『俺達のグレートなキャンプ190 冬の天体観測ついでにUFO見つけるか』
海山純平
第1話
俺達のグレートなキャンプ190 冬の天体観測ついでにUFO見つけるか
「いやー!最高だなぁ!冬キャンプ!」
石川が大きく両手を広げて深呼吸する。吐いた息が真っ白に染まり、まるで龍が咆哮するかのように夜空へと昇っていく。頭上には満天の星空。地上には焚き火の暖かなオレンジ色の光。その中間地点で石川の笑顔だけが異様なまでに輝いている。目がギラギラしている。完全にハイテンションモードだ。
「寒いけどね!めちゃくちゃ寒いけどね!指の感覚が既にないけどね!」
千葉が焚き火の前でダウンジャケットの襟を限界まで立てながら、それでも満面の笑みで頷く。鼻の頭が真っ赤だ。手袋をした手をシャカシャカとこすり合わせる音が夜の静寂に響く。足踏みをする姿はまるでペンギンのようだ。
「あのさ、石川。本っ当に大丈夫なの?今回の企画。いつにも増しておかしいんだけど」
富山がホットコーヒーの入ったマグカップを両手でギュッと包み込みながら、不安たっぷりの表情で石川を見上げる。眉間の皺が深い。焚き火の光が彼女の心配そうな顔を照らし出し、その不安を際立たせている。
「大丈夫も何も!もう準備万端だろ!見てみろよ、この完璧な装備を!」
石川が誇らしげに、自分のテントの前に綺麗に並べた機材を両手で示す。天体望遠鏡が三脚にしっかりと固定され、その横には業務用サイズの大型双眼鏡、そしてなぜか軍用っぽい暗視ゴーグル、さらには手持ちサイズの電波探知機らしきもの。極めつけは「UFO目撃情報マップ 完全保存版」と手書きされた巨大な紙が地面に広げられている。マップには色とりどりのマーカーで書き込みがびっしりだ。
「いや、だからさぁ!その装備がおかしいって言ってるの!天体観測はまだ分かるよ!でも暗視ゴーグルって何!?電波探知機って何!?っていうか、そのマップ、どう見ても手作りじゃない!何時間かけたの!?」
富山の声のトーンが一段も二段も上がる。マグカップを持つ手にグッと力が入り、コーヒーが危険なほど揺れる。
「ふっふっふっふっふ。富山よぉ、分かってないなぁ。今回のキャンプのテーマは『冬の天体観測ついでにUFO見つける』だぞ?天体観測だけじゃ物足りないだろぉ?グレートじゃないだろぉ?」
石川が胸を張る。その自信に満ちた表情には一片の疑いもない。
「いや、十分だから!普通に天体観測するだけで十分楽しいし十分グレートだから!」
「富山さん、まあまあ落ち着いて。石川さんの企画、いつも最初は『えぇ?』って思うけど、やってみると意外と、いや、かなり面白いじゃないですか」
千葉が両手を上下に動かしながら仲裁に入る。その目はキラッキラと輝いており、既に石川のテンションに完全に、完璧に同調している様子だ。瞳孔が開いている。
「千葉、あんた完全に石川に洗脳されてるわよ。もう手遅れよ」
「洗脳って!ひどいなぁ富山さん!これは『グレートなキャンプ精神』っていうんです!崇高な精神なんです!」
「グレートなキャンプ精神って何よ...そんな精神、初めて聞いたわ...」
富山が深いため息をつく。その息も真っ白に染まる。もう何度目のため息か分からない。
「よーし!じゃあ早速作戦会議だぁ!みんな集合ー!」
石川が地面に広げた「UFO目撃情報マップ 完全保存版」の前にビシッと正座する。背筋がピンと伸びている。千葉もサッと隣に正座。同じく背筋がピンだ。富山は渋々ながらも、諦めたような顔で二人の向かい側に膝をガクッと崩して座る。
「まずぅ、見てくれ、この渾身の地図を。俺が過去三ヶ月分のネット情報を徹夜で収集した、この県内でのUFO目撃情報を完璧にまとめ上げたマスターピースだ」
石川が地図を指さす手が震えている。興奮で震えているのか、寒さで震えているのか、判別できない。
「三ヶ月も準備してたの...他にやることなかったの...」
富山が呆れたような声を絞り出す。
