差出人不明のラブレター

落差

第1話 事件編



男子高校生は一度は夢見たことがあるのではないだろうか。

自分の下駄箱にラブレターが入っていることを。


まあ、もちろんそんなのは夢で、そんなのは現実に存在しないし、ベタすぎてアニメや漫画の展開にすらもされない。


そもそも今時メッセージアプリを使えばいい話で、手紙に書く必要すらない。


なんで僕がこんな話をしてるだって?

それはもちろん、僕の下駄箱には現在、ラブレターが入っているからだ。


「え?」


僕こと二宮秀にのみや しゅうは固まっていた。

僕の目の前にある下駄箱の中には、白い封筒に包まれた手紙が入っていた。しかもハートのシールで封をしてある。


これはまさしくラブレターだ。


もしかしてあいつの仕業か?いや、いや、あいつは同じクラスじゃないし、僕の下駄箱の位置を知らないはずだ。


僕は周囲を見渡し、誰もいないことを確認してから、素早くポッケに突っ込んだ。


これで一安心だ。あいつの可能性もあるけど、もしかしたら別の人かもしれない。もしも別の人だとしたら...

口元が緩む。


でも、だとしたら今時、どうしてラブレターなんだ?別にスマホで連絡取れるのに。そう疑問が浮かんだと同時にすぐに回答が頭の中で導き出される。


ああ、そっか僕の学校はスマホ禁止だからか。そう、僕の高校では、スマホ禁止なのである。それだけだったらまだしも、今時の学校では珍しく持ち込むことさえ禁止なのである。


そっかだから、このラブレターには『放課後どこどこで待ってます』とでも書かれているんだろうな。


僕は心弾む気持ちを抑えつつ、教室に向かった。


教室に着くと何やらいつもより騒がしかった。「俺のだ。」「いいや、俺のだね。」といった声が聞こえてくる。なにかあったのだろうか?


僕は席につき、僕の前の席にいるやつに声をかける。


「なあ。さわがしいけど、何かあったのか?」

「お、秀。おはようございます。今日はいつもより早いですね。しかも目に熊はない様子ですし。珍しい。」

「まあね、昨日はゲームがすぐクリアできて、いつもより早く寝たからな。」

「相変わらず、秀はゲームが好きなんですね。」


目の前にいる奴は清水雄星しみず ゆうせい。男なのにしっとりとした髪に、高身長、おまけにスタイル抜群。いわゆるイケメンという奴だ。


「で、それよりもだ。この状況は何かあったのか?」

「ああ。この状況ですね。」


雄星は渋い顔をし、カバンをガサゴソと何かを探す。やがって目当てのものを見つけたのかカバンからそれを取り出した。


「これのことです。」

「え?」


が取り出したのは白い封筒にハートのシールで封をしてある封筒だった。

僕のとまんま同じ。思わず声が漏れる。


「君の下駄箱にも入っていましたか?」


僕はポケットから手紙を取り出す。白い封筒にハートのシール。全く同じだ。


「とりあえず開けてみるのが一番かと。」


雄星はまるで全てを見通したようにそう言った。

僕は言われた通り、シールを剥がして中身を確認する。中には手紙が入っていて、こう書かれていた。



『好きです。付き合ってください。』



それだけ。


え?それだけ?僕は慌てて、封筒を隅から隅まで確認するが、本当にそれだけしか入っていない。隠れたメッセージでも書いてある可能性も考慮して、多方面から覗き込んでみるが、どこにも、何も書かれていない。


「ああ、やっぱりそうなんですね。君のもそうでしたか。」


「何か知ってるのか?」


僕は慌てて確認する。


「ああ。まだ全員の下駄箱を調べた訳ではないんですが、どうやらこのクラスのにこのラブレターが入っているらしいのです。」

「まじか...」


さよなら僕の少しの希望。こうして僕の初めてのラブレターの夢は儚く散ったのだった。



「それにしても、秀。誰がこれをわざわざ全員の下駄箱に入れたんだと思います?」

「誰って別に誰でも良くないか?どうせイタズラだろ?それに雄星だったら、他の女子にも貰ってるだろ。なら、一つぐらいイタズラでもなんとも思わないだろ。」


ラブレターがイタズラだったこともあり、つい口が少し悪くなってしまった。ごめん。心の中でそう唱える。


「まあ、そうですけど。」


いや、そうなのかよ。僕の謝罪を返せよ。


「でも、気になりませんか?」


気にならないかと言われたら確かに気になる。だけど、どうやって特定するんだ。もう一度手紙を見返す。しかし、手紙には『好きです。付き合ってください』としか書かれていない。


「まあでも、特定は無理だろ。」


どう頑張っても無理なものは無理だ。

しかしどうやら、雄星は諦めていないようだった。


「特定しなくてもいいから、どうして男子全員に送ったのか。それだけでも知りたくないですか。」


雄星の目が輝いている。こいつこんなやつだったっけ?


