第19話 二つの時間軸(クロスオーバー)
I. 2025年大晦日:鬼小島健斗の孤独な探求
2025年12月31日、午後11時30分。
東京、文京区。歴史小説家、**鬼小島
「くそっ、九戸政実は不満で動いたのか、それとも正義で動いたのか…」
健斗の指が、資料の中の**天正十年(1582年)**の記述を辿る。
「晴政の跡は実子の晴継が継いだが、父の葬儀の終了後、三戸城に帰城する際に暗殺されてしまう…
後継者としては、九戸実親と、かつて晴政の養嗣子でもあった信直が候補に挙げられた…
結局は信愛、南長義らに推された信直が後継者に決定した…。政実としては弟を差し置いて、恩有る南部宗家を晴継暗殺の容疑者である信直が継いだことに大きな不満を抱き、自領へと帰還する」
健斗は、額を押さえた。
「信直が継いだのは、北信愛の調略か。政実は、弟の実親を擁立できなかったことへの屈辱だ。ここに、**『最強の武将』としてのプライドが、『逆賊』**への道を歩ませる」
健斗は、九戸政実の情念こそが、後に豊臣秀吉の6万の大軍を奥州に引き込む原因となったと見抜いていた。
彼は、ふと、自身の小説の構想に登場する**「超人的な力を持つ岩手出身の用心棒」**、武蔵坊 猛のキャラクター設定を思い浮かべた。
(政実のような火種に、猛のような火薬庫が加わったら、歴史はどう動く?)
健斗は、自身の創造した架空の人物が、現実の歴史の隙間に奇妙に嵌まり込む感覚に、ぞくりとした。年越しの鐘の音が、遠くから聞こえ始めた。
II. 1582年・九戸城下:虎と拳の野心
天正十年(1582年)夏。
南部晴政が病死し、実子・晴継が暗殺された直後の混乱期。九戸城は、南部宗家への不満と、家督争いの渦中にある熱気に包まれていた。
九戸 政実は、弟の実親を差し置いて、南部信直が当主となった評定の結果に、激しい怒りを覚えていた。
「信直めが! 晴継暗殺の疑いがあるにも関わらず、北信愛の手のひらで宗家を継ぎおったか!」
政実の目の前には、岩手出身の用心棒、武蔵坊 猛が立っていた。猛は、甲冑を嫌い、分厚いTシャツ姿で、城下の野戦場から戻ったばかりだった。彼の肉体には、かすり傷一つない。
「親分(政実)、また小競り合いで勝ってきました。三戸の連中は、カスみてぇな奴らばかりだ」
猛は、荒々しい岩手訛りで言った。
「猛よ、信直の兵を打ち倒すのは、もはや遊びだ。わしらが相手にするのは、南部の宗家そのものだ」 政実の瞳は、燃えるような野心に満ちていた。
政実は、猛の無尽蔵の体力と超回復力を、この家督争いに投入することを決意していた。神崎亮平の**「温存せよ」**という忠告は、すでに政実の耳には届かない。
「わしは、南部宗家と同列の九戸氏の棟梁だ。信直なんぞに、奥州の未来を任せてはおけぬ。わしこそが、南部家当主にふさわしい!」
政実は、自らの武将としての器量と、猛という最強の切り札を手に、信直との本格的な対決を決意した。
「猛よ、聞いておけ。わしは、信直を討つ。そして、弟の実親を当主とし、わしが奥州を差配する。貴様には、わしが天下に覇を唱えるための牙となってもらうぞ!」
武蔵坊猛は、その拳を強く握りしめた。
「ヘッ。 一番熱い喧嘩をさせてくれるんなら、誰でもいい。親分のために、信直の首を取ってきます」
九戸政実の憤怒と野心、そして武蔵坊猛の暴力的な闘争本能が結びつき、**奥州を揺るがす「九戸政実の乱」**への道筋が、この瞬間、決定付けられた。
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