旅とカメラロール

もとなん

軍港と歴史の街横須賀

第1話 軍港とワンピース

 高校に入学したばかりの多賀 日鞠(たが ひまり)は、一人旅の目的地に横須賀を選んだ。

 東京から横須賀線で1時間ほどで行ける街、横須賀。日鞠がこの街に来たのは、SNSで見た写真に惹かれたのがきっかけだった。


 JR横須賀駅に降り立つ。横須賀駅の古典的な風格の駅舎で、コンコースの天井は高い造りになっている。

 駅を出ると目の前には、横須賀港の灰色の艦船が並んでいた。

 駅を出て直ぐの所にヴェルニー公園がある。

 ヨーロッパの庭園のような公園にはバラが所々咲いていた。

そのバラの奥には、灰色の軍艦が見えていた。

(まだ少し早かったか…)

日鞠はもう少し遅く来るべきだったと思った。

 

 見頃には早いバラを見ながら、向かったのは軍港めぐりのクルーズ船乗り場。

 そこには黒と白の二階建てのクルーズ船が停泊していた。

 軍港めぐりは45分かけて横須賀港を一周してくれる。

 日鞠は軍艦がよく見える2階の座席に座った。

 潜水艦やイージス艦、近くで見ると大きな軍艦が並ぶ光景は、まるで映画のセットのようだった。

 その中でも一際大きな軍艦に日鞠は思わず貰った一眼レフを向けた。

「あの大きな船は、空母ジョージ・ワシントンですね」

 隣に立っていた、年代物のカメラを首から提げた初老の男性が、日鞠に話しかけてきた。

「あれはアメリカ海軍の空母ですよ。横須賀は、そういうものが日常にある不思議な街なんだ。」

 男性の言葉に、日鞠は頷いた。海と空と、そして巨大な船。そこには、日鞠の日常とは違う時間の流れがあった。

 

 クルーズを終え、港から一歩街中に入ると、日鞠の目に飛び込んできたのは、独特の雰囲気を持つドブ板通りだった。

 ミリタリーショップ、スカジャン専門店、米軍基地関係者向けのバー。

 どこか懐かしいアメリカンポップな音楽が流れ、道行く人々の服装も、日本のどの街とも違う。

 このような雰囲気は日鞠の日常にはなく新鮮であった。

 日鞠はワンピースの裾をひらめかせながら通りを歩いた。

 普段はモノトーンのシンプルな服が多いが、この旅では少し冒険してみようと、いつもは着ない鮮やかなブルーのワンピースを選んだのだ。

(今日の自分は、横須賀の空みたいだな)

 日鞠はショーウィンドウに映る自分を見て、ふとそんなことを思った。

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