第33話 鬼ヶ島に到着する

 二つ並んだ山が角のように突き出した島がある。

 山のふもとを彩るのは鬱蒼うっそうと生い茂る原生林。ほぼ全周を険しい断崖絶壁に囲まれており、むき出しの牙を見せつけるように正面だけが砂浜となっていた。

 まるで鬼の顔のごとき不吉な形状の地形である。


 そんな島の口にあたる場所に妙ちきりんなモニュメントが存在していた。

 直立したドデカいタコ足が回転しているのである。


 タコ足には超巨大な木の串が突き刺さっており、その根元をみれば回転の動力源はアゲハだったようだ。安定のためなのか串の底部は砂浜に深く深く沈んでいる。もし彼女が手を離しても直立を続けるだろう。

 近くに木の皮がばら撒かれているので、丸太をそのまま串にしてしまったのかもしれない。何とも豪快な自然資源の利用法であろうか。


 アゲハから少し離れた場所に立つ雪華が腕をスッと上げて術式を発動する。


「”魔を打ち砕く光の一閃

 け燃えろ”火術の十九・灼閃! あちち! 覚えたのは良いけど、火の術は熱くて苦手だなぁ」


 彼女が腕を溶かしながら放つオレンジの光線は、ガスバーナーよろしくタコ足をあぶっている。あぶられたタコ足からは食欲をそそる香りが拡散し、更に潮風で味付けをされながら森の奥へと流れていく。


小林寺こばやしでら流退魔術・焔魔合掌拳えんまがっしょうけん! ゼヤアア!」


 船を失ったキャプテン・キンタが両手を合わせて残像の見えるほどの速度でこすり合わせると、その両手は発火。こする度に無数の火の弾丸を吐き出すトンデモ霊術を披露した。その炎を受けたタコ足は良い香りをさせながら焼けてゆく。


 人間があんなに手を燃やして大丈夫なのであろうか。

 恐ろしい絵面の術である。


「ほんとに小林さんのところの家伝術は体を張ってるよね。キンタ以外が使ってるところ見たこと無いけど」


 自らも人外業を披露しているアゲハが思わずといった調子で声を漏らせば、火を絶やさずに連打し続ける両手炎上男キンタが答える。


「鍛えたからな。他の連中は根性が足りなかったんだろう。鍛えていれば、そのうち雪華もできるようになる」


「む~り~! そんな術使いたくありません~!」


 キラーパスを受けた雪華は腕の修復も忘れて両腕でバツマークを作り拒否する。そうは言っても火の術を使っている時点で雪女的にはおかしいが、彼女はいったいどんな方向へ導かれているのであろうか。

 キンタのように両手を燃やした暁には、きっと雪女卒業である。


「こんな所かな」


 そう言って、巨大タコ足の回転を止めたアゲハが森の方へ目を向ければ、頭から角を生やした異形達がゾロゾロと近づいてくるところであった。その筋骨隆々たる手には巨大な金棒やら刀やらが握られており、タコ足を分けて貰いに来たわけではなさそうだ。


「ガガッ! ガハハハハ!」

「「「ガハハハハ!」」」


 アゲハ達に気が付いた鬼達は豪快に笑うかのような奇声を発し、金棒を振り回しながら襲いかかってきた。


「まさか、本当にこんな作戦が成功するとはな……」


喧嘩っ早いけんかっぱやい連中だからね! ちょっと目立てば集まってくるよ!」


 どうやら、このドデカタコ足調理はアゲハの仕掛けた罠だったようだ。

 森の奥から我先にと飛び出してくる鬼達は、キンタと巫女が殴ったり蹴ったりする度に森へと吹っ飛んでいき、木や後続の鬼と衝突して奇妙なモニュメントを量産している。


「何それ……野蛮すぎない?」


「オウオオウ! ガハハハッ……」


「っていうかっ! 私に対しても普通にフルスイングしてくるんですけど!?」


「そういう妖怪なんだよ!」


 雪華を叩き砕いて勝ちどきをあげた鬼達は、即座に再生した彼女のカウンターで氷像にされてしまった。氷像は雪女に蹴られるとドミノ倒しになって倒れていき、まとめて粉々に砕け散る。


 玄関前で怪しげな儀式を始め、追い払いに来た住人を片っ端からボコボコにする。流れを列挙してみると、アゲハたちの方が野蛮に見えるのは気のせいであろうか。


 その野蛮具合、同族の屍を踏み越えて我先にと飛び出してくる鬼達と良い勝負である。


 鬼の死骸達は少しずつ霊力にかえっていき、砂浜には彼らが持っていた武器達だけが墓標のように積み上がっていく。

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