「あったよ!仕事とか!でもこっちの方が大事だろ!?」
「大事じゃないわよ!」
「そう!そしてこの赤い丸が目撃多発地帯!青い三角が単発目撃地点!緑の四角が俺たちの今いるこのキャンプ場!黄色い星マークが特に怪しいポイント!ピンクのハートマークは俺の直感で追加したスペシャルポイントだ!」
地図には確かに色とりどりのマークがギッシリと書き込まれている。明らかに膨大な時間をかけた力作だ。几帳面に色分けされている。
「石川さん、これマジで凄いですね!赤い丸がこんなに!黄色い星も!ピンクのハートも!」
千葉が地図に顔を近づけて、目をキラキラさせながら興奮する。
「だろぉ!?特にこの山の稜線沿いに目撃が集中してるんだ。不思議だろ?で、このキャンプ場はその真下!ド真下!」
「つまり...」
「つまりぃ!俺たちは今、UFO目撃最適地、いやUFO降臨確率MAXスポットにいるってわけだぁ!」
石川が両手をバッと広げて勢いよく立ち上がる。その背後で焚き火がパチパチと派手に音を立て、まるで石川の興奮を表現するかのように火の粉が舞い上がる。
「待って待って。そもそもその目撃情報って本当に本当なの?信憑性は?裏取りは?」
富山が冷静極まりないツッコミを入れる。
「もっちろん!ネットに書いてあったんだから!ネットは嘘つかない!」
「それ一番信用できないやつじゃない!ネットなんて嘘だらけよ!」
「大丈夫大丈夫!俺が三ヶ月かけて精査したから!明らかにネタっぽいのは除外したし!明らかに酔っ払いの戯言っぽいのも除外したし!」
「その精査基準も怪しすぎるんだけど...っていうか、あんたの直感で追加したハートマークって何よ」
「俺のUFOレーダーがビンビン反応したポイントだよ!」
「そんなレーダー持ってないでしょあんた!」
「心の中にあるんだよ!」
「意味わかんない!」
富山が頭を抱える。その瞬間だった。
「おーい、そこの皆さーん!何やってるんですかー?楽しそうですねぇ!」
突然、隣のサイトから陽気な声がかかった。三人がハッと振り向くと、初老の男性が焚き火の明かりに照らされながらニコニコしながら近づいてくる。ニット帽を深く被り、分厚いフリースジャケットをモコモコと着込んだ、いかにもベテランキャンパーという風貌だ。手には缶ビールを持っている。
「あ、こんばんは!天体観測の準備してるんです!すごいでしょう!」
石川が満面の笑みでビシッと敬礼する。
「おおお、天体観測!いいですねぇ。今日は新月に近いから星がバッチリよく見えますよ。最高の条件ですわ」
「そうなんです!それでですね、天体観測するついでに、UFOも探そうかなぁって思いまして!」
石川がサラッと言う。千葉がニヤニヤしながら頷く。
「UFO!?」
男性の目がビックリして丸くなる。ビール缶を持つ手が止まる。富山が「あー、やっぱり言っちゃった」という顔でガクッと頭を抱える。
「はいはい!このあたり、目撃情報がめちゃくちゃ多いらしいんですよぉ!この完璧な地図を見てください!三ヶ月の結晶です!」
石川が嬉々として地図をバッと広げて見せる。男性は興味深そうに地図をジーッと覗き込む。
「へぇぇぇー、これは面白い!丁寧に作られてますねぇ。実は私もねぇ、昔、変な光を見たことがあってね」
「えええっ!?マジですかぁ!?」
石川のテンションが一気にMAXまで跳ね上がる。声が裏返る。千葉もバッと身を乗り出す。
「ああ、もう二十年くらい前かな。あの山でキャンプしてた時にね、オレンジ色の光が不規則にグニャグニャ動いてたんだ。気持ち悪い動きでねぇ」
「それって流れ星じゃなくて!?ただの流れ星でしょ!?」
富山が食い気味に、まるで食らいつくように聞く。
「いやいや、流れ星はシューッと一直線に流れるでしょ?あれは上下左右にグニャグニャジグザグしててね。しかも五分、いや十分くらい見えてたかな。最後はスーッと山の向こうに消えてった」
「うおおおおお!これは期待できる!超期待できる!ねぇねぇ、一緒にUFO探しませんか!?一緒に探しましょうよ!」
