第3話 戦闘

 ここで、冒頭に戻る。


 地震で気を失い目を覚ました俺は、戦闘用ロボット二体と、同僚で天才量子物理学者の黒井桜とともにゴーレムと対峙していた。


 黒井曰く、地震で衝突型加速器が暴走したために、この世界に転移したのかもしれないとのことだったが、いきなりゴーレムという魔物が襲いかかってくる状況に対面した俺は、成り行き上、戦うはめになってしまっていた。

 現状、戦えるのは俺のロボットだけで、周りには突然現れた俺たちを神様とあがめる人々だけだ。戦うしか選択肢の無い状況だったのだ。


 俺は遠隔操縦用コンソールユニットの椅子に座るとARグラスを被り、人型GRZ04と狼型GRR05を起動させた。

 起動した戦闘用OSが、GRZ04のカメラとARグラスのディズプレイを同調シンクロさせる。


 ディスプレイに「SYSTEM GRZ Ver.04 STANDING BY.」と表示され、一秒も経たないうち「COMPLETE.」の文字とともに、カメラ映像がクリアに映った。

 フイィィーンと冷却フィンの駆動音が甲高く鳴り、全身の回路に電気が走る。


 キ、キ、キ、チキ、チキ、チキ――

 グ、ガ、ガ、ガ、リュゥゥゥウウウウウ……。

 手足を軽く動かすと、関節部の油圧シリンダーと人工筋肉が伸縮し、駆動用の高出力モーターが滑らかに回転する。そして、胸の排気ダクトから冷却された空気を吹き出した。


「よし。行くぜっ!」

 俺は叫んだ。


 GRZ04が動くたび、チタン合金、高硬度カーボン、衝撃吸収特殊EVA、ケプラー繊維、特殊セラミックの五層で作られた真っ白な複合装甲が太陽に反射して光る。

 装甲板は見た目こそ薄かったが、通常の戦場での攻撃のほとんどは跳ね返す硬度を誇っている。


 考えてみれば初めての実戦で、対戦相手はゴーレムという魔物――。だが、装甲の防御力も、ロボットの攻撃力も全力で試せる相手だ。俺は気がつくと笑っていた。

 そもそも、俺がロボット工学者を目指したのは、幼い頃の再放送で見たロボットアニメの影響だ。


 天才科学者が主人公の孫のために残したスーパーロボット。毎回、悪の科学者が送り込むロボットと戦い、撃破する内容に一喜一憂した。

 そう。俺の子どもの頃の夢は、悪と戦う正義のロボットを作ることだったのだ。俺は今まさに子どもの頃に憧れた弱い者たちの味方、正義の味方なのだ。


 俺はGRZ04のマニュピレーターの手甲の部分からチタン合金製の高周波振動ナイフを飛び出させると、ゴーレムに向かって走った。切れ味を増すために高周波を発生する特殊ブレードだ。


 ゴーレムはGRZ04よりも一m以上、大きいが、その動きは鈍重だった。

 余裕で飛び上がると、ゴーレムの胸にナイフを突き刺す。

 ガギギッ、と耳障りな音を立て、ナイフの刃が滑る。


 馬鹿な。粘土じゃないのかっ? こっちはチタン合金製で、高周波を発生する特殊ブレードだぞ!?

 俺は首をひねり、距離を取った。


 間髪入れずに、GRR05がゴーレムの背後に回り込む。

 更に、アキレス腱の辺りに牙を突き立て、首を振る。

 こちらもナイフと同じく高周波ブレードを備える牙だ。だが、先ほどと同様に、いかほどもダメージを与えたようには思えない。


 ゴーレムが

「ヴォオオオオーーッ!!」

 と、吠え声を上げた。


 悩んでいる暇は無い。

 俺はゴーレムにギリギリ近づくと、再度飛び上がるフェイントを入れた。

 ゴーレムがつられて誰もいないところに向かって前のめりに拳を振る。

 素早くしゃがむと、地面すれすれを足払いする。


 ゴーレムが前のめりに倒れた。

 首筋と後頭部の境目辺りにナイフを突き込む。

 その瞬間、攻撃が当たった部分に薄い円状のバリアーのようなものが現れ、ナイフを弾くのが見えた。


 何だ、これは!?

 俺は戸惑いながら再び距離を取った。

 足下にGRR05がやって来る。

 どうしたものか考えていると、


「あれは魔法なのか……? まさか周りの者が言うように神様では無いのだろう?」

 傍らから突然、声をかけられた。

 ARグラスでGRZ04と視覚を同調シンクロさせている俺には見えなかったが、その声は可憐で、美しい女性を連想させた。

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