第4話

秋になり、春宮改め、帝の元服の日、牡丹の宮は大忙しだった。先日じゃないは済まし今夜添臥を務める。

ー主上、せめてお姉さまたちとのように仲良くなれればいいのだけれどー

院の御所の奥深くで育った牡丹の宮には東宮の人柄を伺い知る情報もなく、本日の夜の対面を落ち着かず迎えることになりそうだった。

ーせめて文のやりとりでもした方が良かったかしらー

しかし女人から送るとおくるというのも外聞が悪く、何の関わりもないままこの日を迎えてしまったのだった。


賜る局は皇族の姫宮であるということもあり、藤壺となった。院の御所の自室の庭ほど華やかとは言えないが藤の花は植っていると聞く。それだけでも慣れたものがあるということは心が安らぐものだ。


「藤壺の女御さま、まかりこしました。」

清涼殿の藤壺の上の御局にたどり着くと前触れが清涼殿の夜の御局の帝へと伝えられる。

ーついにご対面だわー

帝と同じ部屋に入り、合図を受け顔を上げるとそこには、あの藤の舞い散る日に出会った少年がいた。練習してきた口上も忘れ扇で顔を隠すのがやっとである。

「藤壺の女御透子か、いや牡丹の宮と読んだ方がよろしいだろうか」

しかし、聞こえてきた声はあの日の少年の声とは違いすこし高いように感じた。

「はい、以後、よしなに。」

牡丹の宮はやっとのことで声を発した。


添臥といっても2人で並んで寝るだけである。何も起こり用がない。帝と仲良くなろうと思い用意していた話題も先ほどの衝撃で忘れてしまった。気まずい沈黙があたりを支配する。

「牡丹の宮、此度のこと、申し訳なく思う。」

沈黙を破り、帝が話を始めた。

「いえ、帝がお謝りになることではございません。式部卿の宮とは大事に巻き込まれたのはあなたも同じですから。」

「そう言ってくれると気が楽になる。」

帝も牡丹の宮同様口数は多くないようだ。先ほどよりはマシとなった静寂のなか2人はただただ並んでいた。


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