第17話 待ち人来たらば

「リーリー。リーンリーン」

夕食後。

部屋で休んでいるとドアホンが鳴った。

嫌な予感を胸に抱きつつ、

僕はベッドから起き上がった。


僕がコップを2つ持って部屋に戻ると

幻夜は大人しくベッドに腰かけていた。

今夜の彼女は

ゆったりとした白いTシャツを着ていた。

そのシャツの裾からはこの前の夜と同じ

桃花色の短パンが覗いていた。

白く健康的な生足が目に入って、

僕は慌てて視線をそらした。

「どうしたの?

 そんなに慌てて」

「べ、別に・・」

僕は平静を装って

トマトジュースの入ったコップの方を

差し出した。

「あら、気が利くじゃない?」

幻夜はコップを受け取ると

美味しそうに一口だけ飲んだ。

「と、ところで今日は何の用?」

僕は机に座って幻夜に向き直った。

「用がなくちゃ来ちゃダメなの?」

幻夜が微笑むと白い八重歯が見えた。

ゾクッとするような妖しいその笑顔に

僕の心臓が小さく跳ねた。

僕は動揺を悟られないように

アイスコーヒーの入ったコップに

口をつけた。

「ちょっと聞きたいことがあるの」

「勉強なら僕に聞いても無駄だよ。

 自慢じゃないけど、

 クラスでは下から数えた方が

 早いんだから」

「そんなことわかってるわよ。

 私が聞きたいのは妻鳥小絵のこと」

「えっ・・?」

幻夜の口から飛び出してきた名前が

予想外すぎて僕は眉をひそめた。

「自殺って言ってたけど。

 遺書は見つかってないのよね?」

「えっ・・そ、それは・・うん」

「ふーん。

 ま、自殺者の全員が

 遺書を残すとは限らないけど。

 それにしても、ねぇ・・」

幻夜はふたたびトマトジュースを飲んだ。

「な、何だよ・・。

 それがどうしたんだよ?」

「私は彼女の自殺の原因が

 『Dゲーム』にあると考えてるんだけど。

 あのゲームは暗にイジメを助長してる、

 そうでしょ?」

コップを置いた幻夜が

鋭い眼差しを僕に向けてきた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!

 イジメだって?

 話が飛躍しすぎだよ。

 それに。

 そもそも『Dゲーム』では

 男子は女子の投票に

 口出しはできないし、

 その逆も然り。

 だから・・」

「ふうん。

 冬至は問題があるのは女子の中だけで、

 男子には関係がないって言いたいのね。

 つまり。

 イジメの加害者が全部悪くて、

 傍観者には責任がない

 って言いたいわけね」

「そ、それは・・」

僕は幻夜の横暴な正論に口を噤んだ。

「ま、いいわ。

 じゃあ彼女が死んだ時の状況を

 詳しく教えて」

「そ、そんなこと言われても・・。

 僕だってニュースで報道されてる

 程度のことしか知らないよ。

 彼女・・妻鳥は・・今月の3日、

 木曜日の放課後。

 校舎の屋上から飛び降りた。

 発見したのは担任の田村先生だった」

「ふうん。

 それで。

 警察はどうして

 自殺だと結論付けたの?」

「詳しいことはわからないよ。

 ただ・・。

 屋上の縁には

 彼女の上履きが揃えて置かれていた。

 それに争った形跡もなかった。

 だから・・」

「それで自殺だと?」

僕は無言で頷いた。

「無能な警察が考えそうなことだわ」

幻夜は足を組むと

「はぁ」と大きく溜息を吐いた。

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