鈍色の浸蝕者

加持稜成

プロローグ



私は何故、生かされた?

私は何故、この世界に戻されたのか?

奴らは何も言わない。

だけど奴らは私をずっと監視している。

その証拠に私の視界の隅には、何かの黒い点が常に映り込んでいる。それがいつからそこに居たのか分からない。そもそもずっと居続けていて、それに私が今頃になって気が付いたのか、或いは、あの日を境に視界に潜り込んだのか、今となっては知る由もない。

澄み渡る青空、肌にそよぐ優しい風。どんなに心地よい陽射しが大地を包んでも、それは私にとってはただのまやかし。この現実にとって、私は『現実』ではない。あくまで異端。

その優しさは私へ向けられたものではない。


柔らかな風と共に、不意に下腹部に傷みが走る。その痛みに私は戦慄する。

薄れ行く記憶の狭間に、確かに存在する不安と恐怖。それはきっと永遠に晴れる事は無い。

私は独り、その恐怖に唇を噛みしめる……


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