第47話 虹
一陣の風が僕と少女の間を吹き抜けた。
「ちょ、ちょっと待って!
そ、それは・・どういうこと?」
少女の語った内容に、
僕の頭はひどく混乱していた。
「・・あの時。
誰かに背中を押されたの」
続く少女の言葉が僕をさらに驚かせた。
「ま、まさか!
い、一体・・誰が?」
少女は首を振った。
「わからないの。
落ちていく中で私は意識を失った。
ううん。
落ちてから意識を失ったのかも。
兎に角。
目が覚めたら私はここにいた・・」
僕は無言で少女を見つめた。
「家に帰りたいけど、
ここから出られないの。
見えない壁がこの屋上一帯を
囲ってるみたい。
私。
死んでるんだよね?」
そして少女はぎこちない笑顔を作った。
僕は彼女にかけるべき言葉を探したが、
うまく見つけられなかった。
代わりに僕は小さく頷いた。
ふたたび風が吹いた。
どこかで鳶が
「ピーヒョロロ」
と啼いていた。
僕は意を決してゆっくりと口を開いた。
「ある人が言ってたけど。
この世に未練のある人間は
霊となってこの世を彷徨っていると。
多分、君は・・。
自分を突き落とした人間を探すために、
地縛霊として、
この場所に留まってるのかもしれない」
「未練・・」
「大丈夫さ。
君を突き落とした犯人は僕が探し出す」
僕は少女に向かって
力強く首を縦に振った。
一瞬の後。
少女は淋しそうな表情で
弱々しく首を振った。
「・・もし。
私を突き落とした犯人がわかったら。
私はどうなるの?
この世からいなくなるの?」
「そ、それは・・僕にもわからない」
僕は少女から目をそらした。
「・・ごめんなさい。
冬至くんを困らせるつもりはないの。
でも。
もし消えるのなら。
私は犯人を知りたくないな」
「だ、ダメだよ!
犯人には必ずその罪を償わせなきゃ!」
僕は声を大にして訴えた。
少女は目を丸くした。
「ご、ごめん。
き、君に・・。
いなくなって欲しいわけじゃないんだ。
ただ。
き、君をこんな目に遭わせた犯人が
許せなくて・・」
僕は無意識のうちに拳を握り締めていた。
「やっぱり冬至くんは優しいね」
少女の口元が緩んだ。
「1つ聞いてもいい?」
少女が真っ直ぐに僕を見ていた。
その笑顔に僕は胸が痛んだ。
「う・・うん?」
「私のこと・・好きだった?」
「えっ・・」
僕はすぐに返事ができなかった。
「だって。
その答えはまだ聞いてなかったから」
「そ、そうだっけ?」
僕は額に浮かんだ汗をサッと拭った。
それからコンッと小さく咳払いをした。
ふいに少女がパンッと手を叩いた。
「今日はここまで」
「えっ?」
「だって。
また会いに来てくれるでしょ?」
「う、うん。
できるだけ顔を見せるよ」
僕がそう言うと
少女は満足げに頷いた。
それから遠くの空へ顔を向けた。
僕も釣られて南の空を見た。
黄昏色の空に
ぼんやりと虹が架かっていた。
「私。
雨って好き。
生きてる時は嫌いだったけど」
「へぇ。
それは・・」
その理由を聞こうとして僕はやめた。
「・・それは?」
少女が首を傾げた。
「いや。
その話の続きも次にしよう」
少女が微笑んだ。
僕も釣られて笑顔になった。
異端者達のメメント・モリ Mr.M @Mr-M
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