第11話 神という名の災害(3)

 半壊したビル街の中、神様と呼ばれた山が不気味な沈黙を続けている。

 水晶の巨体は光を受けて虹色に輝いているが、動く気配はない。


 一方、脳筋巫女の手中にあった完璧なるイモムシは輝きはじめた。

 その光輝は魔手から離れて、光の球となり天へと昇ってゆく。


「この御魂みたまに降りよ! 冥神トコヨノカミ!」


 どこか誇らしくなる名を脳筋巫女が呼べば、光球は一際強く輝いた。


『ふむ……』


 暖かな声が聞こえる。

 我らの声なのに、我らではあり得ない声だ。

 我らの体の奥、に熱を与える声は、果たして輝く光球から聞こえてきていた。魂を揺さぶる応えに、状況を見守っていた三十近い我らは平伏する。


 巫女は冥神と呼んでいたが、このような存在をこそ神と呼ぶのであろう。


招来しょうらいご苦労であった我が巫女よ』


「滅相もないっす! まじで! 急なコールゴッド申し訳っ!」


『良い。無垢で素朴な分霊と触れあう機会は多くない。良き気晴らしとなった』


 なんという取って付けたような敬語であろうか。

 あれほど魂を熱くする存在に対して無礼な巫女である。

 在るだけで平伏したくなる存在に周囲の生徒達が震える中、巫女は手を揉みながらうかがいをたてた。


「……して、招来の対価の方は……?」


『うむ、半分ほどいただこうか。分霊ぶんれいの記憶を回収して状況は理解したが、このようなやり方を人の世では分業と呼ぶのであろう?』


「うわああああああああああ!? 私の報酬があああああ!?」


 何事であろうか。急に絶叫した巫女の袖から大量の紙幣が飛び出してきた。

 紙幣は光の中へと吸い込まれていく。


『良き想いであった。少し足りないが、我が去った後の分霊の世話で相殺そうさいとしよう』


「うぅ……。その契約、うけたまわりましたっす……」


『壊さぬように扱いはすれども、無垢な器に我という存在は重すぎるのでな』


 何と慈悲深き神か。

 あの尊きお方にとって我らなど地をはう虫けら同然だというのに、後のことにまで気を砕いてくださるとは、もったいなきことである。


『さて、アレは神亀の類いか。我も多少の盗み食いなら目こぼすのだが、少々太りすぎだな』


 次に慈悲深き神の意識が向いたのは、不敬にも神前にそびえ立つ水晶塊。

 強烈な光を放ちながら上昇しはじめた神に対して、山は地響きを起こしつつ大地を踏みしめて立ち上がり、長い首を伸ばしてその本性を現わにした。


 水晶の牙が生えそろった大口を開けて、生意気にも威嚇しているようだ。


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