第2話 冤罪劇場と、第一王子の逆断罪


「セシリアがスリムスを押したのよぉぉぉ!!」

スリムスの甲高い泣き声が廊下に響いた。

学園生活初日から、冤罪の連続。


セシリアは眉間を押さえた。


(はぁ……またですか)


スリムスは演技派だった。

ころん、と転べば「セシリアに突き飛ばされた」

物が無くなれば「セシリアに盗られた」

授業で魔法が暴走すれば「セシリアの呪い!」


しかし。


「スリムス嬢、その位置から“押された”と言うのは物理的に不可能だ。あなたは自分で足を滑らせただけだ」


「ひっ!?」


瞬間、論破の大剣が振り下ろされる。

ハイルである。


断罪するたびに当時の現場を把握し、証拠をそろえてきっちり論破。

レイルとスリムスの冤罪は、一つ残らず撃退された。


(……助かるけど。なんかこう、複雑)


セシリアはぼやく。


「お前は悪くない。自信を持て」


ハイルはさらりと言った。


(……ハイル殿下、なんでそんな真っ直ぐ……?)


スリムスは泣きじゃくりながらレイルにすがりつき、そのレイルはレイルで震えながら言う。


「なぜ僕の完璧な計画が崩れるんだ……!」


「お前のどこが完璧だ」


ハイルは淡々と返し、騎士団長に目配せする。

二人は猿ぐつわをされ、引きずられて退場するのであった。


こうして冤罪劇場は幕を下ろし、王宮も学園も“第二王子の暴走”への対応に追われ始める。


だが、その裏で——

ハイルは一つの決断を固めていた。

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