僕が君を殺すまで
wkwk-0057
日曜日、月曜日
「1週間の最後、僕は君を殺す」
そう由香里に伝えたのは霧のような雨がさんさんと降り続いていた日曜日の夕方だった。
2人きりしかいない部屋には雨の柔らかい匂いが僕の鼻の奥を突く。
洗濯物は干しているがしっとりと湿っていて完全には乾いていなかった。
「わかったわ」
そう崩れ落ちそうな笑顔で答えた由香里。僕はその顔を見て息を飲んだ。
その触れたら壊れそうな笑顔に魅入られて時が少し止まった気がした。
由香里は手を僕にのばしそっと僕の額に触れる。
そして僕は再び息を吸えた。
心臓がドキンと高鳴る。
そして僕の額から上へと手を滑らせていく。
僕と由香里の瞳が一直線に並ぶ。
「やっぱり快斗はかっこいいね」
今の霧のような雨より柔らかい声が僕の鼓膜を刺激する。
僕は由香里を引き寄せ膝の上に座らせる。
身長の割には軽い体重を脚で感じる。
僕はそのまま由香里の肩へと頭を乗せる。
同じボディーソープを使っているのに何故か落ち着く甘い匂いが雨の匂いを掻き消す。
由香里は僕の頭に手を乗せ撫でる。
暖かい手の温もりが乾いた髪と皮膚に直接刺激が来る。
僕はゆっくりと目を瞑り息を吸う。
「由香里も綺麗だよ」
そう言葉が自然に零れた。
柄でもない言葉を言った事で由香里はニヤニヤしている姿を察する。
けどちらっと見た時由香里の顔は微笑んで居た。
そしてその笑顔から逃れるように頭をゆっくりと上げ、由香里を抱えてそのままソファへと座らせる。
「ご飯つくるね」
そう言ってキッチンに行く。
由香里は手をヒラヒラと振って
「美味しいご飯作ってね」
そう軽口を叩く。
静かな部屋。
テレビはつける気も起きず部屋はシンと静まり返った。
そんな中にトントントンと食材を切り、まな板と包丁が打ち付け合う音とフライパンで焼く音だけが響く。
ふと由香里の方を見ると何か書いているようだった。
僕はその姿を見てゆっくりと口を開く。
「何書いてるの?」
そう聞いてみると
「内緒〜」
そう軽やかな声が聞こえてくる。
僕はなんだろうと思いながら出来上がった野菜炒めを皿に盛り付ける。
由香里には少なめの塩胡椒で、僕には少しかけすぎなぐらいの塩胡椒をかける。
そして料理を持って机に並べる。
「じゃーん」
そう言って見せられたのはポップな絵柄の僕の似顔絵だった。
「上手すぎ!!」
そう僕は思わず声が出てしまった。
昔から由香里は絵を描くのが好きだった。
だから上手いということはわかっていたんだけど、予想より遥かに上手くびっくりしてしまった。
僕はその似顔絵を近くにある何も飾っていない額縁に入れる。
「良い彩りになったね」
そう僕が呟くと
「そうだね」
と言葉が返ってきた。
そして出した野菜炒めを一緒に食べて一緒にお風呂に入って一緒に布団に入った。
僕の胸に近寄りくるまってスースーと寝息をたてて眠る由香里。
弱くずっと屋根に打ち付けてくる雨。
そんな音が子守唄のように僕の鼓膜に入ってくる。
僕はスマホの電源をつけて少し調べる。そして僕は諦めるかのようにスマホの電源を落とし由香里を胸へ軽く抱き寄せ目を瞑る。
暗闇の中から雨音と共に由香里の寝息が聞こえる。
それにつられ僕も段々と意識が遠のいていく。
重い瞼を擦りながら枕元に置いてあるスマホの電源を付けて時間を確認する。
9:30。いつもなら遅刻の時間だ。会社からの電話が3通入っていた。
僕は無視し、スマホの電源を落とし窓を見る。
雨は止み青い空が窓から顔を覗かしていた。
「うーん……おはよう」
そう言って目を覚ます由香里。
「起こしちゃった?」
「ううん、起こしてないよ。」
そう言って欠伸をし、ゆっくりと上半身を起こす由香里。
僕はそれを眺めて
「うりゃー」
そう言い由香里をゆっくりと抱きしめ布団に倒れ込む。
「……ふふ」
僕は由香里の瞳を、由香里は僕の瞳を見つめ一緒に笑った
「あはは……もー、せっかく起き上がったのに〜」
そう言ってポコポコ叩く由香里をぎゅっと抱きしめる。
「苦しい〜」
そう最初は冗談を言っていたが、次第に由香里も抱きしめ返して来た。
あれから何分が経っただろうか。
もしかしたら2時間ぐらい経過したんじゃないか。そう思う位長い時間抱きしめあっていたと思う。
だけど実際に進んだ時間は10分。
僕はゆっくりと立ち上がる。
「もう充分?」
そう聞いてくる由香里
僕は小さく「うん。」とだけ返し食パンを焼くためにキッチンに行った。
焼けたパンのいい匂いが部屋を包む。
そのパンの上から、いちごジャムとマーガリンを塗り皿に乗っける。
それを机に持ってきて、
由香里の方へと行く。
すると朝飯だと察したのか、
「抱っこー」
そう小さい子が懇願するかのように由香里も恥ずかしげに言う。
僕は迷わず抱え椅子に座らせる。
「いただきます」
そう言ってパンを食べ始める
食パンを食す音と車が通る音がBGMだった。
食べ終わったら皿を洗い、洗濯物を畳む。
そして空いた時間を買っておいたDVDを一緒に見る。
そして気づけば昼過ぎ。
「少し
突然そんな言葉が口から出た。
由香里は目を輝かせ
「行きたい!!」
そう言った。
由香里は助手席に座り僕は運転をする。
窓ガラスを半分開けると、涼しい風が車内を通過する。
「涼しいねぇ」
そうしみじみとしながら言う由香里。
「そうだね」
僕はウインカーを左に出し、左折させる。
そして数分車を走らせると綺麗な海が見えた。
僕は車を端に停め、助手席のサイドガラスを全開にさせる。
「きれーい。泳いでみたいなぁ〜」
そう感動して海を見続ける由香里。
その目は輝かしい瞳じゃなく、手に入れたいものが絶対に手に入らないことがわかっている淡い瞳だった。
それを隠すかのように由香里は僕に肩を叩き
「一緒に写真撮ろう」
そう言ってスマホを取り出す由香里。
僕は
「海入らないかもよ?」
と聞くと
「良いの」
そう言って僕の肩を由香里の方に引き寄せた。
そして、
パシャリ
そんな音と共に由香里のスマホには僕と由香里のツーショットが残ったのだった。
そして車に乗り込み家へと帰った。
「良い海だったね〜」
そう由香里が無邪気に聞いてきた。
「綺麗だったね〜」
嘘だ。僕は正直海なんか見ていなかった。
由香里が海を見ているその横顔を見ていた。
透き通る程に白い肌に、感動でほんのり潤んだ瞳。頬を赤らめ「綺麗だね!」と連呼するその無邪気さ。
それを目的に僕はここに連れてきた。
夕日に照らされる由香里は言葉に表せない程美しく神秘的だった。
僕は満足だった。
「音楽でも聞こうか」
そう僕が言うと、待ってましたと言わんばかりの速さでBluetoothを繋げ音楽をかける由香里。
「やっぱりドライブと言ったら車で歌歌うことだよね〜」
そうニコニコで言う由香里。
僕は言葉が何も出てこず、それを補うかのように、曲がサビに突入する。
そして一緒に歌を歌いながら帰ってきた。
昨日と同じく一緒に風呂に入って一緒にご飯を食べて一緒に布団に入った。
月明かりが窓から差し込み僕の顔を照らしていた。
相変わらず由香里は寝息をたてて眠っている。
僕は由香里の額にキスをして抱き寄せる。
すると眠っていたと思っていた由香里の声が聞こえる。
「なんでおでこなの?」
僕はドキンと心臓が高鳴り
「起きてたの?」
「違うよ。起きたんだよ」
そう僕の腕に巻かれ、僕の顔を見上げながらはにかむ
僕は頭を撫でながら
「また今度な」
そう言い由香里をなだめた。
最初は「意気地無し」や「それでも男か!」と言う雑言が飛んでいたが、いつしか静かになり再びスースーと寝息が聞こえた。
僕は由香里の頬を撫でゆっくりと口付けをした。その唇は柔らかく、由香里の寝息が僕の肌にダイレクトにかかる。
「大好きだ」
そう呟き目を瞑った。
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