氷使いの日常

おおかみ裕紀

コノート村編

プロローグ

 

 まだ残暑の厳しい9月。夏休みも終わり、世間では重そうなかばんを抱えて登校する学生や社会人が目立つようになった。

 往来する人々の顔は疲労に染まっており、休みボケをしているのだとすぐにわかる。

 そんな忙しいを表すような外とはうって変わり、静かなファミレスでのこと。

 特に意味もなく、カズユキは窓の外を眺めていた。


「なに、窓なんか眺めて黄昏れてるんだい、カズユキくん。」


 俺は、ジュースをテーブルに置きながら、少しからかうように笑った。


 お互いが集まって話すのは珍しくなかった。なんたって、俺等は幼なじみだったから。

 高校は同じ、大学は別のところに進学したが、定期的に会って遊ぶのはいつものことだった。

 

 この日も、突然カズユキからメッセージが来たかと思えば、相談したいという文言が来ていた。

 俺は大学でやっていたライフル射撃部の活動を休んで、わざわざ話を聞きに来てやったというわけだ。


「で、何があったんだよ、相談って。」


「…ちょっと耳を貸してくれ。」



 カズユキは周りに聞こえないよう耳打ちした。

 俺は耳を貸すと、その内容に目を丸くして、耳元で聞くには大きい相づちを返してしまった。


「バカ、声が大きいって!!」


「あ、ああ。ごめん。予想外の内容だったからつい。...にしても本当なのか?あの子に...告られたって。」



 あの子っていうのは、カズユキの小さい頃からの幼なじみのことだ。お互いが徒歩数分の家に住んでいた影響で、小学生の頃から家族ぐるみで仲良くしていた。

 その幼なじみに告白されたらしい。


 はたから見れば、両片思いって感じで、恋愛に縁のない俺でもわかるくらいお互いが意識してたし、やっとか…という感想だった。

 別に興味が湧いてくるわけでもなかったので、はいはいと聞き流していたら、熱が入ったのかポエムじみた語りを始めてきた。

 


 

「大学は別になったから高校以来か、2年ぶりくらいに出かけた、昨日の話なんだけどさ。」


「高校の時みたいにゲーセンやらショッピングモールやら行くのかと思ったら、夏の終わりなのに一緒に海へ行こうって誘われて。正直、インドア派の奴だったから、俺驚いたんだよ。」


「まあ、でも名残惜しいのかなと思ったからさ。初心者マークも取れてない車で海に行って、夏休みみたいにキャッキャして、でも水着はこの時期に買うのはもったいないからって、ちょっと浜辺に行ったあとは、海の家でほとんど過ごしてたけど。」


「ショックなことがあってさ、前みたいにラーメンからの焼きそば、最後にカレーライスってわんぱく学生リレーができなくなってて…前はもっと食べられてたのに。」


「んで、食べ終わってもうすぐ夕方って頃に、もう1回砂浜のほうに行こうって誘われたから行った。そしたら、いきなり砂浜に座り込んだから体調でも悪いのかって聞いたら、今度は私と海どっちがキレイに見えると思う…なんて、海を眺めながら突拍子もないことを言ってきたんだよ。」

 

「そんな質問するようなタイプじゃないよな…ってちょっと不安だったんだけどさ」


「まあ深い意味はないかって、なんとなく返したんだ。お前のほうがキレイなんじゃないのって。」

 

「そしたらいきなり立ち上がって、沈みかけた夕日を味方につけて、彼のほうを真剣な目で見つめて何か言おうとした。その瞬間、口が開くと同時に波の音でかき消されて、声が聞こえなかった。」


