第3話~対決編②~

その日の夕方。


私は所属している軽音楽部の部屋にて、楽譜を作っている。


軽音楽部ではキーボード兼譜面起こし担当を担っており、ギターやベースなど譜面も起こし、担当する曲を割り振っている。


元々バンドをすることが好きであり、私の憧れでもあった。


私の父は元バンドマンであり、ギターを担当していたこともあったため、小説家の夢を持ちつつ、父を喜ばせたい気持ちもあったため、この部に所属を希望した。


さくらも同じ部活に所属しており、彼女はドラムスを担当している。


譜面起こしに関しても、さくらは協力的であり、何度も一緒に夕方まで残ることが多い。


今回も超人気バンドのコピーをするため、私はキーボードやドラムスなどの譜面やリズムを考えてから、最後にギター・ベースの譜面をパソコンから起こしている。


これは大体の流れであり、ある意味のルーティンでもあるのだ。


今日も共に譜面を起こしていると


「ねぇ、光葉」


私はパソコンを打ちながらも


「どうした?」


「例の刑事。何考えてると思う?」


「分からない。でも何かを掴んでいるのは確かだと思う」


「今日、あれから一切来なかったんだよね。それが妙に気になってさ」


「私もよ。なんか怖いよね」


岡部が朝の事情聴取以来、一切目の前に来なかったのは、確かに気になる。


色々と捜査をしているのかもしれないけど、何かを掴んでいるのは確かだ。


あの刑事は色々と段階を踏んでいるのだろう。


それか私たちを泳がせているのかもしれない。


そう思うと、パソコンを動かす手が止まる。


すると扉が開き、顧問をしている〈井上〉が入ってきた。


「まだ残っているのか?」


「えぇ、まだ譜面を起こすのに時間がかかって」


「そうか。ちょっと君たちに話を聞きたいってお客が来てるんだ」


「お客?」


「あぁ」


すると井上の後ろから潜り抜けて、岡部が入ってきた。


岡部だという想像は付いていたため、特に驚きはしなかった。


一体何の用で来たのかも大体は想像がつく。


私は井上に


「先生。恐らく話はかなりディープなものなので、是非良かったら席を外していただけませんか?」


「あぁ分かった。一応近くの部屋にいるから何かあったら声をかけてくれ」


そう言って部屋を離れて行った。


流石に事件の話を顧問の前で出来るわけがない。


それに岡部が私たちを疑っていることは確かであるため、それを勘づかれてもかなり面倒なのだ。


さくらは冷静な表情で岡部に


「何の用で来たのですか?」


「いいのですか? 先生がいなくても」


私は立ちあがってから、近くの棚にパソコンを戻してから


「いいんです。聞かれちゃ色々と面倒なので」


「そうですか。それだったら、早速お話を」


さくらは席に座りながらも岡部の表情を見ながら


「事件に何か進展でもあったのです?」


「えぇ。実は犯人に結ぶ大きな手掛かりが見つかりました」


「それは興味深いですね」


「お二人にも是非とも聞いてほしい話で。実は亡くなった阿佐ヶ谷先生は、かなりパワハラの常習犯だったみたいですね。前の学校でもかなりパワハラで教師を辞職まで追い込んだことがあったみたいです」


「そうなんですね」


大体は想像がついている。


やはり小峰だけが被害者ではなかったのか。


そう思うと、なんだか被害者たちの無念が伝わってくる感覚を抱いた。


そんな奴は生きていても世間の邪魔になるだけだ。


殺しておいて正解だったなと私は感じた。


「お二人は小峰先生がパワハラを受けていたことはご存じでしたか?」


「いえ、知りませんけど」


私は一切表情を変えずに冷静のまま言った。


「そうですか」


「それがなんですか?」


「いえ、今回の事件はある意味、阿佐ヶ谷先生への復讐だと思うのです」


「復讐?」


「はい。なぜなら小峰先生の退職が決まり、学校を離れたタイミングでこの事件が起きています。恐らく犯人は小峰先生にとても尊敬心を持っている人物となります」


「だからなんですか?」


「それに、犯人は一つ大きなミスを犯しています」


「え?」


岡部は先ほどの冷静さから、微笑みに表情を変えて人差し指を立てた。


「私たちに、大きな手掛かりというポイントを残したミスです」


「どういう意味ですか?」


「犯人は何故、阿佐ヶ谷先生が音楽室に来ることを知っていたのでしょうか」


「・・・」


一瞬言葉が詰まった。


背筋が凍るということはこのことを意味しているのだろう。


さくらも冷静な表情なのだが、手足は震えだしている。


「確かに阿佐ヶ谷先生は、音楽室に毎晩通ってはピアノを弾いているという情報を聞いています。しかし、既に生徒は帰っているため、そのことを知るはずがない」


「だったら、先生の中に犯人がいるのでは?」


「それはあり得ません。事件当日に学校に残っていたのは阿佐ヶ谷先生含めて三人ですが、残りの二人は職員室におり、監視カメラでも確認が取れていますのでアリバイはあります。なので、残すは」


そう言って私たちの方を向いてきた。


これは私たちを犯人だと断言しているような表情だ。


それに関してはかなり心外だ。


まだ岡部の想像段階でもあるのに、犯人だと断言されると、こちらも堪忍袋の緒が切れそうになってきた。


私はさくらの方を向いてから、小さく頷いて岡部の方に顔を戻して


「あの、私たちが犯人だと言いたいみたいですけど」


「小峰先生を慕っている生徒は誰だと、他の先生方にお聞きした際、口を揃えてあなた方の名前が出てきました」


「それだけ犯人だと?」


岡部は黙って見つめている。


私はため息をついてから


「帰ってください。こちらも忙しいんです」


「ではまた」


「もう二度と来ないでください。出来れば」


「分かりました」


そう言って岡部はその場を離れて行った。


しかし、あの岡部の表情を見る限り、また来るに違いない。


私とさくらは黙ったまま、ただ誰もいない扉を見つめるだけであったのだ。

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