石川が男性の両手をガシッと掴む。男性がビックリする。
「いいねぇ!面白そうだ!ちょっと妻を呼んでくるよ!妻も宇宙好きなんだ!」
男性が嬉しそうに、小走りで自分のサイトへと戻っていく。その後ろ姿が楽しそうに揺れている。富山が石川をジトーッと睨む。
「ほぉら、また人を巻き込んで。また被害者が増えた」
「被害者って!ひどい言い方だなぁ!あの人めちゃくちゃ楽しそうだったじゃないか!目がキラキラしてたぞ!」
「それはあんたの目がおかしいのよ」
「富山さん、でもあのおじさん、本当にめちゃくちゃ楽しそうでしたよ?小走りでしたよ小走り」
千葉がニコニコしながらフォローする。その顔には既に「これは絶対盛り上がるぞ」という確信的な期待の色が浮かんでいる。
数分後、隣のサイトから初老の夫婦が揃って、息を弾ませながらやってきた。妻の方も興味津々といった表情で目を輝かせている。手には魔法瓶とマグカップを大事そうに持っている。
「あらあら、楽しそうなことしてるじゃないの。UFO探しですって?ワクワクするわねぇ」
「でしょでしょう!?どうぞどうぞ、焚き火囲んでください!遠慮しないで!」
石川が予備の折りたたみ椅子をサッサッと追加で出す。気づけば焚き火を囲む人数が五人に増えている。輪が広がった。
「じゃあ改めて作戦会議を開始します!みなさん、注目!まず、UFOを見つけるための重要ポイントは三つ!」
石川がビシッと指を三本立てる。表情が真剣だ。
「一つ、空を広く、とにかく広く見渡すこと!二つ、不規則な動きをする光を絶対に見逃さないこと!三つ、諦めないこと!絶対に諦めない強い心!」
「最後のは完全に根性論じゃない。精神論じゃない」
富山がすかさずツッコむ。
「根性は大事だよ。UFOハンティングに限らず、人生すべてにおいてね」
隣のご主人が妙に真面目な顔で、腕を組みながらコクリと頷く。妻も「その通りよ」と力強く同意している。
「ほぉら、富山!賛同者がいるぞぉ!理解者がいるんだよ!」
「いや、そういう問題じゃなくて...」
「でね、この本格的な天体望遠鏡で怪しい光を見つけたらグッと拡大して詳細観察。この双眼鏡は広範囲をバーッとカバー。暗視ゴーグルは暗い物体の探索用。電波探知機は...まぁ正直に言うと雰囲気作りかな!ムード作りだね!」
石川がニッコリ笑う。
「最後のは正直に言うのね。珍しく」
「雰囲気大事だからね!キャンプはムードだよムード!演出が九割!」
「残り一割は何なのよ」
「気合いだよ!」
石川が電波探知機らしきもののスイッチをカチッと入れる。ピーピーピーピーピーと規則的な電子音が鳴り始める。夜の静寂に響く。
「お、いい感じじゃないですか!雰囲気出てきた!」
千葉が目をキラキラさせて拍手する。
「これただの金属探知機の音じゃない?完全に金属探知機よね?」
富山が冷静極まりない指摘をする。
「細かいことは気にしない!さぁ、観測開始だぁ!」
石川がビシッと立ち上がり、天体望遠鏡の位置を慎重に調整し始める。その様子を千葉が「お、プロっぽい」と言いながら手伝い、隣の夫婦も興味深そうに身を乗り出して見守る。富山は諦めきったように椅子に深ーく座り込み、コーヒーをズズッと啜る。
「あ、見えた見えた!これ木星かな?縞模様が!」
「どれどれ...おおお!本当だ、縞模様が見える!すごい!」
石川と千葉が交互に望遠鏡を覗き込む。二人ともテンションが高い。
「私にも見せてくださいな」
妻が興味津々で列に加わる。
「いいですよー!順番に見ていきましょう!並んで並んで!」
気づけば天体観測会の様相を完全に呈してきた。他のサイトからも「何やってるんだろう、楽しそう」という好奇の視線が向けられ始めている。焚き火の明かりが目立っている。
「あの、石川さん。UFOは?UFO探しは?」
富山が冷静に、諦めたような声で聞く。
「あ、そうだった!UFOだUFO!みんな、空を見上げて不審な光を探すぞぉ!全方位警戒だ!」