「でも波は聞こえなくとも、何を言われたのかは口でわかった。で、返事はまた聞かせてって、そそくさと車じゃなくバスで帰っていってさ………」





「…ああ、ごめん。あまりにもポエムじみてたからほぼ聞いてなかった。」


「ひどくないか?」


 何だよまじで。

 沈みかけた夕日を味方につけてって。こいつ絶対ここ来る前に台本かなんか考えてきただろ。

 なんとも思わなかったけどイライラしてきたな。というか、こいつ青春めっちゃしてるじゃん。羨ましいな。


 グラスの氷をポリポリ噛みながら、俺は呆れたようにため息をついて返した。



「言いたいことはわかったよ。答えに困ってるってことだろ?」


 俺の言う通り、図星なようだ。カズユキは返答に困っていた。

 彼女のことが好きじゃないから渋っているわけではないってのは確かだ。


 むしろ、距離が近かったからこそ、お互いがそんな年齢になっていることに気が付かず、数年前にカズユキの意識が取り残されていただけっていう感じだろう。

 だから、そういう関係になるってことに抵抗がある、って感じかな。

 恋愛系のマンガでの受け売りに過ぎないけど。



「俺は2人、お似合いだと思うよ、多分」


 こいつは、関係が変わることに怯えているんじゃないかと思う。

 実際、ケンカはしたことがあっても、嫌いだとか友達をやめたいとこぼしていたことはない。

 文句があればすぐ口に出すカズユキのことだ、悪口は本心だろうけど、不満たらたらでも嫌いになれない存在だったんだろう。


 異性との距離感じゃないっていうのは、よく周りからも言われていた。

 なんか、男女間の友情は成立しない!って理論を唱えた人がいるけど、反例になりそうなくらいには友達って感じだった。


 友達以上の関係になることが想像できずにいる。これより先に行って、もし関係がこじれたら…今の関係が一番安全なんじゃないか、そう思っていることだろう。

 色々質疑していると、この予想がおおむね図星だって言うことがよくわかった。


 

「…ああもう、贅沢なことで悩んでるね君は。とっとと会いに行けばいいのに。」


「だってさあ…」


「ま、相手だって1日や2日で答えが返ってくるとは思ってないと思うけどね。」


 グラスの中の小さな氷を、1つだけ口に含む。

 俺は、情けなく悩むカズユキに、アドバイスしてやった。



「…ささやかな俺からのアドバイス。お前が悩んでるってことは、相手もそれ以上に悩んで、勇気を出した結果だっていうことは…頭に入れておいたほうがいいと思うよ。」


 こんな感じか、あんまり恋愛相談の答えとしては…いや、そもそもまともに恋愛どころか女子との接点がなかった俺が、こんなアドバイスをしていいのだろうか。

 流石にカッコつけすぎたかと思った瞬間、カズユキははっとしたように顔を上げると、立ち上がった。


「やっとわかった…ありがとう!」



 憑き物が落ちたように元気になったカズユキを見て、俺はちょっと驚いたものの、無言で目配りをしてやった。返答は固い握手だ。

 しかしまあ、なんて単純なヤツだろう。



「あ、ジュース飲み切っちゃった。」

 

「俺がついでくるよ。話聞いてくれたお返しでね。」

 

「ずいぶん安いお礼だな。ご飯代くらい奢ってくれよー」



 カズユキが席を離れた、そのときだった。


 

 店の入り口のほうで誰かが騒いでいるようで、店員さんらしき人の声が、入口から離れたこの席まで聞こえていた。

 言葉にならないような叫び声が聞こえたかと思うと、その音の方向にはフードを被った謎の人物がいた。

 うっすらと見える目は焦点があっておらず、歯を食いしばりすぎて口から血が垂れてきてしまっていた。

 

 うわ、明らかにやばいやつじゃん。

 絶対目合わせないでおこ。


 ふと手元を見ると、最悪なことに。

 あの男は包丁を血管が浮き出るほどの力で握りしめていた。

 

 刃物を持っていたことで、周りはパニックになり、みんなが我先にと逃げていく。

 するとフードのやつは、あたりをキョロキョロと見回し、俺を目で捉えるように向いた。


「お前が…お前さえいなければぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 その瞬間、俺狙いの動きで包丁を向けて走ってくる。

 まずい、これは本当にまずい。

 いったいなんで俺を狙ってる?

 どこかで粗相をした?


