第34話 第2階層の行き止まり
「じゃあ頑張ってねー!」
「アキミさんも! メインで活動している階層より低いからって、油断しないでくださいね!」
アキミがユートたちに手を振っている。アキミが調子を取り戻したことに、アオはひそかにほっとしていた。
「シュウさん。ごめんね。アオも。あたし、オミさんたちのパーティーを追い出されて落ち込んでた。ずいぶん心配をかけたみたいだね。気を使わせちゃったみたいで」
「謝るこたぁねえよ。誰だって落ち込むときはあるからな」
アキミはすっかりと調子を戻したようだった。屈託のない明るい笑顔にアオも安心してしまう。
「でもな。オミの奴が行ったことはお世辞でもなんでもないと思うぞ。俺が言うのもなんだけど、オミはアオのことを重視している。大体、新しい力を加えられる奴なんて注目しないわけがねえじゃねえか」
「それはそう・・・なんだけど」
上目づかいで見つめるアキミに、シュウは加えて語り掛けた。
「まあ、たぶん再会も遠いことじゃないだろう。多分だけど、新人が信頼できると分かったらオミはあいつらにオリジンを習得させるように言ってくる。その時に改めて今回のことを聞いたらいいさ」
「うん。そうする。てか、シュウさんはどうしてるの? この2ヵ月、第2階層の探索を進めているみたいだけど?」
アキミに問われてシュウは懐からスマホを取り出した。そこには塔の地図と進んだ階層に印がつけられるらしい。シュウ曰く、ゲームのオートマッピング機能のようだとのことで、スマホはやっぱり高性能だった。
「ま、俺たちの探索状況はこんな感じだな。慎重に進めたからな。あんまり攻略は進んでいないようだがよ」
「なるほどなるほど。こんな感じかぁ。しらみつぶしにこの階層を探索しているのね。えっと、この階層のボス部屋くらいなら案内できるけど?」
アキミが問うが、アオは慌てて首を振った。
「え? ここのMAPを全部埋めるの? なんかゲーマーってそういう人もいるよね。MAP全部埋めないと先に進まないっていうか。あたしはさっさとボスを倒すべきだと思うけどなぁ」
「やっぱ気になるじゃねえか。何が起こるかわからねえし。宝とかは取りつくされたかもだけど、行ってないなら行ってみるほうがいいだろ?」
シュウが主張するが、アキミは納得していない様子だった。
「まあ、このパーティーはあくまでシュウさんとアオのものだからね。やってみるといいんじゃない。えっと、MAPで埋まっていないのはあそこか。うん。じゃあそこまで行ってみようか」
「いや、もうお前のパーティでもあるけどな。まあいいか。とりあえず今回は、俺の言うとおり進んでほしい。俺たちに見つけらんなくても、アオが反応することもあるかもだしな」
シュウが言うと、アキミはあきれたように肩をすくめたのだった。
◆◆◆◆
「がおおおおおお!」
迫りくるゾンビの、最後の一体を殴り倒した。ダンジョンを進む中で何体もの魔物に襲われたが、いち早く察知してくれるアキミのおかげで先手先手で奇襲をかけることに成功している。
「ふう。何とかなったな。てかお前、マジですげえな。敵の存在にアオより早く気付くなんてな」
シュウがしきりに感心していた。アオも意外だった。アキミが加わるだけで塔の探索がこんなにスムーズになるとは思わなかった。
「これくらい普通じゃない? 戦闘ではあたしは全然貢献していないし」
「いやいや。結構先制の魔法を打ったりしてるじゃねえか。あれもオリジンだろう? 差が広がっているようでちょっと焦るぜ」
アキミは魔物の接近を教えてくれるだけでなく、魔法で先手を打ったりしてくれる。相手をしびれさせるだけだが、それで次の手を打ちやすくなることも多く、かなり重宝しているのだ。
「これはサナ姉の受け売りだけどね。アビリティやスキルで取得ポイントが低いものほどオリジンで再現しやすいんだって。あたしは自分の技を開発するほか、オリジンで雷撃を撃てるようにしている。やっぱり、あのイゾウさんが言うことは気になるからね」
「あの爺さんも偏屈だから言うことを真に受けるべきじゃないと思うがな。ま、でもいいんじゃね? 手札が増えるのは俺たちも歓迎すべきことだし」
アキミのオリジンと言うと、第1階層でゴブリンを引きずり出した技を思い浮かべるけど、それだけではないらしい。どうやら、魔物に先手を打つ雷撃も、オリジンで開発した技とのことだ。アキミから例の嫌な気配がしないと思ったらそういうことか。
「ってか、お前たちも結構オリジンを鍛えているんだな」
「まあね。オミさんがオリジンを鍛えるように言ってたんだ。アビリティよりスキルより優先しろって。なんかオミさん的にオリジンのほうが使い勝手がいいみたい。スキルだとどうしてもオートで動く感じになるから」
ぎょっとしてシュウを振り返った。心得たもので、シュウは説明してくれた。
「スキルを使った場合、体が勝手に動く感じなんだよ。例えば、俺は結構ナイフでゴブリンの首を切り裂くだろう? あれだってスキルを使えば体が首を斬るまでの動きをオートでやってくれるんだ。まあ心得がある奴はそれが気持ち悪いって言ってるみたいだけど、俺たち素人にはそうしてくれるほうが助かるって面もある。俺も本当は使いたくないんだけど、つい便利でな」
いたずらをとがめられたように下を向くシュウ。本人はスキルに頼りたくないようだが、ついつい使ってしまうようだ。
「それより、どうする? この先は行き止まりだけど、シュウさんのMAPは埋まっていないようだし。行ってみる?」
「お、そうだな。うーん。行ってみようか。なんかあるかもだし」
◆◆◆◆
アキミの言った通り通路の先は袋小路になっていた。
「はい。こんな感じ。ね? 行き止まりでしょう?」
「ああ。そうだな。でも俺のMAPは埋まったぜ?」
なぜか得意げに言うシュウに、アキミはあきれた顔をしていた。
道の先は袋小路になっていて、続く道はない。でも、何か違和感があって、アオは誘われるように通路の先まで進んでしまった。
「がう?」
「ん? どうした?」
洞窟の先を調べていたアオに、シュウが駆け寄ってきた。
だけど、その時だった。あたりが光に包まれだしたのだ。
「シュウさん! アオ!」
アキミの叫ぶ声を聞きながら、アオたちは強制転移される気配を感じたのだった。
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