第41話 至高の暗殺者

 青、赤、黒、銀の閃光が空を駆け巡り、おびただしい数の軍勢を引きちぎっていく。

 その様子をチラリと見上げたアゲハは、一瞬にして六度虹の刃を振るい、お互いを守りあっていた巨大な盾騎士達を八つ裂きにした。


「ちょっとミズハに無理をさせちゃってるかな。仕方ない……。もう一本抜くか――極彩ノ双牙ごくさいのそうがってね!」


 彼女の大きな袖から気軽に引き抜かれたのは、もともと持っていた虹の刃と寸分たがわぬ虹の刃。二刀を掲げた彼女は、衝撃波をまき散らしながら暗黒騎士の軍勢へ突撃した。


 虹色の風が舞う。


 男神一柱を囲んでいた暗黒騎士たちは、何かを受けた姿勢のまま崩れ落ちた。その身体には一筋の切れ目が入り、もともとそうであったかのように両断されている。


『おいおい? お祭りは終いかぁ?』


「初参加者ばっかりなんだから経験者がペース調整しなきゃでしょ? それともダラダラ踊るのがお好み?」


『ハァ〜? 戦神たる俺様がダラダラ戦ってるって? 安い挑発だなオイ! そんな挑発に俺様が乗るわけないだろ? なあ!』


 口では冷静ぶったことをいう男神だが、その表情は笑顔を作ろうとしてピクピク震えている。完全にキレてしまっているようだ。


 そのピクピク笑顔も続くアゲハの言葉に崩壊した。


「そうかもね? 今ので私のほうが四体多く倒したけどっ!」


『あんだと!? 横取りはノーカウントだろっ!』


「ノーカン無し! 早いもの勝ちだよ!」


『待てっ! セコいぞ!? 起きろ草薙の剣! 超特急で起きろ!』


「ふはは! 勝負に待てもセコいもないんだよ!」


 大人気おとなげないことを言いながらアゲハが虹の双刀をもって騎士たちを切り捨てていく。挟み込むように振るわれる刃は受け切ることを許さない。男神を囲んでいた騎士たちは、この方法で狩られたのだろう。受けねば即死の刃による挟み撃ち、単純だが凶悪だ。


 焦った男神が大太刀をバシバシ叩くと、その刀身は伸び、厚みを増し増しにされて超巨大な刀に姿を変えた。


 軽々と振るわれた刃は騎士たちを一網打尽にする。


『おらよっと! コイツで十はかたいぜ!』


「今、八体目を追加で狩ったところだけど?」


 ニヤと笑った男神は、アゲハの煽り文句に真顔になった。


『オラオラオラオラァ!』


「そ〜れ、それそれっ!」


 暗黒騎士の軍勢を虹色の風が切り裂き、巨大な刀が薙ぎ払う。


 #####


 一方、ハルカ達は泥沼の消耗戦を繰り広げていた。生徒達がやられるたびにカッと目を開いたハルカが術を発動している。その姿に先ほどのような感傷はない。いやに慣れているのが気になるところだが、その効果は絶大であった。


 ――反魂術っ!――


 首が飛び。


――反魂術っ!――


 胴をきり裂かれ。


 ――反魂術っ!――


 首をかじり取られた生徒たちが。


――反魂術っ!――反魂術っ!――反魂術っ!――


 ハルカの術によって魂を呼び戻されて、立ち上がり、戦線に復帰していく。あれほどの大怪我をすれば精神にも打撃を受けるものだが、彼女達にそのような様子はなさそうである。あの術は身体どころか精神の傷まで癒しているのかもしれない。