「いや、だとしても、どうするんだ?僕は何にも思いつかないけど」

「ほら、秀にはあの子がいるじゃないですか。」

「ああ...」


なるほど。雄星は最初からそれが狙いだったか。どうせ、くっつけて遊びたいだけなのだ。


「それにさ、秀には悔しくないのですか。イタズラで人の気持ちを弄ばれて。」

「確かに」


僕は、癪だが雄星に口車を乗せられてあいつに会いに行くことになった。






放課後。僕と雄星は図書室に来ていた。


あいつは、大体いつもここにいるから今日もいるだろう。図書室の扉を開けると、思っていた通り、椅子に座って本を読んでいる姿が目に入ってきた。


すると、扉が開いた音で気がついたのか、こちらの方を見るやいなや、ドタドタと図書館で鳴らしてはいけない音をしながら、こちらに迫ってきた。


「秀くん。来てくれたんだ〜!」


満面の笑みで手を前に差し出し、ハグを迫ってくる。



僕はそのハグを








ヒョイと横にかわした。


ズゴオオオオ。



絶対なってはいけない音を鳴らし、地面にそのままダイブする。


しまったやりすぎたか?と思ったが、次の瞬間には目の前にケロリと目の前に立っていた。こいつ化け物か。


整った顔立ちに、黒く透き通った目。地毛の茶色の髪の毛を肩まで伸ばし、星型のヘアピンで髪の毛を止めている。


星野由良ほしの ゆら。いわゆる、美少女である。美少女と言っても身長は150cmで小さい方なのだが、周りの人曰く、それがまた支えないと生きていけなさそうでいいのだそう。どこが?


それにスポーツ万能で、成績トップ。この前のテストも校内1位だったとか。そのため、めちゃくちゃモテて、色々な人から告白を受けているらしい。


はっきりと宣言しよう。僕はこの女が苦手である。もちろん嫌いって訳でわないのだが、


「ちょっと、秀くん。酷くない。いきなり避けるなんて。どうかしてるよ。」

「いやあ、どちらかというと、いきなり抱きついてくる奴の方がどうかしてると思うけど。」


「いやあ、だって、秀くんがわざわざ図書室に来たんだよ。しかも放課後に。これって私に会いに来たんだよね。そうだよね。いやあ、そう思ったらうれしくてね。あ!もしかして私と付き合うってようやく決めたの?いやあ、そうだよね。うんうん。こんな可愛い美少女に告白されて、秀くんは戸惑ってただけだったんだよね。いいんだよ、素直になって。私たちついに両思いだね。そうだね。そしたら、もう結婚しようか。うん。そうしよう。私たちには付き合うっていう、時間必要ないもんね。そうなったらまずは親に挨拶をしてそれから...」


