世界最強は目立ちたい。

@Green_Grapes

第1話

新宿駅の地下深く、厳重に封鎖された特級ダンジョンの前。


「わー、なんか今回の特級ダンジョン、内装がやたらと凝ってるね。やっぱ国もお金かけてるなー」


ボク、北上零きたがみれいは呑気に呟いた。隣に立つ天野凪あまのなぎは、プロフェッショナルとしての冷徹な表情を保っている。彼女は探索者管理局(ESA)のエリート職員で、ボクの専属監視役だ。


「北上さん。内装の心配より、特大災害級魔物ディザスターの心配をしてください。そして、くれぐれも過剰な力の行使は控えてください。あなたの能力が世間に知られたら、今の日本社会は大きく混乱します。」


「はいはい。ボクが原因なのに、相変わらず管理局は『原因不明の事象』という報告書を作るんだろ?」


ボクは軽い足取りでダンジョンの中へと足を踏み入れた。ボクの能力は『全知の領域アカシック・レンジ』。この世界のあらゆる概念を書き換えられる。これがボクの強さであり、政府がボクの存在を国家機密として隠蔽する理由だ。



――――――――――――――――――――――――――――――



特級ダンジョンの最下層。そこに待ち受けていたのは、都市一つを消滅させるほどの魔力を持つ巨大な特大災害級魔物ディザスターだった。


(この法則外の力を使って、どこまで世界を操作できるのか。それが今ボクの一番の興味だ。こいつを消すだけじゃつまらない。『攻撃性』の概念だけを無力化する、ボクの力の検証と行こうか)


ボクは人差し指を立てて、


概念改変コンセプト・シフト。リライト:『攻撃性』 → 『無効』」


ボクがそう思っただけで、世界が改変される。しかし、特大災害級魔物ディザスターは無力化したが、その力の微調整が次元の壁に微細な歪みを生み出してしまったことに、ボクは気づかない。


「はい。おしまい。つまんなかったな」


ボクはチラッと後ろにいる天野さんが驚いていないか確認し、驚いてないことを残念に思いつつも、スマホを取り出し、自分がやった証拠になるものがないか、辺りを写真で撮り始めた。


(今日の仕事のご褒美のクレープ楽しみだな。確か新作なんだよね!)



――――――――――――――――――――――――――――――



東京郊外の3級ダンジョン、『新八王子坑道』


蓮は『術式:重力操作』と、『術式:神速剣舞』を繰り出す有希との連携で、ロック・ウルフを叩き潰す。


「よし、これで今日のノルマ達成だ。有希、この調子で次の層のクリアタイムを縮めるぞ。一刻も早く特級に上がって、もっと強くならないと」


九条蓮くじょうれんは、ダンジョンによって家族を失った過去から、自分と同じ気持ちになる人をなくそうと、探索者になることを決めて半年ほど、圧倒的な才能で3級上位となった超新星だ。


「そうだね。蓮くん」


ロック・ウルフを斬った時に刀についた血を払いながら、有希は言う。


彼女、北上有希きたがみゆきは、北上零の妹であり、兄の圧倒的な才能の前に一度挫折しかけたが、あるきっかけから兄と肩を並べるため、探索者になろうと決意したという過去をもつ。


二人は探索を終えダンジョンの出口に向かっていた。


そのとき、二人の背後の空間が、パキ、パキと不自然に揺らぎ始めた。C級ダンジョンではありえない次元の亀裂が走り、特級の魔力が嵐のように吹き出す。


「嘘...だろ。特級!?」


亀裂から出現したのは、『ゴーレム・ロード』の片腕。


「...ッ、逃げろ、有希!」


蓮は有希を庇い、岩壁にたたきつけられる。


体のあちこちが悲鳴をあげつつも、頭で冷静に考える。


(あれが特級か、昔動画で見てて助かったな。せめて有希だけでも...)


特級の攻撃は3級では防げない、それが当然の理屈。むしろ命があるだけましなほうだ。


そんな特級を前に、蓮は限界の『重力操作』で、有希は渾身の『神速剣舞』で挑むが、その努力はゴーレム・ロードの圧倒的な耐久力と再生能力の前に無に帰す。


「蓮くん、避けて!」


蓮は迫りくるゴーレム・ロードの腕を見て、自分の死を確認する。


一瞬の油断。しかし、そんな油断は命をかける探索者にとっては命取りになる。


(俺の力ってこんなもんなのだったのか...)


その、蓮の命が消える寸前の瞬間だった。



――――――――――――――――――――――――――――――



特級ダンジョンの入り口。


天野さんはタブレットを操作しながら焦った声で言う。


「北上さん!あなたのせいで、3級ダンジョンに特級魔物が現れました。すぐに空間を修復してください!」


「大丈夫だって、問題は君の仕事が増えるぐらいだよ」


(まだ大丈夫だよね。あそこには有希もいたはずだし...)


すこし焦りながら、ボクは八王子坑道の座標に意識を集中させる。


概念改変コンセプト・シフト。リライト:『八王子坑道と新宿駅地下の空間接続』 → 『遮断』」


零が次元を修正した際、蓮と有希の戦場に、規格外の力が作用した。



――――――――――――――――――――――――――――――



蓮の身体から、突然、理不尽なほどの魔力があふれ出した。


ゴオオオォォォン!!!


蓮の『重力操作』が、ゴーレム・ロードの腕を内部から粉砕し、次元の亀裂は何事もなかったかのように消滅した。


蓮は、あまりの出来事にその場に崩れ落ちた。


「な、なんだ...今の力は...一瞬だけ、まるで別人のような威力になって...」


その衝撃に彼は、ある「都市伝説」を思い出す。それは、特級魔物が一撃で崩壊したとかいう、わけのわからないものだったが、読書好きな彼は、ある新聞で目にしたことがあったのだ。


「原因不明の事象なんかじゃない。誰かが、裏でこの空間に干渉したんだ。そんな存在が、いるのか...?」


蓮の眼には、努力では超えられない壁への探求心が灯っていた。



――――――――――――――――――――――――――――――



天野さんが疲れた顔でボクの顔を見据える。


「はぁ、あなたは今回の遊びすぎの罰として、買う予定だった『期間限定・ストロベリーパフェ』は没収します。」


「な、んだって...」


ボクはその場で膝から崩れ落ちた。


この世はなんて残酷なんだ...



――――――――――――――――――――――――――――――


小説1話目だったので、内容はできるだけ多く書きました。次回からはもう少し短いかも...


ぜひ、応援よろしくお願いします。

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