全員が一斉にバッと夜空を見上げる。満天の星空が広がっている。冬の澄んだ空気のおかげで、星々がキラキラと眩しいほどに瞬いている。天の川もうっすらと見える。
「うわぁ...綺麗だなぁ...」
千葉が感動したように呟く。声が震えている。
「冬の星空は本当に綺麗よねぇ。宝石箱みたい」
妻も感慨深げに目を細める。
「お、あれ流れ星!シュッと!」
ご主人が素早く指差す。確かに一瞬、白い光の筋が走った。
「いや、それは普通の流れ星でしょ。ただの流れ星」
富山がすかさずツッコむ。
「でも綺麗だったなぁ!願い事した!」
石川が嬉しそうに両手を合わせる。
そうこうしているうちに、他のサイトからもゾロゾロと人が集まってきた。若いカップル、ソロキャンパーらしき無口そうな男性、ファミリーキャンパーの一家。気づけば十人以上が焚き火の周りにワイワイと集まっている。人の輪が大きくなっている。
「すみません、何してるんですか?」
「UFO探してるんです!一緒にどうですか!?」
石川が満面の笑みで、まるで勧誘するかのように答える。富山が「あぁ、もうダメだこりゃ」という顔でガクッと頭を抱える。
「UFO!?マジで!?面白そう!混ぜてください混ぜて!」
若いカップルの男性が目を輝かせてグイグイ前に出る。
「いいですよー!みんなでUFO探しましょう!楽しいですよ!」
完全に怪しい集会と化してきた。焚き火を囲んで十数人が真剣に夜空を見上げている光景は、端から見れば相当シュールだ。新興宗教の集会みたいだ。
「石川、これ絶対怪しい集団だと思われてるわよ。通報されるわよ」
「大丈夫大丈夫!みんな超楽しそうだから!ほら、笑顔笑顔!」
確かに、集まった人々の顔には好奇心と期待がキラキラと浮かんでいる。誰も嫌そうな顔をしていない。
「あの...そろそろUFOを呼ぶ儀式とかしませんか?」
突然、ソロキャンパーの男性がボソッと提案する。全員の視線が一斉に彼に集中する。
「儀式!?」
「はい。UFOを呼ぶには、こちらから意思表示した方がいいかなと思って」
「天才か!」
石川が男性の肩をバンバン叩く。
「やりましょうやりましょう!UFO召喚の儀式!」
千葉も賛成する。
「ちょっと待って。儀式って何するの?まさか変なことしないわよね?」
富山が不安そうに聞く。
「えっとですね...みんなで手を繋いで輪になって、『UFOよ来い来い』って唱えるとか」
「それって完全にあれじゃない...新興宗教のあれ...」
「じゃあ、ペンライト振りながら『ウィーアー!ウィーアー!』って叫ぶとか!」
カップルの女性が提案する。
「それはコンサートでしょ」
富山が冷静にツッコむ。
「あ、そうだ!ホットワイン作ろう!宇宙人も酒好きかもしれないし!」
石川が突然閃いたように叫ぶ。
「なんでそうなるの!?論理の飛躍がすごいわよ!」
「いやいや、考えてもみろよ。遠い宇宙から地球まで来るんだぞ?疲れるだろ?疲れたら酒飲みたくなるだろ?人情だよ人情!宇宙人情!」
「宇宙人情って何よ...」
富山が頭を抱えるが、周りは「なるほど」「確かに」「一理ある」と妙に納得している。
「じゃあホットワイン作りましょう!宇宙人へのおもてなしです!」
隣の奥さんが賛成する。
「決まりだ!」
石川がテントからサッと赤ワインのボトル三本とスパイス類をドサドサと取り出してくる。準備がよすぎる。
「なんでそんなに準備してあるのよ」
「こういうこともあろうかと思ってな!」
大鍋にワインをドボドボと注ぎ、シナモンスティック、クローブ、スターアニス、オレンジの皮をドバドバと入れる。砂糖もガバッと。そして焚き火にゴトンと置く。
「うわぁ、本格的...」
みんなが感心する。
ワインが温まり始めると、甘くスパイシーな香りがフワーッと立ち上る。その香りが夜の冷たい空気に混ざり、周囲に広がっていく。
「いい匂いいい匂い...」
「これは美味しそう...」
口々に感想が飛び交う。
「さぁ、できたぞ!みんなで飲もう!そして宇宙人を待とう!」