 いや、そんな恨みを買うことはしていないはず。

 そんな交友関係は存在しない。


 じゃあいったいなんで。

 くそ、考えている余裕もない。

 とにかく、逃げないと。


「へぶっ!?」


 急いで逃げようとすると、テーブルに足を引っ掛けて転んでしまった。

 顔面から倒れたから、鼻に激痛が走る。

 やばい、足が動かない。

 すぐに立ち上がっても間に合わない。

 死ぬ。



 なんとか体勢を立て直すも、スペースがなく避けられない。

 俺はヤツと組み合うも、虚しく何度も刺された。

 意外と痛みは感じなかった。アドレナリン的なやつかな。


 そう落ち着いていると、俺はしだいに視界が薄れてきた。




 感覚が飛ぶように、意識が沈むように落ちていった。

 最後、カズユキに呼ばれた気がする…そこで意識は飛んだ。



 







「…長い前置きご苦労さまです。いえ、そちらの言葉では、ご愁傷様、でしょうか。

 私の名前は──いえ、これはいいでしょう。」

 

 そう声をかけるのは、白のドレスに身を包んだ、まだ幼そうな少女だった。

 頭の上に金色の輪っかをかけており、いわゆる天使的な存在だと思う。

 背中には人を1人包み込めるほどの大きな羽が生えており、いかにもファンタジー。

 

 ふと自分の手を見ると、薄れているような感覚を覚えた。


 あれだけ刺されたわけで、予想通り俺は死んでしまったらしい。

 意外にも、その事実を受け入れられない、というような感じではなかった。

 まあ、そうはいっても。

 正直、俺だって御年20歳でこんな終わり方になるとは思っていなかった。まだ親も元気だし、いろいろな人に恩返しできなかった。あまりにも、悔しい。


 

 でも、俺が死んでしまったのは事実。まあ、まさかこんなラノベみたいに天使様と面会するとは思っていなかったけど。


「…じゃあ、ちょっと失礼しますね。」

 

 天使様は近づいて俺の胸あたりに手を当ててきた。ぱっと光が出たかと思えば、瞬く間にそこから辞書くらい分厚く、付箋だらけの本が生まれてきた。


 驚く俺を横目に、天使様は取り出した謎の分厚い本をぱらぱらとめくり始めた。


「名前は鈴本唯月くん…20歳の大学2年生。学生時代は帰宅部で、大学ではライフル射撃部…に所属するも馴染めずぼっち…性癖は…」


「ちょどこまで読んでるんですか!?」


 どうやらこの分厚い本は、俺の人生の出来事が書き記された辞典のようなものらしい。

 細かいプロフィールから、ちょっとした癖や友人関係など、人生の端から端まで書かれているようだ。天使様は、本の最後のページあたりを眺めた後、また話をつづけた。



「亡くなる前にも会っていた、カズユキさんとはとても仲が良かったんですね。」



「まあ…そうですね。」



「ふふ…それに、生きていればあなたも、良い女性とお付き合いできたかもしれません。

 ですが、あなたは残念なことに命を落としてしまった。

 大学を卒業すれば、また新しい世界が、そして新しい経験ができたはず。」

 一筋の幸せも、掴めた可能性があった。

 …しかし、あなたはいろんなものを残してここに来てしまった。」




 何か、諭すような口ぶりで話していた。

 心の内を見透かされているかのように、天使様は言葉を連ね続ける。



「しかし、人生というのはほとんど決まっているもの…なんです。」


「酷なことを言うなら、この世に存在する全ては神様のシナリオに過ぎません。イツキさんが亡くなることも。構想通りに事が進んだにすぎない、神様の創作…つまり、歴史というストーリーの1ピースなんです。」



 そうつぶやいた天使様は、一呼吸すると少し眉を落とした。


「…ですが、ちょっと残念な最後ですよね。何も悪いこともしていないのに、とばっちりを受けて全て奪われてしまったなんて。…なので、イツキさんにこんな話をしてみます。」 



 そう話しだしたのは、ある世界についてのこと。

 いわば別世界、その世界のお話だった。



「創造神カリタより創られた地。

 幾多の生命が芽をつけ、咲かせ、その大地に深く根ざしてきた。

 次第にその生命は進化し、多種多様な種族として自らの縄張りを得た。

 決して、その間に争いや嫌悪はなく、ただお互いに生きよう───それが創造神のためであり、健やかに生きることこそが生命への感謝なのだと。

 

 …しかし、多様な種族を持つ世界には、切っても切り離せぬが存在する。

 迫害や差別を受けた種族は、世界の端に追いやられ、または命を奪われてしまう。

 その積み重なりは、強い憎しみを生んだ。

 同時に現れし、混沌の存在…魔王という存在。


 彼らはただの市民を壊し、非情な争いを生み、種族間にさらに強い嫌悪感を芽生えさせた。

 作られた深い溝は、彼らを離すには十分で…魔王は、更には哀れな生命へ慈愛と評し悪魔の力を強制的に与えた。

 やがて魔王軍と呼ばれるほどに増大した悪の力は、主に人族との戦争を開始。

 第1次魔族戦争と呼ばれたその大戦争は、不幸中の幸いか、魔王軍の撤退により人間側の勝利で終わります。


 しかしそのまま終わることはなく…現在でも、人族を中心とした種族と、魔王軍は小競り合いをして争いを続けています。

 …これが、ある世界のお話です。」


 不思議な話だった。

 バックストーリーをしっかり書いているライトノベルのようで、その世界観に少しだけ感心する。

 しかし、なぜ死んだ俺に天使様はそんな話を…。

 

 

「…なんて、そんな顔をしていますね。

 本題からお話してもよいのですが…別世界のあなたには、少し酷なお話かもしれません」


「イレギュラーだらけで何が来てもって感じですけどね…」


「…イレギュラー、ですか。

 まあ、死後の世界で、こんな変な格好の女と話しているっていう状況が、そもそもありえないことですしね。」


 天使様はふうっと一息つくと、決意したように言葉を紡いだ。



「端的に言いましょう。

 このお話にある世界を、あなたに救ってほしいのです。」


「すいません、今なんて言いましたか」


「あなたの力を貸してほしいのです」


「俺、ただの大学生ですよ。

 そのあなたの言う世界…は魔法やら剣術やら、多分そういうのがあるんですよね?」


「だって、私の意識に干渉してきたのが、あなただったので。」


 な、何を言っているんだこの天使様は。

 なんの力もない、ただの俺に世界を救ってほしいと。

 英雄召喚ですか、転生したら最強だった件ですか、俺だけのギフトでもあるんですか。


「そんなのありませんよ。

 私、天使族ですけど、あるのはこの瞳だけです。」


 とうとう思考を読まれ出した。

 ああもうめちゃくちゃだ。


 …待って、一旦落ち着こう。

 俺に求められているのは、世界を救うこと…いやわかるかー。



「まず…意識に干渉してきたってなんですか」


「天使族はそれぞれ固有の瞳を持っているんです。

 私の瞳は『未来予知』。

 未来の行く末は、魔王軍に全大陸を掌握され最悪の結末を迎えるわけです」


「未来予知なら、なんで死後の世界にいる俺と話しているんです?」


「む、察しが良いですね。

 未来予知の瞳は、ただ行く末を見守るための力にありません。

 その未来を変えるための、変因子を捉える力もあるのです。」


 いやわかるかー。パート2。

 変因子とは、なんですか。


「いわゆる、あなたのいう素質とほぼ同義です」


「つまり、俺には何らかの素質があるということですか?」


「そうなります。

 といっても、私の瞳では素質の有無しか捉えられません」


「不便じゃないですか?」


 そういうと、明らかな舌打ちが聞こえた。

 どうやら地雷だったらしい。

 

 

「ああもう、だから別世界の人間は苦手なんです。

 良いですか、あなたは私の意識に干渉してきた、要はなんか世界を救う力があるってことなんです!」


 「唐突な説明放棄!」


 

 事前知識のなさのせいか理解が進まない。

 とりあえず、いったん整理しないと。

 まず、俺は天使様の瞳に映った。

 これすなわち、未来を変える力があるということ。


 その世界は魔王っていうファンタジーじみた存在がいて、それをなんとかできるのが俺ってこと。

 …これってまさか。


「勇者ってこと…?」


「そうですそうです!!」


 待って待って待って。

 嘘でしょ、俺勇者?

 何の力もないのに…?


「ちょっと待ってくださいよ。

 ある程度理解はできましたけど、理解できませんよ!?

 こういうのって、なんか強い能力があるからこそ成り立つ交渉じゃないんですか!?」

 

「魔法なんて、あっちで特訓すればいいじゃないですか。

 剣術はまあ…なんとかなります。」


 

 ノーチートで頑張れってことか。

 ただこれは聞いた限り、オープンワールドだとか、MMOのような自由度の高い世界。

 第二の現実って考えると、新しい世界でレベル1から、しかもラスボス討伐なんてどんなご褒美があってもやりたくない。

 

 はっきり言って、非現実的なことばかり言われて頭が回っていない。

 あっちだって、その隙を突いて俺に無理難題をさせようとしているのかもしれない。


 だって、今の話の中で俺に何のメリットがあったよ。

 成功したら生き返るとかならまだしも、話の感じ的にそういうわけでもなさそうだし。

 こういうのって憧れていたから、実際対面したらワクワクするのかなとか思ってたけど、意外とそんなことないし。


 てか、そもそも俺が魔王と戦うまでの力をつけられるのか。

 チート能力とか、そういうのあるならまだしも。マジで努力のみ、だったら絶対無理だよ。

 昔から異世界の価値観で生きてたら相応の力も付くだろうけど、現代の温室育ちな人間からしたら適応できる気がしない。


 まあ、そんな不安を跳ね除けられるメンタルを持って行け、ってことなのかもしれないけどさ。

 …多分これ、断ったらだめなやつだよナ。

 それに、天国か地獄かはわからないけど、美味しいご飯は食べたいし…。

 まあいいか、最後に人助けってことで。

 よく受け入れられるな、俺。

 まあ、実質それ以外ないから、でもあるけどさ。



「…やります。正直、いろいろ言われて頭は追いついてないですけど…」



「…読んだ通りです。とっても、優しい人ですね。それでは、交渉成立ということで。」


 

 そういうと、天使様はこちらに近づいてしゃがむように促した。

 腰を下げると、天使様は俺の頭に手をのせて何か呪文のようなものを唱え始めた。



 すると体の軽くなる感覚と同時に、足元に魔法陣のようなものが描かれ始めた。

 本当に、行くんだな。

 ほおつねっても、夢じゃないみたいだし。


 腹をくくるしかない。

 どんな世界だろう。


 ゲームに描いたような西洋風な感じか、それとも現代的な風景か。

 さっきまで悩んでいた割には、いざ行くとなると、遠足の前日みたいな感覚だ。


 ん、あ、そうだ。

 せっかくだしひとつ聞いておこう。


「そうだ、ひとつ聞いてもいいですか?」


「おや、なんでしょう?」


「俺がなんで死んだのかって、わかるもんなんですか?」


「刺された理由の話ですか?

 一応、わかりますよ」


 おお、そういうのもわかるんだ。

 今聞いても、仕方ないけど。


「端的に言えば、人違いです」


「なるほど」



 ん?


「人違い?」


「はい、本来ここにはあなたのお友達が来るはずだったんですよ。

 あなたを殺した人は、カズユキさんが好いていた女性の元カレです。

 それ以上は把握できませんけど、まあ、十中八九逆恨みでしょうね」


「てことは、偶然に偶然が重なって間違えて殺されたと?」


「そういうことになります」


「はあーーーーー!?」



 聞くんじゃなかった!

 人違いって、1番胸糞悪いやつじゃん!


「素質とかの話は!?

 それだと成り立たなくないですか!?」


「まあ、それも運命ですよ」


「運命って、ちょ、それで済む話ですか!?

 俺の人生終わっ」


 文句を言おうとした瞬間、少しずつ意識が遠のく感じがした。

 深い眠りにつくように、薄れていく。

 あ、タイミングわるっ──。


 


 「それでは…あなたに幸福があらんことを…。」

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