第34話 青の試薬と毒舌の錬金術師

 決闘騒ぎから数日が経過し、『古代遺物研究会』の部室は本格的な工房(アトリエ)へと変貌を遂げていた。


 部屋の隅には薬草の乾燥棚が並び、独特の香草の匂いが漂っている。

 その中心で、白衣を纏った少女――ミラが、真剣な眼差しでフラスコを振っていた。


「……抽出、完了。魔力触媒、添加します」


 彼女の手つきは精密機械のように正確だ。

 一滴の狂いもなく試薬を混合し、魔力を込めて攪拌する。

 ボワッ。フラスコの中身が鮮やかな青色に発光し、完成した。


【Item Info】


名称: 上級マナポーション (High Mana Potion)


等級: 良質+


効果: MP回復(中)、一時的な魔力活性化


「……できましたぁ! アルス様、純度95%の上級品です!」


 ミラが満面の笑み、猫なで声でポーションを差し出してくる。

 俺は『鑑定(18%)』の結果に満足して頷いた。


「素晴らしいな。これなら市場価格の倍で売れる」


【Target Analysis】


Name: ミラ (Mira)


Job: エンチャンター (Enchanter)


Aux Skills: [調合(100%)], [植物知識(80%)], [鑑定(40%)]


 彼女は本来、物質への付与術師(エンチャンター)だが、その才能を「液体への魔力定着(調合)」に全振りしているスペシャリストだ。


「へへ……ありがとうございますぅ。これもアルス様が素晴らしい環境を用意してくださったおかげです」


 ミラは頬を染めて身をよじる。

 だが、話題が前所属の『錬金術研究会』に及ぶと、その表情が一変した。


「それに引き換え、あのバロンとかいう無能な豚ときたら……。貴重な素材をドブに捨てるような調合ばかりさせて、脳みそが腐ってるとしか思えませんね。あんなゴミ溜めで時間を浪費していたかと思うと、反吐が出ますわ」


 ……口が悪い。

 彼女は「身内」と「それ以外」で態度が180度変わるタイプらしい。

 俺やには尻尾を振るが、敵対者や無能と判断した相手には容赦がない。


「まあ、そのゴミ溜めから君という宝石を拾えたんだ。バロンには感謝しないとな」

「! は、はいっ! 一生ついていきます!」


 チョロい。が、有能だ。

 俺は積み上げられた金貨の山(現在約12万ルム)を見ながら、次の計画を話し始めた。


「さて……資金もできた。ポーションの備蓄も十分だ。

 そろそろ**『バベル』の攻略**を再開するぞ」


 俺たちの目標はあくまで大迷宮バベルの踏破だ。

 現在は20階層の手前で足踏みしている。

 理由は、20階層を守るボス**『フレイム・ジャイアント(炎の巨人)』**だ。


「あのボスは火属性攻撃が強烈だ。突破するには、こちらも相性有利な『水属性』の装備と魔法で固める必要がある」


 俺は壁に貼った世界地図の、王都の東側を指差した。


「そこで、一旦バベルを離れ、東の**『霧の湿地帯 (Misty Wetlands)』**へ遠征する」


 推奨レベル35~45。

 水属性と毒属性の魔物が跋扈するエリアだ。

 ここで**『水属性の魔核(Bランク以上)』**を入手し、『携帯型・融合装置』で対炎巨人用の装備を作る。これが最短の攻略ルートだ。


「なるほど。急がば回れ、ですね」

「ああ。今の装置は火属性特化だ。汎用性を高めるためにも、水の魔核は必須だ」


 俺の説明に、レイラが補足する。


「湿地帯……。あそこには**『大水蛇(ヒュドラ)』**の伝承があります。再生能力が高く、猛毒を吐く厄介な相手です」

「毒か。フェル、お前は大丈夫か?」


 俺が振り返ると、フェルはミラが作った失敗作のポーション(異臭がする)をボリボリと齧っていた。


「ん? なんだ? 毒? ……腹壊さなきゃなんでも食うぞ」


【Aux Skill Check】


Target: フェル


Aux Skill: [毒耐性(80%)], [健啖(100%)]


 獣人の特性に「悪食」はないが、彼女は過酷な野生生活の中で、変なものを食いまくって耐性を獲得したらしい。

 [健啖(けんたん)]は、どんなものでも消化してエネルギーに変える補助スキルだ。

 これなら湿地帯の毒沼も問題ないだろう。


「……あんなゲテモノを平気で食うなんて、味覚がいかれてるんですか? 野蛮な獣の考えることは理解できませんね」


 ミラが冷ややかな目でフェルを見る。


「ああん!? 喧嘩売ってんのか白衣!」

「事実を申し上げたまでです。アルス様のペットなら、もう少し品性を身につけたらどうです?」


 ギャーギャーと騒ぎ始める二人。

 レイラがため息をつきながら仲裁に入る。


「ミラは留守番だ。ここでポーションの量産と、店番を頼む。俺たちが持ち帰る素材のために、倉庫を空けておいてくれ」

「は、はいっ! ゴミ掃除はお任せください、リーダー!」


 ミラが敬礼する。

 彼女の毒舌は、対外的な交渉(買い叩き防止)でも役に立ちそうだ。


 俺たちは準備を開始した。

 目的は『水属性のBランク魔核』の入手。

 全ては、バベル20階層のボスを「効率的」に処理するために。


【Mission Start】


Destination: 霧の湿地帯


Target: 大水蛇(ヒュドラ)


Objective: バベル攻略用の水属性素材確保


【Current Status】

Name: アルス・ブラッドベリー

Level: 32

Job: ブラッドロード / [偽装: バトルメイジ]

Party: アルス, レイラ, フェル, シア

Support: ミラ (Base / Enchanter)

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吸血鬼は遊び尽くす! ダルい @dull20190711

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