巻き込まれ召喚された結果、薬草オタクになりました
灯葉 綴
第1話 異世界へ
「穂華またねー!」
「またねー」
放課後になり、両親が共働きの我が家では私が買い出しや料理をしている。
両親は「家のことは気にせず、遊びに行っていいんだよ」と言ってくれた。だけど私は、遊ぶというより家事をしている方が性に合っているのだと論破し、その結果買い出しや料理は全て任せてもらっている。
料理をする度、「また腕上がったわねー」とか「店開けるんじゃないか?」とか毎度違う言葉で褒めてくれる。
両親には申し訳ないけど、料理人になるつもりは無い。家事はただの趣味なのだ。
買い出しがない日でも家帰れば家事、休みの日もなんやかんや手伝いで家事や畑の手入れなどをしている。
「お肉安っ!今日は豚肉のミルフィーユカツとラタトゥイユかなぁ」
なんて、晩ご飯のメニューを考えながら買い物するのが学校終わりの癒し。
これを言ったら怒られるんだろうけど、世の中の専業主婦の人たちは何を作るか決めずにとりあえず買っているように思える。そして、家帰って家の掃除をしてから何を作るか考える。
そうなると食費の無駄なので、私は節約で1週間の献立を頭の中で決めて、必要なものだけ買うようにしている。
何事も節約しないとね!
「ありがとうございましたー」
会計が終わり、エコバッグを肩にかけてスーパーを出て家に帰ろうと一歩踏み出すと、突然足元に白い円が現れた。
「眩し…」
目を閉じると共に私は光に包まれた。
目を開けると、数十名が私を囲んでいる。そして何故か目を丸くして棒立ちしている。
「いったぁ…」
横から声がしたので見てみると、どうやら私の他にももう一人連れてこられたみたいだ。
というか、ここはどこなんだろう…。
辺りは薄暗くて持っていた荷物も全て無くなっている。それに石でできている部屋らしく、四方八方石だらけ。
これはいわゆる異世界召喚というやつなのでは?と思ってテンションが上がったのも束の間。なぜならドアが勢いよく開いて、それにびっくりしてしまったから。
「おお!成功したか!」
「ライネル殿下!」
殿下?ということは、ここは紛れもなく異世界。よく漫画を読んでる人とかが言っている王宮の地下施設だったりするのかな?
「おお…その華奢な体に可憐な瞳。正しく聖女!聖女様、どうか私に力をお貸しください」
ライネルとかいう殿下らしき人物は私…ではなく私の隣にいる、いかにも少女漫画で主人公と恋の相手の仲を邪魔しそうな女の子の前で膝をつき手を取ってそう告げた。
そしてそれを見て全て理解した。私はただ、巻き込まれただけに過ぎないのだと。
「殿下、彼女はどうしますか?」
一人の家臣らしき人物が私をちらっと見て殿下に意見を求めた。
まあ、巻き込まれただけだから元の世界に帰してくれる方がこちらとしてもありがたいんだけど。学校カバンとかスーパーで買った食材がそのままだろうし、うちの両親のことだから誘拐だとか言って騒ぎかねない。
「その者はハズレだろう。ハズレは王都中並びにこちらにおられる聖女様の空気を汚す存在。城外に放り出せ」
「……は?」
家臣らしき人たちが小さくざわめく。その中の一人が、再びちらりと私を見て眉を寄せた。
ほんの一瞬だけ、戸惑いが見えた気がするのは気のせい…かな?
「…ですが!」
「貴様はこれ以上聖女様の周りの空気を汚す気か!!」
叱責の余韻が石壁に反響し、部屋がぴたりと静まる。
手を引かれ歩いていったもう一人の召喚者を見ると、一目惚れしたのか顔をうっとりさせてライネルとかいう殿下にべったりくっついている。
あれは典型的な"聖女"という立場に胡座をかくタイプの人だ。
元の世界ではあまり漫画を読まなかったけど、何となく分かる。
「………承知しました」
黙って聞いていれば、ハズレだの空気を汚すだの好きかって言って。手元に野菜があればすぐさま投げつけてやったのに。…いや、それは野菜に申し訳ないか。
反抗しようとした家臣らしき人も申し訳なさそうに私をチラ見する。見られるのはこれで三度目だけど、あなたが謝ることじゃないと心の中で言葉を返す。
まあ、あのライネルとかいう失礼な殿下の口ぶりだと帰るすべはないみたいだし、ここはなるようになれ精神で楽しくやっていこう!
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