石川がマグカップにホットワインを注いでいく。湯気がモクモクと立ち上る。
「美味しい!体が温まる!」
「最高ですねこれ!」
みんなが嬉しそうにホットワインを飲む。体が内側からポカポカと温まる。
「さぁ、みんな!手を繋いで輪になろう!そして心を一つにして宇宙人を呼ぶんだ!」
石川が立ち上がって号令をかける。
「マジでやるの!?」
富山が驚くが、もう誰も止められない。みんなが立ち上がり、手を繋いで大きな輪を作る。
「せーの!UFOよ来い!宇宙人よ来い!ホットワインあるぞー!」
「UFOよ来い!宇宙人よ来い!ホットワインあるぞー!」
全員で声を揃えて叫ぶ。その声が山々にこだまする。完全に怪しい集団だ。
すると、その時だった。
「ん?何あれ?」
ファミリーの子供が空を指差す。
山の稜線の向こうから、ユラユラと不思議な光が近づいてくる。オレンジ色で、明らかに飛行機とは違う動きだ。グニャグニャと蛇行している。
「うわぁぁぁぁ!来た!本当に来たぁぁぁ!」
石川が飛び跳ねる。千葉も「マジかよ!」と叫ぶ。
光はどんどん近づいてくる。そして信じられないことに、キャンプ場の上空でピタッと止まった。
「嘘でしょ...」
富山が呆然とする。
光が降りてくる。ゆっくりと。そしてキャンプ場の空き地に、シュゴォォォという音とともに着陸した。
円盤だ。完全に円盤だ。銀色に光る、典型的なUFOの形をした円盤が、目の前に着陸している。
「「「「「うわああああああああ!」」」」」
全員が声を揃えて叫ぶ。
すると、円盤の下部がシュッと開き、スロープが降りてくる。そして中から...
「おお、ええ匂いやないかい!ホットワインやろ!?」
関西弁だ。宇宙人が関西弁で喋っている。
姿を現したのは、身長150センチくらいの、灰色の肌をした、大きな黒い目の、いわゆる「グレイ」タイプの宇宙人だった。ただし、なぜかヨレヨレのTシャツを着ている。
「ちょ、関西弁!?」
石川が驚愕する。
「せや。ワイ、大阪の近くの星から来てん。あ、正確には銀河が違うけどな。まぁ細かいことはええわ」
宇宙人がスタスタと焚き火に近づいてくる。
「ほんま寒いわー。こっちの星、冬めっちゃ寒いやん。聞いてへんで」
「え、ええと...ホットワイン、どうぞ?」
富山が震える手でマグカップを差し出す。
「おお、ありがとうな姉ちゃん。気が利くやん」
宇宙人がマグカップをひったくるように受け取り、ゴクゴクと飲む。
「うんまぁぁぁ!これやこれや!ええスパイス使ってるなぁ!」
「あ、ありがとうございます...」
石川が困惑しながら答える。
「おかわり!」
「はいはい!」
石川が慌ててホットワインを注ぐ。宇宙人がまたゴクゴクと飲む。
「もう一杯!」
「どうぞどうぞ!」
三杯、四杯、五杯...宇宙人がどんどんホットワインを飲む。
「ちょ、飲みすぎじゃないですか?」
千葉が心配そうに聞く。
「ええねんええねん。ワイ、酒強いねん。銀河一や」
宇宙人がヘラヘラ笑う。顔が赤い。完全に酔っている。
「あの...なんで地球に来たんですか?」
隣のご主人が恐る恐る聞く。
「んー?観光や観光。あと、ここのホットワインが美味いって噂聞いてな」
「噂!?宇宙に噂が!?」
「せや。銀河ネットワークで情報回ってくるねん。『地球の日本の冬キャンプのホットワインが最高』って」
「そんなネットワークあるの!?」
みんなが驚愕する。
「当たり前やん。今時、銀河ネットワーク使ってへん星なんてないで」
宇宙人がまたホットワインをグビグビ飲む。もう何杯目か分からない。
「あの...大丈夫ですか?顔真っ赤ですよ?」
富山が心配そうに言う。
「だーいじょーぶだーいじょーぶ。ワイ、酒強...強い...ねん...」
宇宙人の目がトロンとしてくる。明らかに酔っている。
「やば、これ完全に酔っぱらってる」
千葉が呟く。
「さて、そろそろ帰るわ。ほんま美味かったで。また来るわ」
宇宙人がフラフラしながら立ち上がる。
「大丈夫ですか?運転できます?」
石川が心配そうに聞く。
「へーきへーき。オートパイロットあるし」
「でも明らかに酔ってますよ!?」
「だいじょぶやって!ほな、さいなら〜」
宇宙人がフラフラしながら円盤に向かう。スロープを登る...が、足元がおぼつかない。
「あ、危ない!」
と思った瞬間、宇宙人がスロープから転げ落ちる。
「いったぁぁぁ!尻もち...尻もちついたわ...」
「大丈夫ですか!?」
みんなが駆け寄る。
「だいじょぶだいじょぶ...よっと」
宇宙人がヨロヨロと立ち上がり、再びスロープを登る。今度はなんとか円盤に乗り込んだ。
シュゴォォォという音とともに円盤が浮き上がる。ただし、動きがおかしい。フラフラしている。
「あれ、絶対酔っぱらい運転だよね?」
千葉が心配そうに言う。
「宇宙人も飲酒運転ダメなんじゃないの?」
富山も不安そうだ。
円盤がフラフラと上昇する。左に傾き、右に傾き、グルグル回転し...
「あ」
そして、山の方向へヨロヨロと飛んでいき...
ドガァァァァン!
山に激突した。凄まじい音と閃光。
「うわぁぁぁぁ!墜落した!」
「やっぱり!」
全員が山の方を見る。山の中腹あたりが光っている。
「だ、大丈夫かな...」
「どうしよう...」
みんなが心配そうに顔を見合わせる。
すると、山の方から、ヨロヨロと宇宙人が歩いてくるのが見えた。
「いったぁぁぁ...痛いわぁ...円盤、壊れたわ...」
宇宙人がボロボロになりながら戻ってくる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だいじょぶちゃうわ!円盤壊れたんやで!?もう帰られへん!どないしよ!」
宇宙人が泣き始める。
「えっと...とりあえず、焚き火で温まってください?」
富山が優しく言う。
「うぅ...ありがとうな姉ちゃん...」
宇宙人が焚き火の前に座り込む。
「あの...これからどうするんですか?」
石川が恐る恐る聞く。
「さぁ...迎えの円盤呼ぶしかないな...でも、あいつら来るの三日後やで...」
「三日!?」
「せや。宇宙は広いねん。時間かかるねん」
「じゃあ...それまでここに?」
「そうなるな...泊めてくれへん?」
宇宙人が上目遣いで見る。
「え、ええと...」
石川たちが顔を見合わせる。
「まぁ、仕方ないか。泊まっていってください」
「ありがとう!ええ人やなぁ!」
宇宙人が感激する。
こうして、UFOを探しに来たキャンプは、まさかの宇宙人との共同生活に発展したのだった。
「なんか...予想と全然違う展開になったわね」
富山がため息をつく。
「でも、UFO見つけたぞ!目的達成!グレートだろ!?」
石川が嬉しそうに言う。
「確かに...グレートかも...」
富山も笑う。
「ところで、ホットワインまだある?」
宇宙人が聞く。
「まだ飲むんですか!?」
全員がツッコんだ。
焚き火の周りで、人間と宇宙人が一緒にホットワインを飲む。なんとも不思議で、グレートな夜だった。
余談・宇宙に戻る宇宙人
三日後、迎えの円盤が到着し、宇宙人は名残惜しそうに地球を後にした。
「ほな、またな!ホットワイン最高やったで!」
手を振りながら円盤は夜空へと消えていく。みんなが見送る中、突然—
ドガァァァン!
オリオン座の三つ星の一つに激突した。凄まじい閃光。そして、星が一つ...消えた。
「うわぁぁぁ!またか!」
石川が叫ぶ。
「あの宇宙人、本当に運転ダメなんじゃ...」
千葉が呆然とする。
「オリオン座が...二つ星に...」
富山が震える声で呟いた。
かくして、地球のキャンプ史上、最もグレートで、最も宇宙的な事件は幕を閉じたのであった。
完
『俺達のグレートなキャンプ190 冬の天体観測ついでにUFO見つけるか』 海山純平 @umiyama117
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます