この恋は、私たちに躊躇しない。

れるあ。

第1話 世界のざわめき

——くだらない。

私は、心の中で勝手に結論付ける。

教室の隅で窓の外を眺めるようになったのはいつ頃からだろうか。

ついこの間クラス替えというシャッフル行事が行われ、また一つ新しい環境が増えた。

もちろん自己紹介の時間もあったので、担任に「好きな事は?」と訊かれた時、「ありません」と答えてしまった。

これは嘘ではない。

正確には、『熱中できるものがまだ見つかっていない』という方が近いのかもしれない。

高校一年生にもなって、青春めいた答えをするのは野暮である。

私は、いつも通り当たり障りのない答えで日常を済ませる。

それが、一番平和な方法だと信じていた。

私は、この世界を少し冷めた目で見ている。

特に、女子で盛り上がる恋愛トーク、いわば“恋バナ”。

これに関しては、顕著だった。

「ねえ聞いてよ〜!昨日さ、隣のクラスの汐ノ瀬くんと連絡先交換しちゃったんだ〜」

「え、マジ?!進展早すぎ!もう告白されちゃったりして?!」

「やだ、まだそんなんじゃないって!でも

いい感じかも?」

「きゃー!あっつ!熱い!!」

クラスの女子は、まるで生まれつき恋愛のアンテナを持っているかのように次から次へと恋の話題を見つけ出し、はしゃぎ、悩む。

その姿は私から見ると、手のひらに乗せたガラス玉のように儚く、脆く、そして理解不能だった。

恋なんて、くだらない。

恋なんて感情を振り回されて、ただ消耗するだけだ。

失恋すれば泣いて、叶わないと知れば病んで、もし叶ってもいつかは終わる。そんな不安定なものなのに、どうして皆はあんなに熱中できるのだろう。まるで、自分の人生を懸けるほどの価値があるかのように。

高校一年生は、青春真っ最中の時期だ。

皆、かっこいいと噂されている先輩にときめいたりしている。

私の心は、ずっと静まり返った湖面のようだった。波一つ立たない、湖のように。

私の心は、自分から恋愛のフィールドを降りている。それは周りの恋愛に興味がないというよりも、自分の心に恋という感情が芽生えること自体をどこか恐れている感じだった。

だって、もし自分の中に芽生えた感情が、周りの“普通”と違っていたら?

——そんな不安を、無意識に抱えていたのかもしれない。


私は最奥、窓際の一番後ろという観測者としてのベストポジションを手に入れた。

クラスの女子の会話を聞くのは、案外楽しいものだ。自分と全く関係ない、どこかの生物を見るということは。

そんな時、担任がホームルームの時間に女子を連れて教室に入ってくる。

よく見れば、私の隣に新たな席が追加されていた。クラスがざわめきに襲われる。

「えっ、転校生?!」

「聞いてないよ〜」

「どんな子かなぁ」

彼女は壇上の中心に立ちながらも、そこに存在していないかのような希薄さを纏っていた。

制服の着こなしは完璧で、派手な装飾もない。

ただ、その佇まいが周りのギラめいた若さから隔絶しているようで美しかった。

「白鷺雫玖です。よろしくお願いします」

その声に私は惹きつけられる。

台本を読んでいるかのように平坦さ。そこに感情は乗っていない。

白鷺は丁寧に礼をし、教室全体を見渡す。

その瞳を見た時、私は目を疑ってしまった。

透明感のある、琥珀色にも見える瞳。

その瞳の奥には、まるで夜明けの海のように深い静けさと、微かな寂しさが漂っているように感じられる。それは諦めと呼ぶには幼すぎ、悲しみと呼ぶにはあまりに穏やかすぎた。

私は、その瞳から目が離せなくなる。

その瞳の奥にある、静かな孤独に自分自身の冷めた心が共鳴しているかのように。

「じゃあ、白鷺さんは九十九さんの隣の席に。はい、ではホームルームを——」

観測者としての私の日常はその瞬間、観測対象によって打ち破られた。

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この恋は、私たちに躊躇しない。 れるあ。 @LeLua

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