第26話 パワー系雪女の加勢

「おりゃ~っ!」


 激しく波打つ露天風呂を背景にして、ついに限界を迎えた骨魚の上顎うわあごは下顎からすっぽ抜けた。カエデは天にかかげた上顎と目が合い、パチクリと不思議そうに見つめ合っている。


「小娘! 火の術式を使え!」


「あ、そっか!」


 風呂の大海にこぎ出してしまった木桶から冷静沈着なるイモムシの檄が飛ぶ。

 言われてハッとしたカエデは掲げ持った上顎を真っ赤に赤熱させてゆく。


「カエデちゃんファイアーッ!」


 下顎から飛び立った彼女は上顎を足元へ投擲。

 あるべき場所に叩き付けられた上顎は火球と化し、自らを激しい炎で火葬する。


「うは~! 危なかったぞ!」


「油断するな小娘! 新手が来るぞ!」


「げぇ~! 霊装展開っ!」


「っ! 皆も霊装を! 霊装展開っ!」


「「「霊装展開っ!」」」


 イモムシの号令を受けてオカルト部の面々が一瞬で白い着物姿に衣替えする。

 周囲を取り囲むように現れたのは、焼き直したかのごとき巨大な顎の群れ。

 それぞれ頭骨、背骨、全身と顕現して骨魚の群れとなって現れた。


 戦闘装束に身を包んだ彼女達だったが、濡れたまま霊装をまとうのに慣れていないのか動きに精彩が欠けている。


「うわぁ~。霊装が濡れてて動きにくいぞ……」


「お風呂で霊装を展開すると、こんなことになってしまうのですか!?」


 彼女達に迫り来る骨魚達は、いつの間にか巫女服に着替えていたアゲハに跳ね飛ばされた。手加減をしたのだろうか、破壊されることなく転げ回っている骨魚達。


「霊魚か。不意打ちさえ凌いでしまえば、ボス達に任せても平気そうだね。水系統の霊術を使えば、水気を飛ばせるんだけど~?」


「なぜ我がこんなことを……。サラスヴァティ流転神のオーラ守り


 ブツブツ言いながらイモムシが詠えば、青い波動が発散されて彼女達の水気を吹き飛ばした。同時に湯気も消えてクリアな視界が確保される。


「みんな! 反撃してくださ~い!」


 部長からの指令を受けたオカルト部達は、体勢を崩された骨魚達を討ち取っていく。


 そんな鉄火場と化した浴場にガララと戸を開けて入ってくる者達が居た。


 白髪の雪女と黒スライムを発見した雪女である。

 入り口近くに転がっていた骨魚が彼女達へ襲いかかった。

 二人を一呑みにせんと、ノコギリの如くキバが並んだ大顎おおあごを全開にして食らいつく。


「危ないですっ!」


 全体を見ていたため、危機に気が付いたマイヤが叫び声を上げた


 飛びかかった骨魚は白い雪女のノールック裏拳で壁に叩き付けられ、一瞬で氷結したのかバラバラに砕け散ってしまった。骨魚のなれの果てはパウダースノーとなって飛び散ってゆく。


「コレ、霊災って奴だよね。私も手を貸すよ」


「わわわ! 雪華ちゃんつよ~い!」


「それほどでも、あるかもね! アハハハハ!」


「どうやって、そんなに強くなったの?」


「……彼氏探しの成果、かな? うん……」


 白の雪女は種族としてダメそうな返答をしながら遠い目をした。

 どうして彼氏探しで強くなってしまったのであろうか。

 少々理解に苦しむ成果である。


 頭を振って正気に戻った雪華は複雑な手印を織り交ぜて詠唱をしはじめる。


「”一片の氷粒も

 一千一万と積み重ねれば

 堅牢なる城壁と成す

 来たれ退魔の氷城”

 氷術の四十六・氷城結界!」


 長い詠唱が完成すると、旅館全体を巨大な氷の城が覆い尽くした。

 隠れていたらしい骨魚達が天高く吹き飛ばされる。


「すご~い! 退魔師さんみた~い!」


「でしょ~? 徹夜で覚えさせられたからね!」


 骨魚の処分が終わったのか、アゲハ達が集まってきた。


「ご協力ありがとうございますっ! 依頼を受けておきながら申し訳ない」


「いえいえ~! 私も黒いポニョポニョだけだと思っていましたので!」


 ちょっと低姿勢で依頼人の様子をうかがっていたアゲハは、なんとも陽気な返事に勝利を確信したような笑みを浮かべた。何とも分かりやすい巫女であろうか。

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