スズキ

「サトウさん、そこからは私が説明しましょう」

 私は壇上から探偵たちを見下ろして言いました。

「もう、大丈夫なんですか?」

 汗びっしりのサトウの言葉に、私は短く頷きます。

 十二月三十一日、最後の餌がレオナルドの元へ向かい、施設の扉が開かれて初めて、私は自分が生き残ったことを理解しました。恐怖と混乱によりこれまでの記憶の仔細を思い出すことは困難でしたが、キャバ嬢探偵の推理が間違っていることだけは分かりました。

「申し遅れました。私は去年の一月一日から昨日十二月三十一日までレオナルドの居住施設で生活していました、スズキと申します」

 室内が一斉にざわつきます。私は続けます。

「先ほどのキャバ嬢探偵さんの推理ですが、あり得ないと断言できます。居住施設には最初は多くの人間がいますが、一日に一名ずつ、人間が減っていきます。一月に着床したとして出産時期となる十月ともなると残った人間は九十名から六十名ほど。女性だけに限定すればその半数ほどです。その時期になるとその全員が顔見知りであり、その中に妊娠出産を経験した人がいないことは断言できます」

 キャバ嬢探偵が連れていかれるのを見送り、私は心を痛めます。しかし、私に政府の決定を覆す力はありません。私が推理を否定しなくとも、いずれ彼女はレオナルドの居住施設に送られていったことでしょう。

「ちょっといいか」

 粗雑な雰囲気の中年の探偵が手をあげ、サトウが先を促します。

「残り時間はあと一時間だ。このまま適当に答えを挙げていくよりも、そこのスズキさんにレオナルドの居住施設でどんな風に人間が食われるのか、そしてどうやって一人だけ生き延びたのかを語ってもらった方が正解する確率が高くなりそうだがどうだろう」

「ああ」「異論ない」「仕方なかろう」そのような声が上がるので、私はあくまで簡潔に、知っていることを説明することにしました。

「私たちは一月一日にまとめてレオナルドの居住施設に運ばれます。私が選ばれた理由は、よく分かりません。ある日封筒が届いて、その日の夜には私は拘束されバスで例の施設に連行されたからです。正確には、施設の横の検査所で健康状態その他もろもろの検査を受けた後で、になりますが。

 居住施設は人間の居住スペースとレオナルドの居住スペースに分けられていて、人間の居住スペースに入った私たちはまずくじを引かされます。進行役は政府関係者でした。内部での生活が滞りなく進むように、餌のうち一人に政府関係者を入れることが慣例となっているそうです。

 一月一日から十二月三十一日までの日付が書かれた三百六十五種類のくじがあり、運の良い私は十二月三十一日のくじを引きました。もうお分かりですよね。これは私たちがレオナルドの居住スペースへ行き、食べられる日付を決めるくじです。運の悪いことに政府関係者はその日の夜に餌となってしましました。

 一日ごとに人間の数が減っていく生活にも慣れ、少しずつ自分の順番を意識し始めていた九月九日、異変が起こりました。九月九日に食べられる予定だった女の子が、レオナルドの居住スペースに行ってから無傷で戻って来たのです。詳しく聞けば、レオナルドから“今日の分の人間はもう先に食べたから戻るよう”言われたそうです。

 私たちは混乱しましたが、話し合いの結果、九月九日を飛ばして、生き延びた女の子を九月十日にレオナルドの居住スペースに送りました。九月十日にレオナルドのもとへ行った九月九日の女の子は戻ってきませんでした。

 そして十二月三十一日の夜、十二月三十日のお爺さんがレオナルドの元に行き、戻ってきませんでした。そうして私は施設を生きて出ることができました。三百六十五日分の食料として三百六十五名の人間が送られたにも関わらず、なぜか私はひとり余ったのです」

 私の言葉が終わると同時に、小さな手がひとつあがりました。

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