第31話 幽霊とカーチェイス
真昼の高速道路を白黒ツートンカラーのワゴン車が走っている。
中央車線を行くその車のナンバープレートには番号がなく、代わりに太極図が描かれていた。
ハンドルを握るのは黒の狩衣をまとったキンタ。
しっかりと前を見て運転する姿は、以前完全に運転を放棄していたアゲハとは似ても似つかぬ仕事ぶりである。
「うへへへへ! 入れ食い状態! 今は返信できないけど……。仕事が終わったら片っ端からメッセージ送ろっと! 今冬こそ彼氏を作ってみせるっ! るん!」
「ネットを使うのは良いが、位置情報を教えたり現在位置の写真を送るのはNGだ」
その隣では雪華がスマホを片手に一喜一憂していた。
なにやら彼女は色々なアプリを多重起動しているようであり、手慣れた動作で返信をコピペしまくっている。キンタの注意もどこ吹く風でスマホに熱中している。
「大丈夫~。隠密行動中だもんね!」
「本当に分かっているのか……?」
後部座席にはアゲハが胡座をかいて座っており、片手に『できる! 土地活用!』と書かれた雑誌を持ちながら皮算用を楽しんでいる。もう依頼達成後のことを考えているとは、本当に気の早い巫女だ。
「ふむふむ、こんな活用方法が……! 夢が広がるよっ!」
「気が早すぎないか?」
「デカい依頼はこのわくわく感も報酬でしょ!」
「……好きにしろ」
お気楽な二人の様子に痛みをこらえるように頭へと片手をやったキンタは、急に割り込んできた車両に気が付きブレーキを踏み込みながらハンドルを切った。
タイヤが路面をスリップする音と共に車内の物がひっくり返る。
「くそっ! なんてヤツだ!」
「きゃーっ!」
何とか回避したキンタは悪態をつき、スマホを取り落としそうになった雪華が悲鳴を上げながらスマホでお手玉を披露。アゲハだけはジッと雑誌を熟読している。
割り込んできたのは真っ赤なスポーツカーであった。
スポーツカーは屋根のない仕様となっており、運転手の真っ白な頭がよく見える。
その運転手を睨んだキンタは息を呑んだ。
「こんな白昼堂々と霊障か……!」
果たして運転手は白骨であった。ガイコツがスポーツカーを運転しているのだ。
振り返ってカタカタと笑ったガイコツは加減速を繰り返して白黒ワゴン車を煽ってきた。命がないからこその命知らずな危険運転である。
「いや、単純な霊障じゃなさそうだよ?」
雑誌を丸めて大きな裾へしまい込んだ巫女が額に二本の指を当てつつキンタの判断を否定する。彼女が視線を後ろへ向ければ、後方から数台の車が爆走してきた。明らかに大幅な速度超過である。
その車内にはカタカタと笑うガイコツ達がギュウギュウ詰めに詰まっていた。
窓から伸びる白骨の手には銃火器が握られており、白黒ワゴンへ向けてやたらめったらに連射し始める。何発か被弾して車はボロボロになっていく。
「ちぃ! 挟み撃ちか!」
車線変更して射撃を避けさせたキンタは舌打ちする。
加速して逃げようにもガイコツの操るスポーツカーが同じく車線を変更してきており、邪魔になっているのだ。ついにはガッシャンと直接接触しながら減速し、こちらを無理矢理止めようとしてくる。
良く見れば、その車のナンバーには海賊旗よろしくガイコツが描かれていた。ガイコツ専用車両だとでもいうのであろうか。
次の瞬間、激しい衝突音と共にガイコツインスポーツカーは遙か彼方へ飛んでいった。そのまま遠くの山に墜落し、土砂を巻き上げている。
「流石だな。助かった」
「運転を任せてる分は働かないとだよね」
そんな理不尽現象を起こしたのは、いつの間にか車の前面に立っていたアゲハであった。高速で走る車の上を普通に移動した彼女は、殊勝なことを言いながら窓から後部座席に戻ってくる。
「う、うがーっ!」
「なんだ!? どうした!?」
何故かプルプル震えていた雪華は怒りの雄叫びを上げた。
彼女の手には丸く抉られたスマホが残されており、どうやら運悪く撃ち抜かれてしまったようだ。
シートベルトから抜け出してからドアを蹴り開けた彼女が身を乗り出すと、後ろから銃を乱射していたガイコツ集団は次々とスリップして柵を突き破りコースアウトしてゆく。そのタイヤは真っ白に凍り付いていた。
「ふんっ! 人の恋路を邪魔するからだもんね!」
鼻を鳴らして戻ってきた彼女は、シートベルトに戻り腕を組むと、苛立たしそうに指をトントン叩いている。
「……一応、依頼元に通報だけはしておくか」
そう言いながらハンドルにあるボタンを押したキンタは、一連の騒動について報告しているようだ。規模はともかくとして見た目は事故と同じなので、当然の対応である。
トラブルを切り抜けてボロボロになったワゴンは、静かになった高速道路を駆け抜けていく。
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太陽が中天にさしかかる頃、息も絶え絶えといった様子の白黒ワゴンが寂れた港に停車した。
その車はアゲハたちを降ろした後、小さな煙を上げて小爆発、衝撃で全部のタイヤが外れて転がってゆく。
「供与品だったんだが、一日でお
「借り物じゃないなら良いじゃん! 報酬とか減らなさそうだし」
「そうだ、そうだ! 私のスマホだって壊れちゃったんだから!」
「わかった、わかった。被害分はバイト代と別で払おう」
「約束だからね! ……大漁だったのになぁ」
雪女の交渉を見届けた巫女は周囲を見回しながら問いかける。
漁港には大した建物はなく。倉庫や小さな定食屋程度しかない。
「で? ここが目的地?」
「いや……」
前掛けだけが長いオリジナル狩衣を着たキンタは寂れた港に停泊している漁船の一つを指さした。その船には浄霊丸と船名がペイントされている。中々大きな船だ。
「次はあの船で島まで船旅だ。あまり時間が無いと言った理由だな」
「あんな船で船旅って……。ここまで来たら付き合うけど、気が乗らないなぁ」
強い日射しを受けて輝く海は不気味なほど凪いでいた。
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