「おい、いい加減にしろ。確かに星野に会いに来たけど、告白を許容するために来たんじゃない。別の用事だ。」

「えー。」


星野はぷくーと頬を膨らませる。明らかに不満そうだ。


そう、この女、僕に惚れているのである。なぜ、こんなゲームが好きの陰キャ中の陰キャの僕のことを好きになったのかは未だに不明である。


一回聞いてみたが、助けてくれたからと言ったっきり、その他の情報はくれなかった。わからない。一体どこを好きになったのだろうか。


「じゃあ、いつ付き合ってくれるの?明日。明後日?」

「だから何回も僕言ってるだろ。断るって。」

「じゃあ、もう一回。好きです。付き合ってください。」

「いや、今、断ったから!!」


「相変わらず。仲がいいんですね。思い切って付き合えばいいのに。」


後ろに立っていた雄星が呆れた口調でそう言う。


「いや、星野とはないから。」

「うん。そうしよう。」


このパターンでどちらかが、許容する場面あっただろうか。普通、両方『こいつはないから』と言うところじゃないのだろうか。そんな小事をよそに僕は話を軌道修正させる。


「それは置いておいて、僕達は星野にお願いごとを頼みに来たんだ。」

「へえ。頼みね。」


意外そうな目で僕の目を見てくる。うん。そうだよ。他の人に頼めてたら他の人にしてたよ。


「どんな頼み?」


僕は今朝起こったことを星野に話した。





「ふうんラブレターね。一体誰が私の秀くんに送ったのかな?」


星野の目は純粋さをなくし、どす黒くなっていた。怖いです。


「そう、一体誰が送ってきたか気になっていたんです。ほら、星野さんってなんでも頼み事を解決するじゃないですか。この前だって解決してくれたらしいですし。頼まれてくれませんか。」


雄星が星野に対して頼み込む。これが、星野じゃなければイケメンパワーで押し切れたんだけどね。相手が悪い。


「え〜どうしようかな。」


チラリとこちらに星野は視線を飛ばす。


「誰かさんが、頼んでくれたら、考えなくもないな〜」


チラリ。

こいつ。


「はぁ」


わかってた。こうなることぐらい。だから嫌なんだ。


「頼む。星野。」

「でも、無料だとな〜私にメリットないしな。」

「...」

「前みたいに、お願いしてくれないとな〜」

「...デート1日。」

「ただデート1日かぁ〜」

「...手を繋いでデート...1日。解決できたらな。」

「いやあ、秀くんの頼みは断れないよね。うんうん。引き受けるよ。」


ぱあっと明るい笑顔で、僕の手を掴みぶんぶんと振る。どうやら引き受けてくれるようだ。


後ろにいた雄星はニマニマとした表情でまるで『いつもそんな約束事をしてるんだと』訴えているようだった。もう、こいつとの友達やめようかな。


「よし、それじゃあ、解決しよう。私のデートのために。」


そんなわけで僕達はこのラブレターの真相を解くこととなった。






「それじゃあ、とりあえず例のラブレターを見して。百聞は一件にしかずって言うし。」

「ああ、そうだね。」


僕たちはラブレターを取り出し、星野に渡す。星野はそれを取り、顔をこれでもかと言うほど近づけて、 隅々まで見る。横から見たり、見比べたり、封筒を振って見たり。しばらく経った後、見尽くしたのか、そのままラブレターを返してくる。


「なにかわかりましたか?」

「うーん。特に。」

「まあ、そうですよね。」


しょぼんと言った表情を雄星は浮かべた。


「雄星くんだったら、このラブレター、誰が入れたと思う?」

「うーん。思いつかないですね。やっぱりイタズラでしょうか。仮に本物のラブレターだとしても、名前ぐらいは書かくでしょうし。」

「恥ずかしかったからじゃないか。」

「でも、そしたら、日時とか場所で会おうとかが定番じゃない?」


その通りである。ぐうの音もでない。


「それに、仮にこれが一人の男子に送られてたらわかるんだよね。ああ、陰で俺のことを好きな人がいるんだな〜誰なんだろう〜?って思わせることができるし。でも男子全員に送っているからね〜。」


星野は髪につけたヘアクリップをパチパチと、挟んでは取って挟んでは取ってを繰り返す。


「じゃあ、これがある人が貰ったときだけ、伝わる暗号だったら、秀くんはどう考える。」


暗号。暗号ね。僕は考える。どこかに隠している暗号があるとか?いや、ないない。どこを見たってあの文章しかなかった。だったら、一層これ自体が暗号?


「このラブレターが入っていたら、何か?みたいな。」

「まあ、それが妥当な線だよね。このラブレターが入ってたらミッション完了みたいな。まあ、なんにしてもこれ以上は思いつかなそうだね。」


そう言うと、星野さんは僕の手を掴んだ。


「へ?星野?」

「それじゃあ、いくよ。」

「いくよってどこに?」

「そりゃあ、もちろん現場。」


僕は強引に手を引っ張られ、図書館を後にする。後ろに立っていた雄星は嬉しそうな表情を浮かべた。こいつ僕らのこういうのが見たかったのか。カプ中め。今度絶対に奢らす。


そんな思いをよそに、強引に僕は引っ張られ、昇降口に向かった。


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