~その様子じゃ言ってなかったのね、リチャーズに」
「それは~……その……だな、なかなか言うタイミングがなくてな。ほら、リチャーズも最近は俺らから逃げるような素振りをしてたしさ。それで……」
「なんだよ、なんだよ! エリィもアックスもなんなんだよ!? 二人が一緒のパーティーになれて嬉しくないのかよ! 俺はダリルにせっかく勝ったのに……そんな……あんまりだ……」
「いや違うんだ、リチャーズ! 一つお前は大きな勘違いをしてる。まず俺はライザとベントレーとは組まない」
「はは、なんだそういうことか。別に最強チームじゃなくてもいいんだ。エリィとアックスが一緒のパーティーでいてくれたら、俺はそれだけで十分に嬉しいよ」
「ぁあ~、もう! アックスが早く言わないから~」
「それはお前だって言わなかったろ!」
「任せろ、俺から伝える。って言ったのは誰だったかしらね〜?」
「あ! ぇえっと~……」
アックスは気まずそうに頭をかき、エリィはいつものように顔を膨らませた。
「分からない……二人はいったい何が言いたいんだ? もしかして俺は余計なことをしたのかな……」
「いや、あのね、違うのよ! リチャーズ聞いて。私たちはパーティーを改めて考えてたの。それぞれにね。それでアックスはライザとベントレーの誘いを断った。私は私なりにアックスほどじゃないけど、嬉しいことに誘いがいくつかあったわ。でも私もそれを全部断った」
「なんで断るのさ!? エリィが誘われてたのは知ってたよ。アックスほどじゃないけど、中には実力が十分の奴もいた」
俺の質問にエリィは首を
ああ、いつもの表情だ。一見弱く見えるエリィだが、どこか芯のある、強さが伺える、そんな微笑みをたまに浮かべる。俺との特訓で魔法が使えるようになってから時折見せる表情、その表情が
「それはね……私たちがリチャーズとパーティーを組むためなのよ。私とアックスは最初から考えが同じだったの。本当はもっと早くに言うつもりだったんだけど……なかなか言い出せなくてね。ごめんね。私とアックスとリチャーズ、私たちは誰よりもこの三人で冒険がしたいのよ!」
「……え? ――ぇえ!? だって……だってアックスは優秀だし、エリィだって今じゃあ着々と実力を上げていってる。俺は底辺の男だよ。だってFランクなんだよ!」
「はぁ……お前は本当に馬鹿だな。じゃあ聞くが、底辺の男が村一位のダリルに勝てるのかよ? お前は十分な実力の持ち主。何も試験の成績だけがすべてじゃない! ――お前も以前、そのようなこと言ってなかったっけか?
ダリルもな、実はお前の実力を認めてたんだ。あいつが試合をする前にお前を誘ったのは本気だった。俺よりもリチャーズの方が怖いと帰り際に言ってたぞ。どうだ? 誘う理由は十分にあるだろーが。この三人で冒険者をやるんだよ。ここからたった今、新たなパーティーが誕生した!」
「……ぅう」
エリィは何も言わずにそっと俺を抱いた。
「……アックス……エリィ……俺はてっきり……」
俺はエリィの肩でみっともなく泣いてしまった。俺が泣き止むまでしっかりと抱いてくれたエリィ、そしてアックスは俺の肩に手を当て続けてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます