第六話:ミリアと街歩きと奴隷たちのビジョン



 ――フロンティア・ログハウス


 ログハウスが街中にドーンと建って数日。

 ギルド長が手回ししたおかげで、衛兵も領主も完全に黙り込んだ。

「面倒なゴタゴタを一気に片付けた」という俺のチートが知られ、誰も俺に指一本触れてこない。最高に緩い環境だ。


「さてと。シーナ、ガンド」


 俺はソファで寝転がったまま、タブレットを操作していた、ポンコツ奴隷二人に向かって言った。


「当面のフロンティアでの商売は、ミリアと俺でやるから。お前たち二人は、王都に出す店の準備を始めてくれ」


 シーナが即座に反応した。


「かしこまりました、ご主人様。王都の店で何を売るかの検討は、既にミリアと進めております。王族や大貴族を相手にするなら、やはり『時間を買う快適さ』と『絶対的な娯楽』が重要かと」


「フム。面倒だが、頑張れよ。俺の緩い生活は、お前たちに王都で稼いでもらうことが前提だからな」


 ガンドは不満そうだ。


「主様。俺が店を護衛するとして、王都へはいつ頃移動するんですかい?」


「ああ、王都は遠いし、手続きがめんどくさいから、早くても半年後とかじゃないかなぁ。まあ、その辺は俺の気分次第だ」


 ガンドは不満げに鼻を鳴らしたが、俺が「娼館に行ける券」をチラつかせると、静かになった。

 男は単純で助かる。


「じゃあ、行ってくるわ」


 俺はミリアに向き直り、優しく言った。


「ミリア。街を案内してくれ。俺は異世界に来たばかりの旅人だからな。護衛を兼ねて、どこか美味しい酒や、面白いものがあるか見て回ろうぜ」


「主、承知いたしました」


 ミリアは濃いブルーのビジネススーツに身を包み、長身を生かした堂々たる立ち姿で、俺の完璧なボディーガードとして付き従う。


 俺は3ピースのスーツにソフト帽というスタイルで、ミリアと共にログハウスを出た。



 ――フロンティアの街中


「いやあ、フロンティアって、活気はあるけどどこか野暮ったいよな」


「主、この街は開拓と迷宮が中心の街です。王都のような優雅さはありませんが、物資の集積地としては機能しています」


 俺はミリアの隣をのんびり歩きながら、異世界の街並みを眺めていた。

 道行く人々は、あのログハウスの主と、その横に立つ長身で威圧感のある美女の組み合わせに道を開ける。


「ミリア。お前、背が高い上にスーツ姿だから、本当にカッコイイな!」


「恐縮です。」


「いや、褒めてるんだよ。最高の威圧感だ。お前が横にいるだけで、俺に話しかけてくる面倒な野次馬が半分以下に減る。お前は俺の『バリア』だな」


 俺は笑い、ミリアの腰に手を回した。ミリアは一瞬ビクッとしたが、すぐに受け入れた。


 俺たちは迷宮の入り口にある冒険者ギルドの前を通りかかった。


「ミリア、ここで働いてたんだろ? 元B級冒険者、だったか」


「はい。護衛依頼を受けることが多かったです」


 ミリアの目には、かつての誇りと、奴隷に落ちた諦観が混ざっている。


「ふーん。まあ、もう二度と危険な仕事はしなくていいから安心しろ。お前の仕事は、俺の緩い人生を護ることだ。それにしても、よく一億金貨も借金押し付けたな。」


「……主」


 ミリアは静かに答えた。


「あれは、わたくしが負うべき責任でございます。依頼主を護りきったことに、悔いはございません」


 俺はフロンティアの露店を見て回る。

 売られているのは、主に迷宮で採取された素材や、地元の食い物ばかりだ。


「ミリア、何か食べたいものあるか?」


「わたくしは、主のおそばに……」


「そうじゃなくてさ、俺は、キミが食べたいものを知りたいの」


「でも、私は奴隷で…自分の希望など…」


「分かった、ほら手を出して!」


 俺はそう言って、ミリアと手をつないで札幌に飛んだ。


 大通り公園ではフェアをやっており、キッチンカーでイチゴいっぱいのクレープが売ってたからミリアに買う。


「ほら、食えよ」


 ミリアは恐る恐るクレープにかぶりついた。

 途端に、彼女の顔に驚きが広がる。


「……!これは、甘くて、幸せな、初めて食べる味です!」


「だろ? 人生、美味しいもの食って、可愛い女と遊ぶのが一番なんだよ。面倒なことなんて、全部俺が代わりに潰すから。安心して、俺の最高の従者でいろ」


 俺はそう言って、ミリアの目を見つめると、彼女の綺麗な瞳からは一筋の真珠が流れて落ちていった。


 ――ログハウス・その日の夕方


 ログハウスに戻ると、シーナとガンドが、地球製の大型モニターを前に、王都店の計画を練っていた。


 シーナが立ち上がり、俺に報告する。


「ご主人様。王都店では、『時間を買う』をテーマに、地球のオートメーション技術と高級家具を売ることにいたしました。具体的には、この『最新式の洗濯機』や『ルンバ(自動掃除機)』を、魔法具としてカスタマイズして売り出す構想です」


「フム…。メイドが一番嫌がる面倒を、俺たちが肩代わりしてやるってわけだが、少し待とうか。」


「何故ですか、ご主人様?」


「うん、掃除と洗濯の時間が大きく短縮されたら、仕事にあぶれるメイドが出るだろ?俺たちって貴族からは大きく儲けても何とも思わないけど、普通に生きてる人が困るかもしれないものを、わざわざやらなくともなあと思うのよ」

「…例えばさ、地球産の最高級寝具とか、ティーセットや食器、カラトリーを売る、それも会員制にして所有欲を煽るとかさ」


「…それは、化粧品なども売ってもよろしいですか?」


「好きにしろ、何ならエステのフルコース金貨100枚とかな。『時間を買う』と『絶対的な娯楽』にも合う…ククッ楽しそうだろ?」


 シーナは、とてもいい笑顔でサムズアップしてきた。

 コイツ、いつの間にか、ター〇ネーター2見やがったな…



 ガンドが口を挟む。「主様。俺も、『王都の警備システム』として、地球の防犯カメラとセンサーを組み合わせた魔法具を売り出すのが良いかと。安全は金で買える、というのが王都の常識です」


「お、ガンド、いいこと言うじゃないか」


 俺は珍しくガンドを褒めた。


「男は頭を使うに限るな。よし、ガンドには娼館に行ける券をもう一枚追加だ」


 ガンドは照れくさそうに笑った。


 俺は四人にビールを配り、全員でソファに座る。


「さて、仕事の話は終わりだ。ミリア、シーナ。今から俺の夜の快適さも担当してもらうとしますか」


 ガンドは空気を読んで娼館に繰り出していった。


 俺は二人の肩を抱き、テレビで日本の最新ドラマを流し始めた。


「最高に緩くて、スケベな夜だ。このまま王都に行くのは、少しもったいないな」

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