第19話 炎に火を付ければ火炎となる

 廊下を焼いていた炎は、意志を持つかのように集まってゆく。

 一カ所に集まった炎は、アゲハの放り捨てた火まで吸い込むと怪しく輝いた。


「あれ? 火が小さくなっていくぞ! ラッキー!」


「あれは……。どうやら面倒なことになりそうだぞ小娘」


 飛び上がって喜んだカエデを賢明なるイモムシが諫めた瞬間、集まっていた炎は大の字に広がり人型を成す。


 頭部の火は変色して見覚えのある青色に変わり、伸ばした両手にはそれぞれ燃えさかるキーボードが現れた。キーボードは真っ赤に赤熱していく。


 廊下に現れたのは、天井に頭がつきそうな程大きな炎の巨人だ。


「げげーっ! でっかくなったぞ!?」


「当然だ。火の体を持つ霊的存在に火の術を食らわせたのだからな」


「言ってよ~!」


「言う前に小娘が術を使ったのであろうが!」


「うぐっ!」


 二人のかけ合いを聞いていた巫女は、したり顔で頷いた。


「だけど、受けた術をすぐに真似して使いこなせていたね! 良いセンスだよ!」


「えへへ、それほどでも~あるぞ!」


「調子に乗るんじゃない!」


「いった~!」


「しかし、あれの相手は小娘では難しいぞ。こんな時のための教導役なのではないか?」


 すぐ調子に乗るカエデをコンと小突いたイモムシが視線を向ければ、頬をかいた巫女が一瞬消え――


「武器は没収しておいたからファイトだよっ!」


 ――二つの燃えさかるキーボードを持っていた。

 彼女がフーッと息をかけると、キーボードの炎は一瞬で消火される。

 それを品定めした後、小さな声で嘆いた。


「……このキーボード骨製かぁ。売れない、よね……」


 いつの間にか武器を失っていた炎の巨人は大げさに驚き、必死になって足元を探している。


「チャーンスッ!」


「いいぞ小娘。大した決断力だ!」


 その様子を見てニヤリと笑い駆けだしたカエデは、振り上げた刃を白く輝かせながら斬りかかった。


「不意打ちのカエデちゃんアターック!!」


「目的まで言うんじゃないっ!」


 イモムシの鋭い突っ込みと同等の冴えを見せた一振りは、炎の巨人を袈裟懸けに切り裂いた。巨人は燃えさかる炎をまき散らして絶叫する。


「あちち!?」


「浅いか! 避けろ小娘!」


「うわっと! オマケのカエデちゃんアターック!」


 カエデが転がるようにして逃げ出すと、振り回された炎の豪腕が彼女の居た場所を炎上させた。置くように振られた白刃が無防備な豪腕を切り落とす。


「ど~んなもんよっ!」


「回避と同時に霊力を込めて剣を振ったのか。小娘の戦闘関連のセンスについては認めざるをえないな」


 満身創痍となった炎の巨人は、ヤケになったのか残った腕を振り回して暴れはじめた。

 厄介なことに振るわれた腕は異常に伸び、炎の大蛇として周囲をなぎ払いまくる。


 ゴロゴロと床を這いずり回って回避したカエデは、炎の縄跳びを跳び、すり抜け、側転、前転、宙返りで避け続ける。


「うぎゃー!? ほわぁー!?」


「くっ! 術に集中できん! 大げさに転がり回るな小娘!」


「だって! 明らかに! 普通の火じゃ! ないぞ!?」


 カエデのいうとおり、炎の大蛇が叩き付けられた廊下や壁は激しくひび割れてボロボロになっている。

 何やら巫女は片手で持ったキーボードにスマホを向けているが当然無傷。

 フリマアプリにでも出品するつもりなのであろうか。


「少し霊力の鎧を貫通するだろうが、死にはしないから問題ない! 我慢しろ!」


「む~り~っ! やけどが残っちゃう~!」


「火傷がなんだ! それでも貴様は霊能力者志望かっ!」


「あたしはクールでカッコいい霊能力者になるの~!」


「クールぅ? クルクルパーの間違いであろう! それに同意語を二重で使うな!」


「どういご……? よくわからないぞ?」


 バク転しながら器用に小首を傾けたカエデは、ウンウン悩みながら体をひねっての側転で炎の大蛇を回避。

 焼けている壁を一瞬蹴って元の場所に戻ると、炎の巨人目がけて踏み込む。

 直前に大蛇を振るい腕を振り切っているので、巨人までガラ空きだ。


 何度も斬られている巨人は炎の大蛇を引き戻し、今度こそはと迎撃の構えを見せつけた。


 一気に距離を詰めたカエデは鋭いステップを刻んで方向転換。

 警戒する相手をあざ笑うかのように腕のない側を通り過ぎて、巨人の後ろ側に回り込んだ。

 オマケに手癖なのかペンを回すかのように剣を手中で回転させており、実は余裕が有るのかもしれない。


「……? あ? またピコンと来たぞぉ!」


「またか……今度は何をする気だ? 火は使うんじゃないぞ」


「ふっふーん! クールに決めるぞ!」


「これは……」


 回転をやめて逆手に構えられた剣は白く輝き、その白刃を伸ばしてゆく。


「刀身の延長か! なんと非効率的な……」


「この方がカッコいいから良いの! おりゃーっ! カエデちゃんスラーッシュ!」


 二度振るわれた光の剣は炎の巨人をエックス字に切り裂いた。

 逆手の振り上げから、素早く順手に持ち替えての振り下ろし。

 巨大な刀身ながら、ほとんどが非実体剣故の高速二連撃である。

 

「成敗!」


 斬られた巨人は膝をつき頭部の青い炎を散らす。

 更にはカエデの宣言と共に派手な爆発を引き起こした。


「霊力を無駄に使うなっ!」


「あいた!」


 どうやら爆発はカエデの仕業だったようだ。

 既に倒した敵を爆発させるとは、とんでもない霊力の無駄使い術である。

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