第14話 もう一人の転生者② エルフとの約束に贈り物

「ポーションだ。一昔前は万能薬と歌われてはいたが、毒に効果はないし、私が傷を縫ったように回復薬としても完璧なものではない。回復魔法の足元にも及ばない代物だ。意外と高価なものではあるけどな」


 俺は水色の液体が入った瓶をまじまじと見つめる。確かに大怪我をおった時はこれだけでは不十分なのかもしれない。それでもエリィが助かったのは、少なくともこれのおかげもあるはずだ。


 ん!?……おいおい、まずいぞ! 集中して見ていたせいか、スキル『図鑑』が発動してしまいそうだ。エルフの目の前ではいくらなんでもまずいぞ! 発動すると手が光るし怪しまれる。

 そんな気持ちとは裏腹にそれは起きる。右手が光ると共に、脳内にいつものように新たな図鑑の一ページが表示される。今回は二ページだ。



◎ポーション 回復薬の総称。傷の炎症を抑え、鎮痛作用、止血効果がある。ポーション薬学会で効果が認証されているのは300種類近くある。主に薬草や鉱石などを原料とする。



◎キシミナルポーション 回復薬(ハイポーション)。主にキシミナソウとコピーダイヤが原料。



「え? キシミナソウ……」


「リチャーズ、何をした!?」


「え! ……あ、わ、分からないです! 十歳を超えた辺りからごくたまに手が光る時があるんです。何が起きるってことはないんですけど、なぜだか手だけが光るんです……これってやっぱ変ですよね?」


 苦しいぞ! いったい俺は何を言っているのだ。もっとまともな誤魔化ごまかし方はなかったのか。


「……白昼夢って知ってるか? 起きてる時に夢を見るという。そういう現象のように魔法を唱えてもないのに突然手が光りだしたり、体が浮いたりする現象が起こる人がいると聞いたことがある。中には痛みを伴う者もいるみたいだが……どうやらリチャーズは平気そうだな」


 エルフは目を細めて俺の手の平を取って眺める。


「え? あ、それ、それだったんですね。痛みは特にないです。そういった現象って僕だけじゃなかったんですね。それって病気の一種かなにかですか?」


「いや、病気かどうかは分かってない。どうやら思春期に起こることが多いようだが、原因も治療も未だに分かってないそうだ。ほとんどは一時的なもので、月日がたつと自然となくなることが多いと聞く。痛みがないのであれば、しばらくは気にすることはないだろう」


「そうですか……」


 俺はホッとした演技を見せる。


「それならひとまずは安心ですね。この村では突然手が光るのは僕一人だけなんです。実は一人で思い悩んでたりして、あはは……」


 ふぅ〜、助かった。エルフに知識があったことで勝手に解釈してくれたぞ。そうか、そういった事象があるのか。

 それにしてもどういった原理で起こるのだろうか? 成長痛で体が痛いみたいな成長する時期に起こるものなのか? それともおたふく風邪みたいにウィルス感染とかで起こるものなのか?


 ん〜それにしてもいいことを知った。これならいろんな場面で誤魔化しがききそうだ。スキルを使うたびに手が光ってしまっては、相手に「何かしてますよー」って知らせているようなものだからな。


「あの~エルフさん……」


「ん、なんだ?」


 そう、俺は聞かないといけないことがあったんだ。

 エルフに聞きたいこと、それは――彼女が実はではないかということだ。


 前に彼女の話を聞いた時から俺はピンときていた。エルフが使……それはエルフが転生者だったからこそ成せる技だ。俺はそう確信している!

 だってそうだろ? ――転生者ならば前世の記憶で初めから言語を知っているし、もし前世でサバイバルの知識を知っていたとしたら、それならば幼少期から一人で生きてこれたという話もうなずけるってもんだ。


 エルフが転生者かどうか、それを今聞かねば! これは今後の俺のためにもなるはずだ。


「エルフさん……」


 う、なぜか聞きづらい……大人の女性にまじまじと見つめられると、どうしても緊張する……


「そういえば、話したいことがあると言ってたな。そのことか?」


「ええ、そのことではあるんですけど……」


「なんだ? 遠慮せずに話してみろ」


「……いや、やっぱなんでもないです! よくよく考えてみたら大した話ではなかったので、あはは……。それよりもエルフさん、一人で冒険者をやってるんですか?」


 エルフは俺に不思議そうな視線を送る。どうもエルフの目を見ると聞けなくなってしまう。それにもし転生者じゃなかったとしたら、俺の情報をただただ与えてしまうことになるだけだ。エルフは基本的にやさしいが、どことなく恐ろしさを感じる面がある。

 よくよく考えると、異端者として俺がなにかされないとも限らない。転生者の情報が得られないのは残念だが、エルフに聞くのはもっともっと親しくなってからだ。


「私は基本は一人だ。だいぶ前に二、三年ほど共に行動した仲間もいたが、一人の方が気楽でずっといい」


「一人で冒険者って寂しくないんですか?」


「寂しくはない。共に冒険する者がいないだけで、友達がいないわけではないからな」


「そうですか……それなら僕もエルフさんの友達にしてくれませんか? 僕みたいなガキが言うのも烏滸おこがましいとは思いますが……」


「ふふ……いいぞ。君はどこか面白い所がある。ただし条件が一つある。友達になるのに条件を与えるのもおかしな話しだが、余興だと思ってくれ。君が大人になって冒険者になったら、この広い大陸で私を見つけてみろ。それが出来たなら、その時は対等な友達だ」


「エルフさん……約束ですよ! 絶対ですよ」


「ああ、約束だ。絶対だ」


 俺はエルフと握手を交わす。


 その後、俺たちは他愛ない話を小一時間した。エルフの出身は王都シュラム圏の南大陸ではなく、険しい山脈の向こう側の北大陸だそうだ。そこではヒト族以外にもドワーフ族やホビット族、魔族、獣人族などの種族が多くいると聞く。

 獣人族!? ――もしかしてケモ耳のたぐいか! ああ、ケモ耳美女をぜひとも見てみたい。俺はエルフの話を聞いて北大陸への憧れを抱いた。いつかはエリィとアックスと三人で北大陸を目指したいものだ……俺は淡い夢を思い描く。


 ***


 滞在してから九日たった頃、エルフは村を出た。


 エリィの治療でお世話になった俺たちは村人総出でエルフを見送る。「またいつでも来てください」という村長の言葉に「機会があればな……」とエルフは答える。エルフのことだ。おそらくはもうこの村に訪れることはないだろう。


 エルフは分かれ際に腰につけていたポーチを俺にくれた。細めの薬品用の瓶などを入れるためのポーチだ。十五本は入るそのポーチに二本のポーションが残っている。

 外は革張りだが中は鉄板で仕切られ、見た目以上に頑丈そうだ。その仕切りには、もふもふとした生地が貼り合わせてあり、多少の衝撃では瓶は割れそうもない。


「残りのポーションもくれてやる。頻繁に使うと効果は薄れる。いいか、しばらくはエリィに使わないようにな。このポーチは私のお手製だが上手くできてるだろ?」


「ええ、とっても! 今の僕にはまだベルトが大きいみたいですけどね。ありがとうございます。これは大事に使わせて頂きます」


 エルフはふふっと笑みを返すと、それ以上は何も言わずに去って行った。俺はエルフの背に向かって、姿が見えなくなるまで深々とお辞儀をし続けた。

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