「だああああ! 全然っ! 減らないぞ!?」


「まて……。どうやら撃破数より増援数のほうが多いようだ」


「それってどういうこと?」


「ようは、減らないどころか増えている」


「えええええ!?」


 赤雷せきらいをまとったカエデも奮戦しているが、多勢に無勢すぎて戦況を変えるには至らない。


「気をつけろ。上空で何か動きがある」


「えー。今度は何? あんまり痛いのは嫌だぞ」


 イモムシの宇宙を閉じ込めたかのような黒の瞳が見上げる先にて、空が割れた。


 割れた空からは黄色の何かがぬっと出てくる。

 それは超巨大な龍の首であった。


――黄竜召喚!――


 黄金色の光が立ち昇ると、巨大な龍の口が開き黄金の輝きを放ち始める。あまりに強烈な光に世界は金色に塗りつぶされ。


 光が放たれた。


 放たれた黄金の吐息は、圧力だけで全てを押しつぶしてゆく。純粋な霊力によって存在を塗りつぶしているのだ。


 光が過ぎ去った後には灰色の世界だけが残されていた。


 黄金の竜の首が引っ込むと、割れた空は閉じていく。


「わあ……みんな吹っ飛んじゃったぞ?」


「我らに見えている範囲は全滅しているな。む、見覚えのないタイプのヤツがいる」


 灰色の世界を一騎駆けするのは、ガラクタを寄せ集めたかのような謎の存在。

 近くにいた用務員がモップで突くと、倒れて車輪を空回りさせ続ける。


 赤い光が溢れる。


『キャスリング。ダメじゃないか、不用意に変なモノに触れちゃ』


「なっ!?」


 光と共に現れたのは仮面を被った貴族風のモノ。

 一瞬にして用務員殿を羽交い締めにしたあと、教え諭すように続ける。

 突然に現れて理不尽なことを言い始めるとは、なんと卑怯な存在なのであろうか。


『”おはしもちたい”なのだろう? 守らないからこういうことになる。勉強になったね?』


 返事を求めているわけではないらしく。一人喋り続ける貴族風のモノは、用務員殿を盾にしながら状況を見守っているハルカの元へ一歩一歩近づいていく。人に術を向けることになれていない生徒達は見送ることしか出来ないようだ。


『ふふっ、これでチェックメイト』


 勝ち誇りながら用務員殿を突き飛ばしたモノは、血のように赤い刀身を持つレイピアを引き抜いた。


「いや、詰んだのはお前だ」


『何だと!? ぐぅ! どっどうしてっ! こ、こんなモップが……!』


 黒い血を吐いたモノの胸からは黒く濡れたモップが突き出ていた。

 それを成したのは先ほど突き飛ばされた用務員殿である。


 いや、違う。何事であろうか。

 用務員殿と凶器と化したモップが黒く霞んでいく。


「焦ったな悪魔。死兆暗雲ここにあり」


 そこに立っていたのはザ・槍といった感じの槍を持つ普通の青年であった。

 その槍が貴族風のモノを貫いたままなので、普通どころの話では無いのだが。


 暗雲を名乗った青年は宣言する。


「蹂躙せよ冥土の従僕――メイド召喚」


「「「はい! ご主人様!」」」


 物騒な宣言と裏腹に現れたのは可愛らしいメイド達であった。

 角が生えたり尻尾が生えたりしているが、概ね可愛らしい女性がメイド服を着ており、少々場違いな感がある。


「……こういう時は、そういうのやめない?」


「ダメです。ご主人様!」


 しかも、しゃべり方まで普通になってしまった召喚者の提案を普通に断わっている。

 もしかすると普通に制御できていないのかもしれない。


「ふっふざけるな! モップにメイドだと!? 私をバカにして「まあいけません!」うぐっ!」


 制御不能なメイド達は暴れようとしたモノに暴行を加え始めた。細腕で殴っているだけだというのに鈍い打撲音が繰り返される。


「そんなことを言ってはいけませんよ! あなたも今日から私たちの仲間になるのですから!」


「な、なにをいって!?「メイド・メイド・メイド」め?」


 一本指を立てたメイドさんが諳んじると、諭されたモノの服装は貴族風の服からメイド服に早着替えさせられていた。いつの間にか槍は抜かれており、もう見た目的には同じ集団である。


「ふんっ! 自ら有利を手放すなんてバカなご主人様たちだね! この私にこんな素晴らしい服装をさ、せた、こと……? どうして……」


「今までのお前は死んだ。お前はメイドという存在に上書きされたのだ」


「「「歓迎するよ! 新人さん!」」」


 死の宣告を受けた仮面の新人メイドは、ご同輩達から大歓迎されている。

 なんと恐ろしい能力であろうか。恐るべし死兆暗雲。


 大きく頷いたハルカは混沌とした状況から目を反らしながら騒動の終結を宣言する。


「あ、あはは……。あとは暗雲が何とかしてくれそうですね。これにて一件落着」


「よ、良くないぃ~!」


 色を失った冥界に新人メイドの泣き声が響き渡る。

 それは新たなるメイドの産声であった。


――あとがき――


ここまで読んでくださりありがとうございます!

アゲハの知り合い達の活躍を楽しんでくれましたでしょうか。

今回は依頼というわけではありませんでしたが、大人数での神隠しという割と大ピンチな状況に陥ってしまいましたね!

このあとメイドとしての本能を植え付けられた仮面メイドさんの手により、全員無事に脱出できました!

次回からは旧友達の様子が気になったアゲハが十二神巡りをします。

簡単に言えば神社参りですね! ……普通の参拝方法ではないですが!


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